山伏神楽(読み)やまぶしかぐら

精選版 日本国語大辞典 「山伏神楽」の意味・読み・例文・類語

やまぶし‐かぐら【山伏神楽】

〘名〙 修験者が神霊を慰め、人々の娯楽に供するために演じる神楽東北地方などでは、年末から新春にかけて神楽を演じて回る。《季・冬》

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デジタル大辞泉 「山伏神楽」の意味・読み・例文・類語

やまぶし‐かぐら【山伏神楽】

東北地方山伏が伝えた神楽。御神体獅子を舞わす権現舞ごんげんまいほか多くの演目があり、地方によって能舞・番楽ばんがくなどという。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「山伏神楽」の意味・わかりやすい解説

山伏神楽
やまぶしかぐら

山伏(修験(しゅげん)者)が伝えた神楽。東北地方の青森、岩手、秋田、山形県下に広く行われている。岩手県の大償(おおつぐない)神楽には1488年(長享2)の神楽に関する文書が伝わっており、その歴史は室町時代以前にさかのぼると思われる。修験道を背景とするだけに、黒森(くろもり)、早池峰(はやちね)、鳥海(ちょうかい)、太平(たいへい)山など信仰の対象となった山の麓(ふもと)の村々にまとまった分布がみられる。大別すると太平洋側では山伏神楽あるいは権現舞(ごんげんまい)といい、日本海側では番楽(ばんがく)あるいは獅子舞(ししまい)の名でよぶ。下北(しもきた)半島の能舞(のうまい)もこの系統の神楽であるといってよい。かつてこれらの神楽は11月になると村を出て近郷近在巡業して歩き、日中は各戸の門(かど)ごとに権現舞を舞って門打(かどう)ちをし、夜には民家の板の間を舞台に神楽を演じた。巡業を通り神楽、まわり神楽といい、いまでも岩手県の黒森神楽が1月から2月にかけてこれを行っている。演目数は全部あわせると100番を超え、狂言は数十番を数える。それらは式舞、神舞(かみまい)、番楽舞(武士舞)、女舞、道化舞(どうけまい)に分類できるが、山伏神楽は神楽というだけあって式舞や神舞の要素が強く、番楽はその名のとおり番楽舞を得意とする。山伏神楽、番楽ともに権現舞(獅子舞)を最重要としているのは、権現さま(獅子頭(ししがしら))が修験道の垂迹(すいじゃく)思想に基づく神であるからにほかならない。現在では舞台を神社、宿、公民館などに設け、正面奥に幕を張る。演者は幕の背後から登場し、また幕内に退場する。囃子(はやし)は太鼓、笛、銅拍子(どうびょうし)の3種を基本とし、これに拍子木(ひょうしぎ)が加わることもある。山伏神楽は中世的雰囲気の色濃く感じられる芸能で、とりわけ大成前の能のおもかげを今日に残すものといわれている。

[高山 茂]

『本田安次著『山伏神楽・番楽』(1971・井場書店)』

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改訂新版 世界大百科事典 「山伏神楽」の意味・わかりやすい解説

山伏神楽 (やまぶしかぐら)

民俗芸能。東北地方に山伏が伝えた神楽。同系の神楽を日本海岸の秋田・山形では番楽(ばんがく),青森では能舞(のうまい),宮城では法印神楽(ほういんかぐら)などとも呼ぶ。古くは山伏の一団が農閑期や正月に,権現(ごんげん)様と呼ぶ獅子頭を神座として奉じ,檀家の家々をまわって火伏せや悪魔祓いの祈禱をした。その夜,民家のひと間を舞台に借り,後方に幕を張って数番から数十番の古風な能や激しい舞,狂言などを演じた。現在,岩手県の早池峰(はやちね)山麓の花巻市大迫町大迫の大償(おおつぐない)の大償神楽や同市大迫町内川目の岳(たけ)の岳神楽は国指定重要無形民俗文化財になっている。演目は権現をまわす権現舞に始まり,式舞として《露払》《鳥舞》《御神楽(みかぐら)》《翁》《三番叟》《松迎(まつむかえ)》など,女舞に《年寿(ねんじゆ)》《機織(はたおり)》《橋引》《鐘巻》《蕨折(わらびおり)》《塩汲》《木曾》など,番楽舞(武士舞)として《信夫(しのぶ)》《鈴木》《八島》《鞍馬天狗》など,神舞として《山の神》《岩戸開》《五穀》《水神》《注連切(しめきり)》《天降》《八幡》《尊揃(みことぞろえ)》など,曲芸風の舞として《盆舞》《杵舞》《三本劔》《折敷(おしき)舞》など総計100番近い曲を伝える。ほかに狂言として《田植》《献上物納め》《鍛冶屋》などを残す。演目はいずれも激しい舞を中心とするが,簡素な語りによる曲もあり,沙門(しやもん)と呼ぶ間語りも出る。楽器は太鼓,笛,銅拍子(手平鉦(てびらがね))の所が多く,ほかにささら竹を用いる所もある。式舞の《翁》が鳥甲(とりかぶと)をつけるなど,能楽大成以前の古い猿楽能の様式を山伏が神楽の場に伝承したと思われる。岩手県内では前記の大償,岳のほか,宮古市山口の黒森神楽,花巻市膝立円万寺の円万寺神楽,二戸市福岡町の上斗米の神楽をはじめ多くの地で演じられている。
番楽
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世界大百科事典(旧版)内の山伏神楽の言及

【番楽】より

…民俗芸能。東北地方に伝承する山伏神楽で,番楽は秋田,山形での名称。また神楽舞の種類名。…

【ひやま】より

…民俗芸能。山形県飽海(あくみ)郡遊佐町杉沢に伝えられる番楽(ばんがく)(山伏神楽)で,ひやま番楽とも杉沢比山とも称する。国指定重要無形民俗文化財。…

【民俗芸能】より

…長年全国を踏査して多くの研究成果をあげた本田安次(1906‐ )は,これを整理して次のような種目分類を行った。 (1)神楽 (a)巫女(みこ)神楽,(b)出雲流神楽,(c)伊勢流神楽,(d)獅子神楽(山伏神楽番楽(ばんがく),太神楽(だいかぐら)),(2)田楽 (a)予祝の田遊(田植踊),(b)御田植神事(田舞・田楽躍),(3)風流(ふりゆう) (a)念仏踊(踊念仏),(b)盆踊,(c)太鼓踊,(d)羯鼓(かつこ)獅子舞,(e)小歌踊,(f)綾踊,(g)つくりもの風流,(h)仮装風流,(i)練り風流,(4)祝福芸 (a)来訪神,(b)千秋万歳(せんずまんざい),(c)語り物(幸若舞(こうわかまい)・題目立(だいもくたて)),(5)外来脈 (a)伎楽・獅子舞,(b)舞楽,(c)延年,(d)二十五菩薩来迎会,(e)鬼舞・仏舞,(f)散楽(さんがく)(猿楽),(g)能・狂言,(h)人形芝居,(i)歌舞伎(《図録日本の芸能》所収)。 以上,日本の民俗芸能を網羅・通観しての適切な分類だが,ここではこれを基本に踏まえながら,多少の整理を加えつつ歴史的な解説を行ってみる。…

※「山伏神楽」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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