小沢剛(読み)おざわつよし

日本大百科全書(ニッポニカ) 「小沢剛」の意味・わかりやすい解説

小沢剛
おざわつよし
(1965― )

美術家。東京都生まれ。1989年(平成1)東京芸術大学美術学部絵画科油画専攻を卒業、91年同大学院美術研究科壁画専攻修了。

 大学在学中の1987年(昭和62)から手製地蔵(のちに手描きした地蔵)を、訪れた先の風景とともに写真に収めた作品シリーズ『地蔵建立』を制作する。89年厳戒令下の北京・天安門広場やアジア各地、シルク・ロードから向かったヨーロッパなどで撮影し、旅の軌跡のドキュメンタリーとなった同作品は、しだいに身の回りの風景を再確認する日記的な行為へと向かう。これが出発点となり絵画にとらわれない、より幅広い表現を行う。

 93年、東京・銀座路上でのアート・イベント「ザ・ギンブラート」で牛乳箱を使って可動式ギャラリーとした『なすび画廊』を街路樹に下げ、路上で展覧会を行う。自ら画廊主となって作家を招くことで実験的な発表の場をつくったこの作品は、若手作家が展覧会を開催する際に使う貸画廊制度に対する批判を含んで始まった。美術を取りまく現状に対するユーモラスな提案は、美術作品の新たなあり方を投げかける斬新さがあった。同作は95年いったん休止した後、97年『新なすび画廊』として再開。海外での展覧会では現地キュレーターに参加アーティストの招聘をゆだねるなど、さらにコラボレーションによって国際的規模で展開。

 「相談芸術」プロジェクトは作家の主体性にとらわれず客観的な立場で創作に携わりながら、観客の参加によって作品をつくり上げていくプロセスを重視した作品である。他者への相談によって作品をどう展開していくか決めていくもので、『相談芸術大学』(1995、水戸芸術館)、『相談芸術カフェ』(1999~2000、ワタリウム美術館、東京)、『相談芸術ホテル』(2001、東京オペラシティアートギャラリー)など、さまざまな施設を模してプロジェクトが行われた。

 96~97年アジアン・カルチュラル・カウンシルの招聘でニューヨーク滞在。このころから海外での活動の機会が増え、ポリティカルな視点をユーモアをもって反映していく作品を制作。『醤油画資料館』(1999、香川県坂出市)は日本を代表する調味料、醤油を画材に用いた「醤油画」という架空のジャンルをつくり出し、古代から現代までの名作を再現して展示した架空の美術館である。日本美術史のパロディーによって、日本美術の本質に真摯な問いかけを行った。

 また「ヴェジタブル・ウェポン」シリーズ(2001~ )はテロ、戦争の勃発する世界情勢を敏感に反映し、多様な食文化を通じコミュニケーションの必要性を訴える作品である。被写体となる人物に、土地おすすめの料理を一品尋ね、その食材を使ってまず銃を形づくる。これを構えてポートレートを撮影した後、銃を解体、料理してパーティーを催す。一連のプロセスを通じ、同じ素材が戦う武器にも逆に対話のきっかけにもなることを示し、敵対も友好もとらえ方の違いで起こるコインの表裏であると語る。

 2002~03年文化庁芸術家在外研修員としてニューヨークに滞在した。ノスタルジックな要素を取り込んだユーモア溢れる作品により、自らを取りまく社会状況を反映させながら、対話を求める姿勢を一貫して保ち、国内のみならず、アジア、欧米各地で活躍する。

[神谷幸江]

『『地蔵建立――Jizoing』(1999・オオタファインアーツ)』『『小沢剛世界〈ワールド〉の歩き方』(2000・イッシプレス+オオタファインアーツ)』『椹木野衣著『日本・現代・美術』(1998・新潮社)』『松井みどり著『アート――“芸術”が終わった後の“アート”』(2002・朝日出版社)』『「ひそやかなラディカリズム」(カタログ。1999・東京都現代美術館)』『「第1回福岡アジアトリエンナーレ1999」(カタログ。1999・福岡アジア美術館)』『「空き地」(カタログ。2000・豊田市美術館)』『「私の家はあなたの家、あなたの家は私の家」(カタログ。2001・東京オペラシティ文化財団)』『「クロスカウンター」(カタログ。2001・川崎市岡本太郎美術館)』『「横浜トリエンナーレ」(カタログ。2001・横浜トリエンナーレ組織委員会)』『「新版日本の美術」(カタログ。2002・山梨県立美術館+新現代美術展2002実行委員会)』『「アンダー・コンストラクション――アジア美術の新世代」(カタログ。2002・国際交流基金アジアセンター+東京オペラシティ文化財団)』

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