小劇場(読み)しょうげきじょう

精選版 日本国語大辞典 「小劇場」の意味・読み・例文・類語

しょう‐げきじょう セウゲキヂャウ【小劇場】

〘名〙 規模の小さい劇場
一国首都(1899)〈幸田露伴〉「あるいは錦絵舗の店頭、小劇場の絵看板の下」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

デジタル大辞泉 「小劇場」の意味・読み・例文・類語

しょう‐げきじょう〔セウゲキヂヤウ〕【小劇場】

規模の小さい劇場。実験的・前衛的な演劇を上演する場になることが多い。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「小劇場」の意味・わかりやすい解説

小劇場 (しょうげきじょう)

19世紀末にいわゆる近代劇が登場すると,場面を室内に置き,登場人物も小人数で,会話のニュアンス心理描写が重要な役割を果たす戯曲が上演される機会が多くなり,従来の客席数1000前後の大劇場はそれには適さぬ場所となってしまった。そこで,今までより小さな,客席数300~400ほどの空間を設けることが考えられるようになった。そのような劇場はいわゆる自由劇場運動の中でもすでに現れていたが,たとえばドイツにおいては1905年にM.ラインハルトが,ベルリンのドイツ座に付設開場したカンマーシュピーレKammerspieleがその代表的存在であろう。カンマーシュピーレとは,もともと〈室内劇〉の意味で,A.ストリンドベリも自分の戯曲のある種のものにこの名を与えていたし,拡大して考えればH.イプセンの《幽霊》などの劇も室内劇と考えられよう。またストリンドベリ自身は,ラインハルトの試みの翌年,故国スウェーデンでもっと小さい〈親和劇場〉を開場している。1911年にはミュンヘンに,18年にはハンブルクにもカンマーシュピーレが開場しているが,ドイツではこの〈室内劇場〉が小劇場と同じ意味で使われるようになり,商業劇場とは違った実験的な演劇運動の拠点という側面をもつようになった。これらの小劇場は,たとえていえば日本で24年に開場され〈演劇の実験室〉と呼ばれた築地小劇場の場合の〈小劇場〉と内容的にはほとんど同じ意味合いをもっていたと言うことができよう。ドイツでは,大都市の公立劇場のほとんどが,大小二つの劇場を持つようになり,演目によって適した空間を選べるようになった。

 第2次大戦後は,〈部屋劇場Zimmertheater〉〈地下室劇場Kellertheater〉などという名で客席数100以下の小空間の劇場も登場し,これによって従来の小劇場はいわば〈中劇場〉に格上げされることとなった。さらに1960年代には,公立劇場が第3の小空間実験劇場を持つことが通例となり,これに対しては〈スタジオ舞台Studiobühne〉とか〈工房Werkstatt,Werkraum〉などという名称が与えられた。このような実験的な空間から,〈アングラ演劇〉などと呼ばれる一群の新しい演劇が誕生するわけであるが,それは,いわばこの時代の世界的な現象であって,日本でも昭和30年代の中型劇場中心の時代を経て,1960年代には客席数100前後の小劇場(運動)が生まれ,それがアングラ演劇の発生をうながし,またそのような演劇が小劇場という新しい空間を必要とするという似たような過程が現出した。またアメリカのブロードウェーでいえば,興業的な演劇と対立したオフ・ブロードウェーがそれまでの歴史的な小劇場であったが,60年代以降には,さらに実験的な演劇空間としてオフ・オフ・ブロードウェーが生まれ,前衛的な演劇の担い手となった。なお,とくに60年代以降の小劇場運動,アングラ演劇等の流れに関しては,〈前衛劇〉の項もあわせて参照されたい。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の小劇場の言及

【劇団】より

…非商業的な近代劇運動の担い手である欧米劇団の影響を受けて,日本で近代劇運動を展開する新劇団の最初は,1909年に発足する後期〈文芸協会〉と〈自由劇場〉の活動である。しかし拠点劇場を持ち,名実ともに新劇活動を展開する劇団は,24年(大正13)に土方与志によって建設され,彼自身も演出家として活動した〈築地小劇場〉である。また築地小劇場によって,現在にいたる新劇団組織の基礎もつくられた。…

【社会劇】より

…彼は《社会の柱》(1877)で資本家の偽善をあばき,《人形の家》(1879),《幽霊》(1881)で現代の夫婦関係を批判,《人民の敵》(1882)で大衆の利己主義を告発した。A.アントアーヌの〈自由劇場〉,O.ブラームの〈自由舞台〉など前衛的な小劇場は好んで社会劇をとりあげたが,その運動のなかでE.ブリューの問題劇やG.ハウプトマンの《日の出前》(1889),《織工》(1892)などが生まれた。世紀の変りめにはロシアのゴーリキー,イギリスのG.B.ショーが,独自の社会批判劇を書いている。…

【フランス演劇】より

…彼はメロドラムの破壊的顕揚によって,メロドラムとロマン派演劇のヒーローとなり,舞台と実人生とを,生と自由性と演戯の限りない蕩尽の場としたからである。しかし,名優の芸術的独善が商業主義の君臨と表裏一体をなすと考えられるに至り,ゾラの自然主義演劇理論によるA.アントアーヌの自由劇場と,象徴派をよりどころとしたリュニェ・ポーの制作座という二つの〈小劇場運動〉が,初めて演劇の〈前衛〉として登場し,新しい文学戯曲の上演を使命とする〈演出家〉の市民権を主張する。これが19世紀の第3の転機であるが,一方この時期に,劇場から排除されていた詩人にほかならぬマラルメは,管弦楽演奏会やオルガン演奏会の流行とワーグナー楽劇に演劇が見失った〈祝祭性〉への〈群集〉の渇望を読み,カトリックの典礼に国家的祝祭の演出モデルを認め,また,バレエやパントマイム等の身体・空間芸術に演劇の基本的魅力を感じとり,しかも韻文劇に代表される〈言葉の演劇〉の限界的実験の必要をも説いていた。…

※「小劇場」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

脂質異常症治療薬

血液中の脂質(トリグリセリド、コレステロールなど)濃度が基準値の範囲内にない状態(脂質異常症)に対し用いられる薬剤。スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)、PCSK9阻害薬、MTP阻害薬、レジン(陰...

脂質異常症治療薬の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android