屈折(読み)くっせつ

精選版 日本国語大辞典 「屈折」の意味・読み・例文・類語

くっ‐せつ【屈折】

〘名〙
① 曲がり折れること。また、折り曲げること。身をかがめること。
四河入海(17C前)八「此の泉も、主人の子華が意を知て〈略〉わざと屈折して、主人の思やうに流るるぞ」
※土(1910)〈長塚節〉二〇「畑から畑を継いでは幾十度の屈折をなしつつ」 〔荘子‐駢拇〕
② 人の意志や考えを曲げさせること。屈服させること。また、屈服すること。
※明六雑誌‐四二号(1875)権理解〈西村茂樹〉「十分の権理と云ふは己が智力を以て完く之を保全し得て少しも屈折を受けざるの権理にして」
③ 感情、考え方、表現のしかたなどがすなおでなく、わかりにくい点のあること。
※新西洋事情(1975)〈深田祐介〉舶来女房、愛すべし「こうした心理的屈折を経て自分と結婚した細君の態度が」
④ 光波、水波、音波などの波動が、一つの媒質から他の媒質に進む時、その境界面で進行方向が変わること。〔改正増補物理階梯(1876)〕

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

デジタル大辞泉 「屈折」の意味・読み・例文・類語

くっ‐せつ【屈折】

[名](スル)
折れ曲がること。
「畑から畑を継いでは幾十度の―をなしつつ」〈長塚
物の考え方やその表現などが素直でなく、わかりにくいところがあること。「屈折した心理」「屈折した表現」
光や音などの波動が、ある媒質から他の媒質に進むとき、その境界面で進行方向を変えること。
[類語]屈曲曲折折れる曲がる折るへし折る折る畳む折り畳む折り重ねる折れ曲がる折り曲げる折損ちぎれる切り離す張り裂ける断ち切る真っ二つばらすぽっきりぽきりぼきぼきぽきぽきぼきりぽきんぼきんばきばきぱきぱきめりめりみりみりばりばり

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

日本大百科全書(ニッポニカ) 「屈折」の意味・わかりやすい解説

屈折
くっせつ

屈折率の異なる二つの媒質の境界面に光、電波、音波などの波動が入射して第2媒質に進むとき、進行方向が変わる現象に示すように、境界面の法線HOH′と入射波の進行方向AOとのなす角θ1を入射角、また屈折波の進行方向OA′とのなす角θ2屈折角とよび、θ1とθ2との間にはスネル法則(屈折の法則)sinθ1/sinθ2n2/n1n2n1はそれぞれ第2、第1媒質の屈折率)が成立する。

 ニュートンは光を粒子と考えるモデルで屈折現象の説明を行った。すなわちn2n1のとき、|v2|>|v1|(|v2|、|v1|はそれぞれ第2、第1媒質中の光の伝播(でんぱ)速度の大きさ)で、速度ベクトルv1v2の境界面内の分速度の大きさが等しくなる、すなわちsinθ1/sinθ2=|v2|/|v1|の関係が成立するとした。この取扱いは、のちに、屈折率の高い媒質を伝わる光ほどその伝播速度が小さいことが実験的に確かめられ、誤りが明白になった。ホイヘンスは光を波動と考え、二次波の概念を使って光の反射、屈折を明確に説明した。なお現在では、光、音波などの波動のほかに電子のような粒子の屈折に対してもスネルの法則が成立することが知られており、この場合、先に述べた速度ベクトルv1v2のかわりに速度に逆比例、したがって屈折率に比例する波数ベクトルとよばれる量k1k2を用いsinθ1/sinθ2=|k2|/|k1|の形で共通的に表示される。

 境界面が平面でない場合も、波動が入射する各点でスネルの法則が成立するとすれば、レンズなどの球面による屈折を取り扱うことができる。物質の屈折率は普通、波長の増大とともに減少するので、プリズムに白色光を入射すると、境界面二つを屈折してプリズム外へ出る光は波長の短い成分ほど大きく向きを変え、白色光は分散されてスペクトルに分かれる。で波動の進行方向を逆にとり、屈折率の高い媒質から低い媒質へ伝播する場合を考えると、スネルの法則によって屈折角(この場合θ1)のほうが入射角(θ2)より大きくなる。

 ここで入射角をしだいに大きくしていくと屈折角は90度になり、さらにこれ以上の入射角では屈折波が存在せず、入射波は境界面で100%反射されるようになる。この現象は全反射とよばれ、屈折角が90度のときの入射角を全反射の臨界角という。電波、光、X線などの電磁波は、音波と異なり波の振動方向が伝播方向に垂直な横波である。そのため、紙面内で振動する波と紙面に垂直方向に振動する波とではようすが異なり、屈折波の振幅の大きさに相違が生じる。自然光を入射した場合、屈折波は部分的に偏光する。これまでは均質な媒質二つの境界面での屈折を考えたが、屈折率が連続的に変化するような媒質中を波動が伝播する場合は、波動の進行方向も連続的に変化することになる。

 また屈折率に異方性をもつ結晶のような媒質に光が入射する場合は、一般に屈折光は進行方向が異なる二つの成分に分かれ、複屈折とよばれる現象を示す。吸収を伴う媒質に光が入射する場合は、屈折率として、吸収も考慮に入れた複素数で表される複素屈折率とよばれる量を用いれば、形式的にはスネルの法則がそのまま満足される。しかしこの場合は、θ2も複素数になり、もはや屈折角の意味はもたない。

