属人法主義(読み)ぞくじんほうしゅぎ(英語表記)doctrine of personal law

精選版 日本国語大辞典 「属人法主義」の意味・読み・例文・類語

ぞくじんほう‐しゅぎ ‥ハフ‥【属人法主義】

〘名〙 国際私法上、原則としてその人の属している地域法律を適用する主義属人主義。⇔属地法主義

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改訂新版 世界大百科事典 「属人法主義」の意味・わかりやすい解説

属人法主義 (ぞくじんほうしゅぎ)
doctrine of personal law

法の属人性の原則,すなわち,ある人に最も密接な関係をもつ固有の法を適用するという国際私法上の一つの主義で,属地法主義に対する。フランク王国の時代においては各人はその属する部族の法に従って生活しており,相異なる部族の者との間の法的紛争においては各自の属する部族の法を明らかにする〈法の宣言〉により問題が解決されていた。これがいわゆる部族法時代であり,人の属する法に従っていたので属人法主義の時代とよばれる。その後は部族の法ではなくいずれかの領域の法が中心となり,この意味での属人法主義は消滅したが,人種宗教等により法を異にする人的集団の間の法抵触については人際法の形でその影響が残存している。現代における属人法主義は,したがって一定の領域の法がその国境を越えて人に追随する場合を指すが,これは中世の法規分類学派の〈人法statuta personalia〉の観念に由来する。国際私法上は歴史的にみると,属人法の適用をその一般的原則と考える立場と,一定の法律関係について属地法に対する意味での属人法を適用する立場とがある。前者は19世紀後半にイタリアマンチーニを中心として主張されたものであり,法の民族性を強調し,一定の例外を除き属人法が法律関係を支配するものと考えた。今日においてはこのような属人法を誇張する考え方はしりぞき,後者の考え方に従い身分関係を中心とする一定の法律関係について,その人に最も密接な関係を有するその身についた固有の法としての属人法を適用することだけがなお認められている。しかし属人法という言葉自体は属人法として適用される準拠法自体を指す場合と,人の身分・能力を規律対象とする法を指す場合に分かれる。後の場合が前述のいわゆる新イタリア学派に由来する観念である。なお属人法の決定基準としては伝統的に国籍住所が争われているが,それが属人法であるか否かにつき疑いは残るものの,近時はそれに代えて一定の法律関係について常居所地の法も適用される。属人法は通常自然人について問題とされるが,法人について主張されることもある。国際私法以外の法分野,たとえば刑法や国際法等においても属人主義という言葉が用いられることがある。
国際私法 →本国法主義
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百科事典マイペディア 「属人法主義」の意味・わかりやすい解説

属人法主義【ぞくじんほうしゅぎ】

国際私法上の一主義。属人法とは人に追随して人がどこにいっても適用される法で,住所地法(当事者が住所を有する土地の法)を原則とする説と,本国法(当事者が国籍を有する国の法)を原則とする説がある。後者の説を主張する立場を特に属人法主義と呼び,19世紀半ばイタリアで起こった(新イタリア学派)。なお特定の事項に属人法を適用する主義を属人法主義ということもあり,日本では人事・親族・相続について本国法の管轄に属するとしている(法例3〜6条,13〜26条)。また人の住所,国籍にかかわらず,法の支配する領域においては,原則としてその領域の法を適用すべきであるという主義を国際私法上の属地法主義という。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「属人法主義」の解説

属人法主義(ぞくじんほうしゅぎ)

属人主義ともいう。人の法的な地位・能力や親族関係などについて,世界のどこで問題になっても,その人の所属する国家,法域の法律を適用するという考え方。属地法主義に対する。人と結びついたそのような法律を属人法というが,何を属人法とするかについては,国籍をもとに本国法とするものと住所をもとに住所地法とする考え方があり,わが国では主に前者によっている。最近では,新たに常居所(じょうきょしょ)の概念をもとにした常居所地法も用いられている。

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世界大百科事典(旧版)内の属人法主義の言及

【刑法】より

…刑法とは,犯罪と刑罰に関する法であり,どのような行為が犯罪となり,その犯罪にどのような刑罰が科せられるかを規定した法である。それは,まず,六法全書に〈刑法〉(1907年法律第45号)という名称で収録されている法律,すなわち刑法典である。そこには,殺人罪,窃盗罪などの典型的な犯罪とそれに対する刑罰がほぼ網羅的に規定されている。これを〈狭義の刑法〉または〈形式的意味の刑法〉という。しかし,犯罪と刑罰に関する法は,刑法典に限られない。…

※「属人法主義」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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