島田荘司(読み)しまだそうじ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「島田荘司」の意味・わかりやすい解説

島田荘司
しまだそうじ
(1948― )

小説家。広島県福山市生まれ。武蔵野美術大学商業デザイン科卒業。小学生のときから推理作家になると決めていたが、20代の頃は逆に活字から逃避した生活をしていたという。1980年(昭和55)「占星術マジック」で江戸川乱歩賞に応募するが、このトリックの元は「1万円札詐欺事件」のニュース報道にあった。「20枚の1万円札を切り離し、その一部を利用することでもう1枚余分にお札を作る詐欺です」といった曖昧な言い方しかしなかったアナウンサーの話に興味をもち、具体的にはどういう方法だったのかを考えていたところ、突然天啓のごとく小説ができあがったのだ。この作品は最終候補には残ったものの、惜しくも落選。しかし翌1981年『占星術殺人事件』と改題されて刊行されるや本格ミステリーファンの熱烈なる支持を得る。ここに初めて登場した名探偵御手洗(みたらい)潔は続く第二作『斜め屋敷の犯罪』(1982)でも不可能犯罪を見事に解明し、島田作品の代表的存在となる。御手洗シリーズには、ほかに『異邦の騎士』(1988)、『暗闇坂の人喰いの木』(1990)、『水晶ピラミッド』(1991)、『眩暈(めまい)』(1992)、『アトポス』(1993)、『御手洗潔のメロディ』(1998、短編集)などがある。

 もうひとりの主要キャラクターは、警視庁捜査一課の刑事吉敷(よしき)竹史で、こちらは『寝台特急「はやぶさ」1/60秒の壁』(1984)を筆頭に『出雲伝説7/8の殺人』(1984)、『北の夕鶴2/3の殺人』(1985)、『確率2/2の死』(1985)などトラベル・ミステリー風味の作品が続いていたが、自らの本格ミステリー論を実践した『奇想、天を動かす』(1989)あたりから様相ががらりと一変する。自身の本格ミステリー論は『本格ミステリー宣言』(1989)にまとめている。すなわち、物語の冒頭に幻想的で不可解な謎を提出し、その謎を論理的に解決していけば必ずや意外な結末になるという考え方である。『奇想、天を動かす』はそうした島田の主張を作品化した、文字通り奇想天外にして同時に社会派作品ともなっている力作であった。この流れはやがて『涙流れるままに』(1999)で頂点を迎える。1958年(昭和33)に起きた一家惨殺事件の真相と、吉敷刑事の別れた妻の過去というふたつの物語が語られるが、その強烈な吸引力はまさに島田荘司ならではのものであろう。またこの作品を刊行するしばらく前から、日本の死刑問題と冤罪事件に大きな関心を寄せ、『秋好事件』(1994)、『三浦和義事件』(1997)など現実の事件に材をとった作品を発表していた。ほかに『火刑都市』(1986)、『網走発遥かなり』(1987)、『都市のトパーズ』(1990)などの都市論を兼ねた小説や、日本人の精神性を論ずる批評集なども多い。

[関口苑生]

『『三浦和義事件』(1997・角川書店)』『『占星術殺人事件』『寝台特急「はやぶさ」1/60秒の壁』『出雲伝説7/8の殺人』『北の夕鶴2/3の殺人』『確率2/2の死』『奇想、天を動かす』『涙流れるままに』(光文社文庫)』『『斜め屋敷の犯罪』『異邦の騎士』『暗闇坂の人喰いの木』『水晶のピラミッド』『眩暈』『アトポス』『御手洗潔のメロディ』『本格ミステリー宣言』『火刑都市』『網走発遥かなり』(講談社文庫)』『『秋好事件』(徳間文庫)』『『都市のトパーズ』(集英社文庫)』『『島田荘司読本』(1997・原書房)』

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「島田荘司」の解説

島田荘司 しまだ-そうじ

1948- 昭和後期-平成時代の小説家。
昭和23年10月12日生まれ。昭和56年「占星術殺人事件」(江戸川乱歩賞最終候補作)で作家デビュー。「御手洗潔シリーズ」「吉敷竹史シリーズ」などのほか,「秋好事件」など社会派ノンフィクション・ノベルも発表。「新本格」ミステリーの流れを作り,新人作家の名付け親になって後押しをしたことでもしられる。19年「ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」が創設され,選考委員をつとめる。長年,賞とは縁がなかったが,21年「わが国のミステリー文学の発展に著しく寄与した」として日本ミステリー文学大賞を受賞。広島県出身。武蔵野美大卒。

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