尿路のしくみとはたらき(読み)にょうろのしくみとはたらき

家庭医学館 「尿路のしくみとはたらき」の解説

にょうろのしくみとはたらき【尿路のしくみとはたらき】

◎尿路のしくみ
◎尿の異常
◎排尿の異常

◎尿路のしくみ
 腎臓(じんぞう)で産生された尿が体外へ排泄(はいせつ)されるルートを、尿路といいます。
 尿は腎杯(じんぱい)に集まり、さらに腎臓の中央にある空間(腎盂(じんう))に運ばれます(図「尿路のしくみ」)。腎盂は腎臓の各所から運ばれた尿の集合所ですが、尿がたまるわけではありません。尿は、腎盂から尿管を通って膀胱(ぼうこう)に入り、ここでためられます。
 腎杯や腎盂の大部分は腎臓の中にありますが、尿の産生や成分調整などはせず、もっぱら尿の運搬にかかわります。その表面(内腔(ないくう))は移行上皮(いこうじょうひ)と呼ばれる組織でおおわれています。尿管や膀胱の内腔も同じです。
 尿管(にょうかん) 尿管の長さは25~30cmくらいです。発生の途中で、腎臓が頭のほうに移動し、それにつれて尿管が長くなり、腎盂と膀胱をつなぎます。
 腎盂と尿管は蠕動(ぜんどう)運動をして、尿を腎盂から膀胱のほうへ運びます。この運動の方向は、からだが横になっていても、逆立ちしていても変わりません。逆流がおこるのは病的な場合で、膀胱尿管逆流現象(ぼうこうにょうかんぎゃくりゅうげんしょう)といって、腎盂腎炎(じんうじんえん)(「腎盂腎炎(腎盂炎)」)の原因となります。
 膀胱(ぼうこう) 膀胱に入った尿は、ここでいったん蓄えられます。たえず体外に尿を出しているより、一定量ためるほうが衛生的ですし、社会生活上もそうでなければ困ります。この貯尿機能がそこなわれたものを尿失禁(にょうしっきん)といい、さまざまな原因でおこります。
 膀胱は1度に約300mℓの尿をためることができます。1日に腎臓でつくられる尿は約2000mℓですから、1日7回くらい排尿をするのがふつうです。
 ですから、1日8回以上排尿する場合は、頻尿(ひんにょう)といいます。
 しかし、もちろん体質や生活習慣などによって、摂取する水分や1回の排尿量には個人差がありますから、正常と異常のあいだにはっきりした線を引くことはできません。
 尿道(にょうどう) 膀胱から尿が出るときは、尿道という管を通りますが、尿道から先は、男女によって構造が異なります。男性の場合、尿道は前立腺(ぜんりつせん)と陰茎(いんけい)の中をトンネルのように通るので、長さは20cmほどありますが、女性では4cmくらいです。
 しかし男女とも、尿道の途中には管をしめつける筋肉(括約筋(かつやくきん))があります。括約筋は、骨盤腔(こつばんくう)を膜(まく)のようにふさいでいる筋肉の層を尿道が貫いているところに、尿道を取り囲むようにして存在しています。それより先の尿道は、尿を通す以外のことはあまりしていませんが、男性では、精液(せいえき)の通路、つまり精路(せいろ)となります。そのため、尿道を支えるように球海綿体筋(きゅうかいめんたいきん)という筋肉がついていて、精液をいきおいよく飛ばすはたらきをしています。
●排尿(はいにょう)のしくみ
 尿を膀胱にためたり、必要なとき排出したりするには、自律神経(じりつしんけい)が重要なはたらきをしています。
 まず第一に、尿道括約筋と膀胱の出口(膀胱頸部(ぼうこうけいぶ))がしっかり閉まっていなければなりません。この括約部(かつやくぶ)という部分が閉まるのは、交感神経副交感神経より優位にはたらくときです。
 尿がたまると尿意がおこりますが、これは副交感神経を介して、脊髄(せきずい)、脳幹(のうかん)、大脳(だいのう)へと膀胱の感覚が伝わるからです。しかし、尿意を感じてもすぐに排尿がおこらないのは、大脳をはじめとする上位中枢(じょういちゅうすう)が排尿を抑制しているからです。人間は、この能力を1歳半くらいで身につけることができます。ふつう、人の膀胱はがまんすれば500~600mℓくらいはためられますが、300mℓくらいで排尿する人が多いのです。
 排尿するときは、がまんするのをやめて軽くいきむと、脊髄の神経の反射がおこり、副交感神経がはたらいて膀胱が収縮をはじめます。それとほとんど同時に、括約部を緊張させていた交感神経がはたらきを休め、排尿しやすくするのです。
 このように、相反するはたらきをする交感神経と副交感神経のバランスをうまくとらせるのが脊髄と脳幹で、この全体が自律神経系なのです。
 したがって、膀胱や括約部のまわりにある末梢神経系(まっしょうしんけいけい)や脊髄などの中枢神経系が障害されると、貯尿や排尿がうまく行なわれなくなって、失禁、頻尿、排尿困難など、いろいろな排尿障害がおこってきます。これを神経因性膀胱(しんけいいんせいぼうこう)と呼んでいます。
 神経因性膀胱は、脳の病気(たとえば脳梗塞(のうこうそく)、脳出血(のうしゅっけつ)、パーキンソン症候群など)のほか、脊髄の損傷、直腸がんの手術による末梢神経の損傷などでもおこる可能性があります。
 前立腺は、精液をつくるところで、尿路ではありませんが、精路の一部に尿道を借りていることもあり、男性では尿道と密接に関係しています。
 尿道は前立腺の中を貫通しているため、前立腺肥大(ぜんりつせんひだい)がおこると、尿道を圧迫して排尿を困難にすることがあります。しかし、前立腺自体が積極的に排尿や貯尿にかかわっているわけではありません。

