〘自ア上一(ワ上一)〙 動く物がある場所にとどまって存在する。また、低い
状態になる。
[一] 人や動物の場合。
① ある場所に存在する。
※書紀(720)武烈即位前・歌謡「琴がみに 来(き)謂屡(ヰル)影媛(かげひめ) 玉ならば 吾(あ)が欲(ほ)る玉の 鰒白珠(あはびしらたま)」
※天草本平家(1592)二「ミヤコ ニ y(イ) マラスル ナラバ、マタ ウキメ ヲモ ミョウズレバ」
※万葉(8C後)一七・四〇〇三「立ちて為(ヰ)て 見れどもあやし」
※竹取(9C末‐10C初)「立つもはしたゐるもはしたにてゐ給へり」
③ (鳥、虫など飛ぶものが)ある物にじっとつかまる。とまる。
※
古事記(712)中・歌謡「かぐはし 花橘は 上枝
(ほつえ)は 鳥韋
(ヰ)枯らし 下枝
(しづえ)は 人取り枯らし」
※
徒然草(1331頃)一〇「鳶
(とび)ゐさせじとて縄をはられたりけるを」
※落窪(10C後)四「御女(むすめ)の女御、后にゐ給ひぬ」
⑤ ある場所に居を定める。住む。また、外出しないで家にとどまる。在宅する。
※源氏(1001‐14頃)蜻蛉「京になんあやしき所にこのころ来てゐたりける」
⑥ ある種類の人間が、抽象的な意味で存在する。ある。
※
寒山拾得(1916)〈
森鴎外〉「別に道に親密な人がゐるやうに思って、それを尊敬する人がある」
⑦ ある人にとって、親族・上司・部下などの社会的関係のもとで、ある人が存在する。
※茶話(1915‐30)〈
薄田泣菫〉十三年目「自分には子供が居
(ヰ)無いので」
[二] 植物や無生物の場合。
① (かすみ、雲、ちりなど動くことのあるものが)動かないである。ある物の上にとまって存在する。⇔
立つ。
※万葉(8C後)一二・三一二六「纏向(まきむく)の病足(あなし)の山に雲居(ゐ)つつ雨は降れどもぬれつつそ来し」
② (舟などが)砂について動かないである。停泊する。泊まる。
※万葉(8C後)一二・三二〇三「みさご居る渚(す)に居(ゐる)舟の漕ぎ出なばうら恋しけむ後は会ひぬとも」
③ (水草、氷などが)平らに生じる。
※枕(10C終)一七八「池などある所も水草(みくさ)ゐ」
※千載(1187)冬・四四二「
つららゐてみがける影の見ゆる哉まことにいまや玉川の水〈
崇徳院〉」
④ (ふくらみのあったものが)平らになる。
※土左(935頃)承平五年一月一五日「たてばたつゐればまたゐる吹く風と波とは思ふどちにやあるらん」
⑤ (「腹が居る」の形で) 怒りがおさまる。しずまる。→
癒(い)る。
※平家(13C前)九「梶原この詞に腹がゐて」
⑥ (「腹を居る」の形で
他動詞のように用い) 怒りをしずめる。
※咄本・
醒睡笑(1628)一「兵庫で足を黒犬にくらはれたる、無念の腹を居んとて蹴た」
(イ) (動詞の連用形、または、それに助詞「て」を添えた形に付いて) 動作、作用、状態の継続、進行を表わす。
※平家(13C前)一二「和泉国八木郷といふ所に逗留してこそゐたりけれ」
※徒然草(1331頃)三二「物のかくれよりしばし見ゐたるに」
(ロ) (「…ずにいる」「…んでいる」「…ないでいる」の形で) ある動作、作用が行なわれない状態の継続を表わす。
※
洒落本・中洲の花美(1789)
小通の登楼「丹次ばかり馬道に残って何ンにもせずにいるのさ」
[語誌](1)
上代には、「ゐる」に当たる終止形に「う」があったと考えられる。→「
う(坐)」の語誌。
(2)
近世には、次のように「をり(をる)」と同じような活用をさせた例がある。「もししった
きゃくがゐらば、をしうりせんと」〔洒落本・
傾城買四十八手‐見ぬかれた手〕
(3)補助動詞の場合、近世上方語では
主語が
有情物の場合は「ている」、非情物の場合は「てある」が付く
傾向が強い。一方、近世後期以降の
江戸語では主語の有情・非情にかかわらず「ている」が付き、「てある」はもっぱら他動詞に付けられるようになり、現在に至っている。