日本大百科全書(ニッポニカ) 「小切手」の意味・わかりやすい解説
小切手
こぎって
cheque
check
発行人(振出人)が当座勘定取引契約のある金融機関にあてて、自己の資金から一定の金額(小切手金額)の支払いを委託する形式の有価証券(支払委託証券)をいう。現行の日本の小切手制度の根拠法規は小切手法(昭和8年法律57号)である。
[井上 裕]
沿革
小切手の使用は14世紀のイタリアに始まり、その後ヨーロッパ大陸やイギリスに普及し、近代的な小切手制度は1865年のフランス小切手法に基礎を置くといわれる。日本でも古くは鎌倉時代の割符(さいふ)にその起源をみることができるとされ、江戸時代には両替商を支払人とする振出手形が発達したが、現在の手形・小切手制度は明治になって欧米から移植されたものである。手形・小切手に関する法律としては、1882年(明治15)の為替(かわせ)手形約束手形条例が最初で、ついで90年および99年の商法のなかに規定があった。その後、1931年(昭和6)のジュネーブでの小切手法統一条約の締結に伴い現行小切手法が成立、今日に及んでいる。
[井上 裕]
仕組み・機能
小切手は支払委託の有価証券で、直接に現金を授受する危険と手数を避けるために使用され、本来、現金にかわる支払い手段である。この点、手形が信用手段であるのと異なる。発行人(振出人)は当座勘定取引契約に基づいて取引金融機関から小切手用紙の交付を受け、これに必要事項を記載、署名捺印(なついん)して相手方(受取人)に渡し、相手方はこの小切手を支払金融機関に呈示することによって資金の決済を得る。この場合、受取人から第三者に転々流通することもある。呈示は、直接に支払銀行の店頭に赴く場合と、手形交換所を経由して交換呈示される場合とがある。
なお、小切手の法定記載事項は、(1)小切手という文字、(2)一定金額の単純な支払委託文句、(3)支払人の名称、(4)支払地(支払人の住所)、(5)振出地、(6)振出日、(7)振出人の署名、である。もっとも、金融機関から交付される小切手にはすでに印刷されている部分があるから、実際には、一定金額、振出地、振出日、振出人の署名をすれば足りる。小切手は一覧払いが原則であり、その呈示期間は振出日を含めて11日である。
[井上 裕]
種類
小切手は一般的には持参人払い式が多く、これは支払委託文句が「この小切手と引替えに持参人へお支払いください」とあるもの。この「持参人」を「××殿」と訂正したものが記名式、「××殿または指図(さしず)人」としたものが指図式である。記名式・指図式の支払いまたは譲渡にあたっては、小切手の裏面に裏書を要する。また、紛失、盗難などにより不正の所持人が支払いを受ける危険を避けるために線引(せんびき)小切手の制度がある。線引には一般線引と特定線引の2種類があり、前者は小切手面に2本の平行線を引いたもので、他の金融機関または自行の取引先以外に支払うことができない。後者は2本の平行線の間に特定金融機関名を記したもので、これはその指定金融機関に対してだけ支払いがなされる。また、支払金融機関が自己にあてて振り出す小切手を自己宛(あて)小切手、このうち同じ支店振出し・支払いのものを預金小切手(略して預手(よて))といい、ほぼ現金同様の信用度をもつ。振出日の日付が実際よりも先になっているものを先日付(さきひづけ)小切手とよぶ。なお、以上のほかに、金融機関相互間の送金目的に利用される送金小切手、個人専用のパーソナル・チェック、海外旅行者専用のトラベラーズ・チェックなどがある。
[井上 裕]
『鈴木竹雄著『法律学全集32 手形法・小切手法』(1957・有斐閣)』▽『田中誠二著『手形・小切手法詳論』上下(1968・勁草書房)』▽『日本経済新聞社編・刊『手形100問100答』(1978)』▽『高窪利一著『現代手形・小切手法』(1979・経済法令研究会)』▽『小橋一郎著『銀行員のための手形・小切手法入門』(1981・金融財政事情研究会)』▽『前田庸著『手形法・小切手法入門』(1983・有斐閣)』▽『加藤勝郎著『図説 手形・小切手法教室』(2002・創成社)』▽『浅木慎一著『手形法・小切手法入門』(2003・中央経済社)』▽『田邊宏康著『手形小切手法講義』第2版(2008・成文堂)』