小野お通(読み)おののおつう

精選版 日本国語大辞典 「小野お通」の意味・読み・例文・類語

おの‐の‐おつう【小野お通】

(「おづう」とも) 室町後~江戸前期の浄瑠璃作者。阿通、於通とも書く。浄瑠璃の起源とされる「十二段草子浄瑠璃物語)」の作者と誤伝された女性小野正秀の娘で淀君侍女となり、のち新上東門院に仕えて五八歳で没したともいう。今日では、「十二段草子」中編一五本に曲節をつけた改作者とする説が有力である。和歌書画にもすぐれた。生没年未詳。

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デジタル大辞泉 「小野お通」の意味・読み・例文・類語

おの‐の‐おつう〔をの‐〕【小野お通】

安土桃山時代の女性。織田信長豊臣秀吉秀次らに仕えたという。音曲・書画にすぐれ、浄瑠璃「十二段草子」の作者と伝えられるが、現在では否定されている。生没年未詳。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「小野お通」の意味・わかりやすい解説

小野お通
おののおつう

生没年不詳。浄瑠璃(じょうるり)の起源とされる牛若丸と浄瑠璃姫の恋物語である『十二段草子(じゅうにだんそうし)』(浄瑠璃姫物語)の作者と伝えられる女性。織田信長ないしは信長夫人、または豊臣(とよとみ)秀吉・秀吉夫人の侍女とも、東福門院・新上東門院の侍女とも伝えられるが不明。大日本史料では小野正秀の娘で秀吉夫人の淀君(よどぎみ)に仕えたとされる。いずれにせよ浄瑠璃姫の伝説自体はお通よりはるか以前から存在しているので、今日では『浄瑠璃姫物語』の作者ではなく、曲節をつけて語るように改作した人物とする説が有力になっている。

[古井戸秀夫]

 1598年(慶長3)、秀吉主催の醍醐(だいご)の花見に参会者が残した「醍醐花見短籍」(京都・醍醐寺)のなかにお通のものが2枚現存し、彼女が当時、大坂城圏内にあったことを示唆する。書道史上、彼女は当代を代表する女筆としてうたわれ、ほかにも字隠し絵風の柿本人麿(かきのもとひとまろ)像や達磨(だるま)図など、才知に富む洒脱(しゃだつ)な自画賛ものも伝存し、その筆跡後年手本として板行されている。

松原 茂]

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改訂新版 世界大百科事典 「小野お通」の意味・わかりやすい解説

小野お通 (おののおつう)

浄瑠璃の起源となった《浄瑠璃物語(十二段草子)》の作者といわれる女性。阿通,於通とも記される。近世になって浄瑠璃が盛んになるにつれて,浄瑠璃の起源についてのいろいろな説が生まれ,その作者についても当時の権力者に近い実在の才女にあてようとする説が作り上げられた。お通は織田信長,あるいは豊臣秀吉の御台政所(淀君とも)の侍女で,才女のほまれ高く,主君の命により,紫式部にならって《浄瑠璃物語》を作ったという。また,秀次の家人塩川志摩守の妻となって1女をもうけ,離別の後,新上東門院に仕え,1616年(元和2)58歳で没したともいわれる。しかし,浄瑠璃は《宗長日記》によれば1531年(享禄4)にはすでに行われていたことが確かなので,これらをすべて信じることはできない。お通は,女性の語り手によって育成されていった語り物の編集者・改作者であったとする説や,鳳来寺山麓に幾人もの小野お通を想定する説などもある。
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朝日日本歴史人物事典 「小野お通」の解説

小野お通

浄瑠璃作者の祖とされる伝説的な人物。阿通,於通とも記す。浄瑠璃の嚆矢「浄瑠璃御前物語」(「十二段草子」とも。1475以前に成立)の作者に擬せられる。この女性については織田信長の侍女説に始まり,豊臣秀吉や淀君の,あるいは東福門院の侍女などと諸説あるが,浄瑠璃の起源,成立年代から考えていずれも疑わしい。なかで従来,美濃の武士小野正秀の娘お通(1568~1631)が有力視されてきたのは,和歌に秀で画や琴にも長じ,ことに能書家として名声のあった近世の才女を,江戸期に隆盛をきわめた新興芸能浄瑠璃の作者に結びつけた結果であると思われる。語り物の性質上,作者や改作者を特定の人物に擬すことも疑問視される現在,伝説の域を出ない女性といえよう。<参考文献>若月保治『人形浄瑠璃史研究』,『大日本史料』10編5

(安田富貴子)

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「小野お通」の意味・わかりやすい解説

小野お通
おののおつう

浄瑠璃の創始者とされ,『浄瑠璃十二段草子』の作者と伝えられる女性。安土桃山時代の人。その出自については,小野正秀の娘で豊臣秀吉夫人の侍女,あるいは織田信長の侍女,真田信政の妾で信就の母お通などの諸説があるが,いずれも定かではない。柳亭種彦が『還魂紙料 (すきかえし) 』で指摘したように,浄瑠璃は安土桃山時代より以前に存在しているので,お通をその創始者とするのは誤りであるが,古来の浄瑠璃物語を『浄瑠璃十二段草子』へと改作した人かともいわれた。今日では,「小野」を名のる,歌と物語を得意とした女性集団が存在し,そのなかで識字と能書などの特技をもつ女性を特に「お通」と呼んだことから,固有名ではない「小野お通」が作者に擬せられたと考えられている。

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「小野お通」の解説

小野お通 おのの-おつう

?-? 織豊-江戸時代前期の女性。
浄瑠璃(じょうるり)の起源とされる「浄瑠璃物語(十二段草子)」の作者とつたえられてきたが,現在では否定されている。九条稙通(たねみち)に歌をまなび,豊臣秀吉の側室淀殿につかえた女性とか,美作(みまさか)(岡山県)の農家出身で歌をよみ,典籍にくわしかった才媛(さいえん)など,おおくの説がある。

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