屋内配線(読み)おくないはいせん(英語表記)indoor wiring

日本大百科全書(ニッポニカ) 「屋内配線」の意味・わかりやすい解説

屋内配線
おくないはいせん
indoor wiring

建築物内に施設される電気配線の総称。ただし、冷蔵庫、ルームクーラーなどの機器の内部配線、および機器に付属する移動電線類(コード類)は含まれない。使用される電気の性質により強電力線回路(強電)と弱電力線回路(弱電)とに大別されるが、強電力線回路だけを屋内配線とすることもある。強電とは電灯照明器具やエレベーターなどの機器に電気エネルギーを供給するための配線をいい、弱電とは電話線、テレビ配線などの情報伝達、および各種の計測、制御の配線をいう。強電と弱電との区分は、普通、使用電圧で行われ、60ボルトを超え電力伝送に使用される電気回路を強電とし、60ボルト以下の電力エネルギーの小さい回路と、電力エネルギーの伝送を目的としないものを弱電とする。これを人体に比較すれば、強電は血管に相当し、弱電は神経系統に類似した働きをするといえる。しかし、現在では電気機器や設備の多様化により、強電、弱電と明確に分離しにくいものも出現しつつある。

[越野一二・市川紀充]

配線の系統

屋内配線の系統の構成は、電源から負荷まで効率よく、しかも保守や運転が容易で、安全に電気の伝達を可能にする形態が要求される。現在もっとも普遍的な配線系統方式は、電源から幹線へ、幹線から分岐回路へと順次枝分れして区域ごとの電気負荷に配線する方法である。日本国内で電力会社から電気の供給を受ける場合は、一つの需要場所へは一つの電源の供給しか受けられないことになっており、これを「一使用区域一引込みの原則」といっている。これは配電系統が需要場所内で交錯することによる危険を防止し、また電気計量を確実にするためであり、配線系統は樹木のように、1本の根元から幹へ、さらに幹から枝へという形をとっている。超高層ビルのような巨大な負荷群では、幹線も大きくなり、1条だけでは技術的にも経済的にも問題となるので、負荷を上下垂直に数階ごとのグループに分けるか、平面的に数か所に分割し、それぞれのブロックに幹線を設備している。このような場合、大電力を使用電圧(低圧)で負荷まで配電すると、電線を極端に太くしなければならない。断面積の小さな導体で大電力を伝達するには、線路電圧を高くすることを必要とするので、3000~6000ボルトの高圧電気を採用し、これを高圧屋内配線といっている(400ボルトのこともある)。高圧屋内配線では、幹線の末端分電盤が設備される。

[越野一二・市川紀充]

分岐回路

分電盤は分岐回路と幹線の接続点にあたり、数~十数の分岐回路をつくる分岐開閉器が収納される。分電盤は金属または合成樹脂製の箱で、鋼板製では厚さ1.2ミリメートル以上、合成樹脂製では難燃性の厚さ1.5ミリメートル以上の耐アーク製のものから構成される。1分岐回路に接続する負荷の数は、理論的には無制限であるが、実際的には過電流や短絡事故などの場合に、故障部分の範囲を限定し、被害が設備全体に及ぶことを防ぐため、分岐回路の電流を制限する方法がとられる。小容量負荷の分岐回路は15~35アンペアの定格の配線用遮断器により保護され、接続される負荷の総電流量は遮断器の定格電流以下となるように設定する。一般住宅などの電灯、および定格容量2キロワット未満の小型機器では、対地電圧は単相2線式100~150ボルト、または単相3線式100~200ボルトである。住宅以外のビルなどの電灯や小型機器への配線は、単相2線式100ボルト、単相3線式100~200ボルト、および三相3線式100ボルトなどを用い、動力用には普通三相3線式200ボルトが用いられる。また、省エネルギー、省資源を目的とし、大容量の負荷群には三相4線式200~400ボルト配線が採用されることもある。この場合、配線に人が容易に触れるおそれのないように施設し、対地電圧は300ボルト以下とする。冷房機器などの大容量の負荷には三相3線式3000ボルト、または三相3線式6000ボルトで配線される。

[越野一二・市川紀充]

工事

屋内配線の工事の種類は、低圧では、碍子(がいし)引き工事、合成樹脂線樋(せんぴ)工事、合成樹脂管工事、金属管工事、金属線樋工事、可撓(かとう)電線管工事、金属ダクト工事、バスダクト工事、フロアダクト工事、ライティングダクト工事、セルラダクト工事、およびケーブル工事などである。また、高圧屋内配線は碍子引き工事とケーブル工事に限られている。現在もっとも多く採用されているのは金属管工事とケーブル工事である。金属管には亜鉛めっきを施した鋼管が使用され、管壁の肉厚により厚鋼管、薄鋼管、および肉厚の薄いねじなし管などがある。また、黄銅管あるいは銅管の使用も許されている。金属管の特長は、管内に収容される電線を外傷から保護する能力に優れ、必要に応じて電線を交換することが容易なことにある。ケーブル工事は適応範囲の多い工法で、屋内外を通じて広く施工されており、屋内分岐配線にはビニル絶縁ビニル被覆のVVFケーブル(vinyl insulated vinyl sheathed flat-type cable)、VVRケーブル(vinyl insulated vinyl sheathed round-type cable)が使用され、前者はFケーブルといわれている。Fケーブルでの施工では、支障のない限り任意の場所にケーブルを引き回すことができるうえに、ステップルで支持するだけの簡便性により、多くの場所で採用される。住宅工事ではほとんどがVVF工事で施工されている。