[田中俊一]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「屈折」の意味・わかりやすい解説

屈折 (くっせつ)
refraction

二つの媒質の境界面が波長に比べて滑らかな場合,一方の媒質からこの境界面へ入射した波は,その一部が反射され,残りが他方の媒質へ透過する。このとき,透過波の進行方向が入射波の進行方向からかたよる現象を屈折という。光,音,あるいは電波などすべての波動について見られる現象である。

 図1のように媒質Ⅰから境界面へ波面A A′A″をもった波が入射した場合を考える。境界面上の点BB′B″などは入射波によって振動し,媒質Ⅱへ伝わる波の波源となる。ただし,波面AA′A″によってBB′B″が波源となる時間を考えると,波源B′およびB″は,Bと比べて波面がそれぞれ媒質ⅠのA′B′間およびA″B″間を伝わる時間だけ遅れる。媒質Ⅱでそれぞれの波源から出る球面波は媒質Ⅱ内での波の速さで広がっていく。透過波はこの球面波の重ね合せであり,波の速さが媒質ⅠとⅡとで異なれば,合成波の波面CC′C″は入射波の波面とは異なる傾斜となる。波の進行方向は波面の法線方向であるから,このようにして波が境界面で屈折する。

 波は,その波長より十分大きく均質で等方的な媒質内では直進するから,進行方向を示す線で代表することができる。光の場合はこれを光線という。境界では,境界面の法線と入射波の進行方向とが作る平面を入射面とするとき,透過波は入射波とは境界の反対側にあってその進行方向は入射面の中にある。境界面の法線に対する入射波の進行方向のなす角を入射角,透過波の進行方向のなす角を屈折角といい,それぞれをθi,θrとしたとき,これらの角の間には,sinθi/sinθrnという関係(スネルの法則)が成り立つ(図2)。ここでnを相対屈折率relative index of refractionと呼ぶ。光の場合は,入射側の媒質Ⅰが真空である場合の相対屈折率をとくに絶対屈折率absolute refractive index,あるいは単に屈折率refractive indexと呼び,通常nで表す。これは真空中の光速度cと物質中の光の速さvとの比nc/vであり,相対屈折率は,入射側の媒質Ⅰの屈折率nIに対する透過側の媒質Ⅱの屈折率nの比となる。すなわち,nn/nIである。屈折率は光の波長の関数(すなわち波長によって異なる)であり,このことを屈折率に分散があるという。方解石など異方性のある物質の中では,偏光方向によって速さの異なる2種の光に分かれる。この場合,それぞれの速さに対する屈折率が違うので,一定の入射角で入射した光はこの物質の中で二つの異なる方向に伝わることになる。この現象を複屈折という。

 レンズは光学ガラスの表面での光の屈折を利用したものであり,光を集める目的や,画像の投影などに広く用いられている。またプリズムなど屈折率の分散を利用したものには,光をその波長によって分ける装置,すなわち分光器などがある。雨滴の内面での全反射と,雨滴の表面での光の屈折に分散があることからにじが生ずることもよく知られている。
執筆者:


出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

百科事典マイペディア 「屈折」の意味・わかりやすい解説

屈折【くっせつ】

光や音などの波動がある媒質から別の媒質中へ進むとき,境界面で進行方向が変わる現象。両方の媒質が等方性なら波動の方向について屈折の法則が成り立つ。等方性媒質から異方性媒質へ進むときはふつう複屈折が起こる。
→関連項目音波回折屈折計屈折望遠鏡屈折率光線波動反射(物理)

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

普及版 字通 「屈折」の読み・字形・画数・意味

【屈折】くつせつ

折りまげる。〔荘子、拇〕屈折の禮樂、兪(くゆ)(顔色を和らげる)の仁義、以て天下の心を慰(おさ)(尉)ふるは、此れ其の常然を失ふ。

字通「屈」の項目を見る

出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「屈折」の意味・わかりやすい解説

屈折
くっせつ
refraction

一般に波が進んでいって異種媒質の中に入り込む場合に,その境界面で進行方向が変化する現象をいう。光,音,電波などは屈折現象を示す。水中の物体が大きく見えたり,近くに見えたりするのは,光が水と空気の境界面で屈折するためである。2つの等方性媒質の間での屈折には,(1) 入射光線と屈折光線とは同じ平面内にあり,(2) 入射角 i と屈折角 r との間には sin i/ sin r=一定 ,というスネルの法則が成り立つ。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の屈折の言及

【スネルの法則】より

…オランダのスネルWillebrord Snell van Roijen(1591‐1629)によって確立された光の屈折についての法則。二つの等方性媒質の境界面で,面の大きさが光の波長より十分に広い場合に適用される。…

【光】より

…これらを含め,一般に波長1mmから1nmくらいまでの電磁波を広い意味で光と呼んでいる。
〔光の科学〕
光は干渉,回折やドップラー効果など,波動として特徴的な現象を示し,また,その波長より広い空間で直進し,異なる媒質との境界で一部が反射され,残りは境界で屈折して透過する。光は,進行方向に垂直な面内で,相互に直交した電場と磁場とが同じ位相で振動する横波である。…

※「屈折」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

黄砂

中国のゴビ砂漠などの砂がジェット気流に乗って日本へ飛来したとみられる黄色の砂。西日本に多く,九州西岸では年間 10日ぐらい,東岸では2日ぐらい降る。大陸砂漠の砂嵐の盛んな春に多いが,まれに冬にも起る。...

黄砂の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android