◎尿の異常
●血尿(けつにょう)
 尿路に異常があると、尿の性状や排尿に異常がおこってきますが、もっとも重要な異常は、血尿です。
 血尿は、肉眼でわかる血尿と、顕微鏡でしかわからない血尿に大きく分けられますが、これは程度のちがいにすぎません。しかし、見てわかる血尿は尿路の病気の場合に多く、とくに老人にみられたら、尿路の悪性腫瘍(あくせいしゅよう)(がん)が強く疑われます。
 尿を遠心沈殿器にかけて顕微鏡で観察したら赤血球(せっけっきゅう)がみられたという程度の顕微鏡的血尿は、内科的な病気に多くみられます。いずれにしても血尿は、腎臓と尿路の病気を示すたいせつな症状です。
 血尿と紛らわしいものに、濃縮尿(のうしゅくにょう)(褐色)、尿酸塩尿(にょうさんえんにょう)(レンガ色~ピンク)、下剤の服用(フェノールフタレンの赤)、赤色野菜を大量に食べた後などの尿があります。慣れた医師なら、見てわかりますが、検査で潜血反応(せんけつはんのう)を調べれば正確です。
●たんぱく尿(にょう)
 尿の中にたんぱくが出てくるたんぱく尿は、尿路の病気の場合は、あまり多量にみられることはありません。
●混濁尿(こんだくにょう)
 にごりのある混濁尿は、塩類尿(えんるいにょう)、膿尿(のうにょう)、乳(にゅう)び尿(にょう)などにみられます。塩類尿は、尿を放置しておくと沈殿してくるもので、まったく心配いりません。尿にアンモニア臭(しゅう)が強いときは、尿路感染症にかかっていることが考えられますが、ニンニク、アスパラガス、ニラなど香りの強いものを食べた後のにおいは、心配いりません。

◎排尿の異常
●頻尿(ひんにょう)
 排尿の異常には、第1に頻尿があります。昼8回以上、夜2回以上(夜尿(やにょう)ともいいます)の頻尿は一種の老化現象ですが、前立腺肥大(ぜんりつせんひだい)、腎機能障害、中枢神経の異常と関係していることが少なくありません。
●排尿困難(はいにょうこんなん)
 排尿困難は尿が出にくいという症状で、尿がすぐに出ない、尿線が細くて弱い、終わるまで時間がかかるなどからはじまり、ついには尿がまったく出ない(尿閉(にょうへい))ことさえおこります。排尿困難のもっとも多い原因は、男性の前立腺肥大症(「前立腺肥大症」)です。
●尿失禁(にょうしっきん)
 自分の意志に反して尿がもれてしまう尿失禁には、さまざまなタイプがあります。神経因性膀胱(しんけいいんせいぼうこう)といって、中枢神経のコントロールがきかなくなっておこるものに反射性尿失禁(はんしゃせいにょうしっきん)、切迫性尿失禁(せっぱくせいにょうしっきん)などがあります。
 中年以降の女性に多い腹圧性尿失禁(ふくあつせいにょうしっきん)は、括約部(かつやくぶ)の機構がうまくはたらかなくなるなどの原因によるもので、せき、くしゃみ、とびはねるなどしたときに少しずつもれるタイプです。
 溢流性尿失禁(いつりゅうせいにょうしっきん)は、膀胱に尿がたまりすぎ、少しずつあふれ出るタイプの失禁で、かならず排尿困難をともなっています。
●排尿痛
 排尿痛は、尿路に炎症があるときにおこります。女性では膀胱炎、男性では尿道炎、前立腺炎が原因となることが多いものです。膿尿(のうにょう)、細菌のまじった細菌尿をともなっていて、ときに血尿がみられることもあります。

出典 小学館家庭医学館について 情報

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