[越野一二・市川紀充]

電線・ケーブル

使用される絶縁電線には、引込み用ビニル絶縁電線(DV電線。D:drop wire、V:ポリ塩化ビニルPVC)、600ボルトビニル絶縁電線(IV電線。I:indoor、V:PVC)、600ボルトゴム絶縁電線(RB電線。R:rubber、B:braid)、高圧絶縁電線、引下げ用高圧絶縁電線、蛍光灯電線、接地用絶縁電線、回路用絶縁電線などがある。太さは、強電で直径1.6ミリメートル以上、弱電で直径1.2ミリメートル以上。ケーブルは、ビニル外装ケーブル、クロロプレン外装ケーブル、ポリエチレン外装ケーブル、鉛被またはアルミ被のあるケーブル、キャブタイヤケーブルおよびMIケーブルなどがおもなものである。

[越野一二・市川紀充]

屋内設備

新材料の開発、新技術の応用は一般家庭にまで浸透しつつある。従来のスイッチコンセントソケットなどの簡単な配線器具にとどまらず、照明調光装置、自動開閉ドア、漏電警報遮断装置などに加え、室内空調自動調整装置、各種防犯装置なども設備されるようになり、これらを複合することで、さらに複雑多岐になりつつある。また、コンピュータとそのソフトウェアの進歩は、さらに多様な需要家(使用者)の要求を満たす方向にある。

[越野一二・市川紀充]

法規

屋内配線は生活の場に密接して設備されるので、法律により安全の確保が図られている。電気事業法を基本法とした「電気設備技術基準」では、設備全般についての設計、施工についての水準が規定されている。「電気用品安全法」では、電気設備を構成する各種材料の構造、性能の基準が定められている。指定された品目について当局の認可を受けたものには、それぞれ印が表示され、それ以外のものは製造販売ならびに使用が禁ぜられている。「電気工事士法」では、施工者の技術水準を維持するため、電気工事士の免状の取得者以外の施工が禁止されている。

[越野一二・市川紀充]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「屋内配線」の意味・わかりやすい解説

屋内配線 (おくないはいせん)
indoor wiring

電灯,電動機,電熱器,各種電気機器などを使用するために,屋内に固定して張り巡らした電線およびこれに付帯する施設。住宅などでは比較的小規模で簡単な構成であるが(図1),ビル,工場など大規模な場合は設備容量も大きく1万kWを超すものもある。屋内配線の充実度はその建物の価値を大きく左右する。新設のときは将来の負荷増加を考えて,ある程度の余裕をもたせておくべきである。コンセントは,電気機器のコードを長く引き回すことなく,どこでも自由に使用できるようにするため数多く設けることが望ましい。電灯点滅用のスイッチは人間の動線を考慮して設ける。廊下,階段などには3路,4路スイッチを設けて切換点滅ができるようにする。電圧は,日本では電灯および小型電気機器100V,電動機200Vがふつうである。住宅のルームエアコンのやや大型のものは200Vの場合もある。アメリカでは電灯120V,電動機208Vが一般的である。ヨーロッパでは電灯220V,電動機380Vが多い。日本のビル,工場などで規模が大きい場合は,高圧(6600V),特高(2万2000V,6万6000Vなど)で受電して自家用施設とし,変圧器で使用電圧の100V,200Vまたは240V,415Vなどに降圧して配電している。過負荷,短絡(ショート)の過電流による過熱で火災などを起こしたりすることを防ぐため,必要な個所に過電流遮断器を設ける。過電流遮断器は,昔はヒューズが主であったが,今日では配線用遮断器(ブレーカー,安全ブレーカーともいう)がふつうである。絶縁低下による漏電により火災や感電が生ずることを防ぐために,水気のある場所などの電気設備の露出された金属部分などには接地(アース)を施し,漏電遮断器を施設する。配線用遮断器と漏電遮断器とは組み合わさったものが多い。電線には,銅線にビニル被覆を施したビニル絶縁電線が多く用いられる。住宅などでは,ビニル絶縁電線2~3本をまとめて平形にし,その上にビニル外装を施した平形ビニル外装ケーブルが多く使用される。配線の工事方法は種々あるが,もっとも一般的に行われているのはビニル外装ケーブルその他のケーブルを用いるケーブル配線と,絶縁電線を鋼製電線管に収めて施設する金属管配線とである。保安上の基本的な法規は経済産業省令の電気設備技術基準であり,これを補完するため日本電気協会電気技術基準調査委員会で作成した内線規程がある。機器材料に不良品が使われることを防ぐために電気用品取締法があり,これにより使用機材は型式試験を受け,型式の認可を受けたものでなければならない。型式認可を受けた電気用品には図2で示すマークが記されている。工事に従事する者は,電気工事士法により電気工事士試験に合格し,電気工事士免状の交付を受けていなければならない。なお,防災的見地から消防法,建築基準法の規制を受ける場合もある。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「屋内配線」の意味・わかりやすい解説

屋内配線
おくないはいせん
interior wiring

家屋内の電気器具に,電気を供給するために施設する電線。近代的建築では充実した屋内配線を設備することが必須条件で,通常総建築費の1割以上を屋内配線費にあてることが必要とされている。住宅用には 100V/200V配電が行われるが,ビルディングでは 400V級配電 (240V/415V) で供給するものが多くなってきた。配線方法が悪いと感電事故や火事の原因となることがある (→漏電 ) 。

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