山神(読み)サンジン

デジタル大辞泉 「山神」の意味・読み・例文・類語

さん‐じん【山神】

山に鎮座する神。やまのかみ。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「山神」の意味・読み・例文・類語

やま‐の‐かみ【山神】

〘名〙
① 山を守りつかさどる神。やまがみ。
書紀(720)景行四〇年是歳(北野本訓)「五十(いふきやま)に至(いた)るに、山神(やまノカミ)大蛇(をろち)に化(な)りて道(みち)に当(あた)れり」
梅津政景日記‐慶長一七年(1612)四月一〇日「山の神にて、かふきの跡に山中のすまふを集、見物致候」
③ 山の精。やまこ。魑魅(ちみ)
※龍光院本妙法蓮華経平安後期点(1050頃)二「処処に皆、魑(ヤマノカミ)・魅(さはのかみ)魍魎(みつは)夜叉・悪鬼有りて、人の肉を食噉す」
④ 妻。特に、結婚後年を経て口やかましくなった自分の妻のことをいう。
※虎明本狂言・花子(室町末‐近世初)「われらも人をばさいさいやり候へども、れいの山のかみが、すこしの間もはなさぬに依て」
⑤ (遊女にとって口やかましく恐い存在であるところから) 遣手(やりて)
※黄表紙・今様吉原たんか(1776)上「くるわの内の山のかみ」
⑥ 神楽舞に登場する女神。
※黄表紙・浮世操九面十面(1792)「今の世に十二神楽の山(ヤマ)の神(カミ)杓子を持って騒ぐ」
⑦ カサゴ目カジカ科の淡水魚。日本には筑後川の付近にしか生息しないが、中国や朝鮮半島の川の下流に多く見られる。特に揚子江下流の松江では、昔から松江鱸魚として有名。河川の上・中流域に生息し、冬に産卵のため河口域に下る。
⑧ 魚、蓑笠子(みのかさご)・鰍(かじか)などの異称
[語誌]①は農民に豊かな実りを約束する守り神であり、民衆にとって最も近しい土着神(地祇)の代表であった。それだけに、天皇を中心とする神々(天神)の系統からは異端視され、③のように妖怪扱いを受けることもあった。

さん‐じん【山神】

〘名〙 山に鎮座し、その山を支配する神。山の神。
経国集(827)一〇・入山興一首〈空海〉「上也苦下時難、山神木魅是為癉」 〔李端‐晩次陵詩〕

やま‐がみ【山神】

〘名〙 山を守る神。山を支配する神。山の神。
※梵舜本沙石集(1283)五本「又百足と、山神〈きと云けだものなり〉と、蛇と知音にて、山にすみけるが」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

改訂新版 世界大百科事典 「山神」の意味・わかりやすい解説

山神 (さんじん)

山神の属性は地域によって異なっていることが多く,一律に論じがたい。大筋において分類しても,(1)山自体を神とみなす場合,(2)特定の山を支配・管掌する神を認める場合,(3)山に住む諸霊を畏怖する例などがある。(1)は自然崇拝一環としての山岳信仰であるが,アメリカ・インディアン諸族が特異な形をした山や岩を神そのものとみなして信仰の対象としたことや,日本古来の神体山崇拝などがその例である。(2)では,インドのトダToda族が,彼らの神々がそれぞれ周辺の峰々を個別に占めているとして,それぞれ頂上に環状列石(ストーン・サークル)や石塚(ケルン)などを築く事実や,アフリカのマサイMasai族が,彼らの神ヌガイNgaiはキリマンジャロの雪をすみかにしていると信じていることなどがあげられよう。(3)では,山に住むとされる精霊や霊鬼を恐れて,人々が山に近づかないといった場合がある。ニューギニアのコイタKoita族は,山の精霊を恐れて近づかないが,山の近くに生えている木で作った槍を手にすると山に入っても危険ではないという。(1)の性格をもつ山神が(2)に変化することがある。チベットではかつてカンチェンジュンガ山はそれ自体崇拝の対象であったが,後になるとカンチェンジュンガなる神のすみかとみなされるにいたった。

 日本の民間信仰における山神は一般に〈山の神〉と称されるが,農民と山民(炭焼き,猟師,きこりなど)とではその性格を異にしている。農民の信奉する山の神は,春先に里に来て田の神となり,秋の収穫後に山に戻って山の神になるといわれる。他方山民が崇拝する山の神は田の神になるとは考えられていない。山の神は地域により男神とされる場合と女神とされる場合とがある。神道では男神の場合は大山祇神(おおやまつみのかみ),女神の場合は木花開耶姫(このはなのさくやびめ)とする。山神の祭日は地方によって異なるが,月の7,9,12日としていることが多い。山の神の日には山に入ることをタブーにしている地方が多い。
山の神
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

普及版 字通 「山神」の読み・字形・画数・意味

【山神】さんしん

山の神。

字通「山」の項目を見る

出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報

世界大百科事典(旧版)内の山神の言及

【山水】より

…唐末に風景という用語もあるが,それは風と光とを意味し,中国人は自然をそこまで非実体化し抽象化することはなかった。《山海経(せんがいきよう)》は山々に神々が住むことをいうが,竜身,蛇身,魚身の神々も多く,山神であると同時に水神でもあろう。神話的世界の神としては洪水神が最も古いが,夏系の鯀(こん)や禹が魚身から熊に変じて治水を行ったとか,竜身の共工という洪水神をもつ羌(きよう)族は嵩(すう)岳を祖神とするといったように山神・水神は対をなしているようで,苗系の女媧(じよか)・伏羲(ふくぎ)の説話のように破壊と復活を意味し,山水は神と帝,聖と俗といった観念でとらえられていたかもしれない。…

【山】より

…律令国家も〈雑令〉国内条で〈山川藪沢の利は,公私共にせよ〉と規定しただけで,山地は一般に官・民の共同利用に任せ,国家的用途と民業を妨げない範囲で,王臣,社寺,豪民らの私的な占取と用益を認めていた。そのうち聖地として占取された山陵,墓山,神山,寺山は排他的な独占性が強く,入山,狩猟,伐木が禁じられていた。また朝廷も官採の鉱山など公用の山地を〈禁処〉とした。…

※「山神」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

焦土作戦

敵対的買収に対する防衛策のひとつ。買収対象となった企業が、重要な資産や事業部門を手放し、買収者にとっての成果を事前に減じ、魅力を失わせる方法である。侵入してきた外敵に武器や食料を与えないように、事前に...

焦土作戦の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android