岳翁蔵丘(読み)がくおうぞうきゅう

改訂新版 世界大百科事典 「岳翁蔵丘」の意味・わかりやすい解説

岳翁蔵丘 (がくおうぞうきゅう)

室町後期の画僧生没,伝歴,法系などは不詳であるが,了庵桂悟(1425-1514)などの五山禅僧との交友関係から,およそ同時代の画僧と思われる。蔵丘は諱(いみな)。1486年(文明18)以前に周文系統の水墨画風を継承し,1514年(永正11)まで作画していたことがわかる。一時伊勢方面で制作した形跡がある。画風は緻密な馬遠風の周文様式に夏珪様の湿潤で粗放なものを加えて新しい境地をつくっている。景物を遠視的にとらえず,近景に視点を向けさせる手法は新鮮で,周文の後継者中にあっては出色の画人である。現存作品としては《山水図》(東京国立博物館,正木美術館),《洞山訪隠図》(静嘉堂),《武陵桃源・李白観瀑図》(出光美術館)などがある。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「岳翁蔵丘」の意味・わかりやすい解説

岳翁蔵丘
がくおうぞうきゅう

生没年未詳。室町後期の画僧。出自、伝歴、法系など不明であるが、現在まで20点近く知られるその遺作のなかには、京都東福寺の高僧了庵桂悟(りょうあんけいご)(1425―1514)が著賛したものが多いことから、おそらく東福寺に関係の深い画僧であったと推定され、文明(ぶんめい)(1469~87)から永正(えいしょう)(1504~21)にかけてかなり長期に活躍したことが知れる。また同じく東福寺の季弘大叔(きこうたいしゅく)(1421―87)が記した『蔗軒(しょけん)日録』の文明(ぶんめい)18年(1486)5月の条には、蔵丘の名と彼の描いた『江山佳処図』が記載され、しかも蔵丘を周文の弟子としていることから、これ以前に周文系統の水墨画法を受け継いだものと思われる。画(え)は、周文様式にいっそうの柔軟さを加え、墨色の豊かなものが多い。代表作に『山水図』(東京国立博物館)、『山水図』(大阪府忠岡(ただおか)町・正木美術館)などがある。

榊原 悟]

『松下隆章著『日本美術絵画全集2 如拙・周文』(1981・集英社)』

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朝日日本歴史人物事典 「岳翁蔵丘」の解説

岳翁蔵丘

生年:生没年不詳
室町中期の禅僧,画家。季弘大淑の日記『蔗軒日録』の文明18(1486)年に,岳翁の描いた「江山画軸」が記録され,「山水二楽斎図」(個人蔵)に,了菴桂悟による永正11(1514)年の賛があるので,15世紀後半から16世紀初頭にかけてのかなり長い活躍が想定される。周文の画風を継承し,かなり重要な地位を占めたと思われる。現在までに約20点の作品が知られ,そのほとんどは水墨山水画である。明解な幾何学的構成と繊細な描法に特色がある。代表作は「瀟湘八景図屏風」(香雪美術館蔵),「山水図」(東京国立博物館蔵)他。<参考文献>田中一松「岳翁蔵丘の史的位置」(『日本絵画史論集』)

(山下裕二)

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百科事典マイペディア 「岳翁蔵丘」の意味・わかりやすい解説

岳翁蔵丘【がくおうぞうきゅう】

室町時代の画僧。伝歴は不明。文明末〜永正年間ころ,周文様式を継ぐ山水画家として活躍,京都で了庵桂悟ら高僧との交遊が厚く,了庵賛のものが多い。正統的な構成で墨気豊かで凛乎(りんこ)とした趣を特徴とする。東京国立博物館その他に山水図数点が伝わる。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「岳翁蔵丘」の意味・わかりやすい解説

岳翁蔵丘
がくおうぞうきゅう

室町時代の水墨画家,禅僧。周文の弟子。経歴は不明であるが東福寺の了庵桂悟 (1425~1514) と関係が深く,また伊勢に多く画跡が伝わる。遺品は山水図が多く 10点をこえる。確認される活躍期は文明 14 (1482) ~永正 11 (1514) 年。文清と天遊松谿の様式を継ぐが,筆致は煩瑣で空間構成も曖昧。夢幻性と通俗性の入り交った画風を示す。

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「岳翁蔵丘」の解説

岳翁蔵丘 がくおう-ぞうきゅう

?-? 室町-戦国時代の画僧。
周文や南宋(中国)の夏珪(か-けい)などの影響をうけ,墨色の変化にとんだ山水画をえがく。作品に東福寺の了庵桂悟(1425-1514)の賛があるところから,東福寺とかかわりがあったとおもわれる。作品に「山水図」。

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