封建地代(読み)ほうけんちだい(英語表記)feudal rent

精選版 日本国語大辞典 「封建地代」の意味・読み・例文・類語

ほうけん‐ちだい【封建地代】

〘名〙 封建的土地所有者(領主)がその土地保有農民からいわゆる経済外的強制によってとりあげる地代。賦役(労働地代)と生産物地代貨幣地代との三形態がある。一般的には地代は封建社会の生産力発展に応じて、この順序で転化してゆき、それとともに封建領主の農民に対する支配力も弱まってゆく。

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デジタル大辞泉 「封建地代」の意味・読み・例文・類語

ほうけん‐ちだい【封建地代】

封建社会で、領主が農民から経済外的強制によって取り上げる地代。労働地代(賦役)・生産物地代・貨幣地代の三形態がある。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「封建地代」の意味・わかりやすい解説

封建地代
ほうけんちだい
feudal rent

広義には、近代地代以外のいっさいの定率および高率の地代をさし、狭義には、農奴制のもとで領主が権力(経済外的強制)をもって農民から徴収した過重な地代をさす。前者の定義は、アンダーソンJames Anderson『地代と十分の一税との効果』Effects of Rent and of Tythe(Recreations, vol. V,1801)およびそれを継承したマルクス資本論』第3巻第37章以下にみえる。それによれば近代地代とは、大借地農たる農業資本家が平均利潤を超える利潤を得た場合だけ、超過分を地主に支払うことを原則とする。したがって超過利潤の有無に関係なく徴収される十分の一税などの定率地代や、利潤そのものを奪い取る高率地代は、封建地代とみなされる。

 狭義のほうは、マルクスの地代論に由来するとされ、ほぼ通説となっている。それによれば、フランスの地代荘園(しょうえん)で生産物に対する地代の比率が30%以上に達し、日本の江戸時代の地代率が四公六民すなわち40%を原則としたのは、ともに封建地代の典型とみなされる。なお明治期から昭和初期にかけて寄生地主制のもとに形成された高率地代を、封建地代とみるか否かの論争が、昭和初期に行われたが、現在では封建地代説が優勢である。フランスの封建地代はフランス革命で原理的に否定され、日本の寄生地主制下の高率地代は農地解放で廃棄された。

 西洋古典荘園に顕著な賦役も、普通、封建地代の典型とされるが、実はおもに富農自家の奴隷労働力の一部を領主に提供したものにすぎない。すなわちそれは、賦役提供責任者たる富農が、領主と同じく支配階級の成員であった点で、農業資本家が同じ資本主義社会の支配階級上層たる地主に支払う近代地代に似ている。ただしイギリスで13世紀ごろ広まった賦役は、領主が農奴に強制した労働地代で、封建地代の一種であった。

[橡川一朗]

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改訂新版 世界大百科事典 「封建地代」の意味・わかりやすい解説

封建地代 (ほうけんちだい)
feudal rent

封建社会においては,封建的生産関係が支配的であり,そのもとにおいて,土地の支配者である領主(封建的土地所有者)は,その土地に居住している農民(および手工業者など)から,賦役(ふえき)や年貢(ねんぐ)などさまざまな貢租を徴収する。その賦役や貢租を総称して封建地代という。封建社会では,個々の領主の支配する所領(荘園)が生産関係の基本単位をなしており,そこでは,直接生産者たる農民および手工業者などはそれぞれ生産手段(土地および用具など)と結合しており,領主は,その所領全体の封建的土地所有者として,それら直接生産者を支配している。そして,直接生産者の剰余労働ないし剰余生産物(自分と家族の維持に必要な部分を除いた剰余部分)は,経済外的強制(領主の行使する武力や裁判権や慣習など)によって,領主の手中に徴収されるのであり,こうして徴収された剰余労働ないし剰余生産物の総体が封建地代なのである。封建地代の形態としては,労働地代(賦役労働),生産物地代,貨幣地代の3者があり,歴史的にはこの順序で推移するが,二つまたは三つの形態が複合している場合もある。封建地代は,直接生産者の剰余労働または剰余生産物(貨幣地代ならその代価)のすべてを徴収するのが原則であるが,時代が下るにつれて,生産諸力の発展により,封建地代として徴収され尽くさない剰余部分が直接生産者の手もとに残るようになり,そうなると封建的生産関係はしだいに解体するようになる。
領主制
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百科事典マイペディア 「封建地代」の意味・わかりやすい解説

封建地代【ほうけんちだい】

封建社会で農民が領主や地主に納める地代。その最も簡単な形態は労働地代賦役など)で,それが現物地代年貢など)に変わり,さらに貨幣地代に発展する。貨幣地代に発展した封建地代は次に資本制地代に転化する。→地代
→関連項目封建的生産様式封建的土地所有

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「封建地代」の意味・わかりやすい解説

封建地代
ほうけんちだい
feudal rent

封建的土地所有を基礎とした生産様式のもとにおける地代。封建的土地所有者が直接生産者である農民から,経済外的強制を媒介として剰余労働部分のすべてを地代として収奪する形態。 (1) 労働地代 封建地代の第1段階を表示するもので,最も本源的な形態。すなわち直接生産者である農民が,1週間のうち幾日かを自己の保有地で労働し,残りの日数を領主の土地で領主のために無償で労働する形態。農民はみずからの労働用具をもって賦役を行うので,奴隷労働者,賃労働者と区別される。 (2) 生産物地代 封建地代の第2段階で,地代は労働が対象化された生産物という形で収奪される。 (3) 貨幣地代 封建地代の第3段階であり,封建社会の解体期に現れる形態で,農民は領主に対し,生産物でなくその価格を支払う形態。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「封建地代」の解説

封建地代
ほうけんちだい

封建領主が生産諸条件を保有する農民から強制的にとりたてる余剰労働ないし余剰生産物。(1)労働地代。農民が領主直営地においてみずからの労働用具を用いて行う無償の賦役労働。(2)生産物地代。農民が生産した現物の一部を領主に支払う。(3)貨幣地代。農民が生産物の一部を販売して得た貨幣を領主に支払う。(1)~(3)の移行の前提には農民の自立性の強まりがあり,また移行にともなって,農民の手元に余剰の一部が蓄積される傾向が強まる。その意味で貨幣地代の一般的成立は,独立自営農民層の成立と資本制地代の発生を可能にする。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「封建地代」の解説

封建地代(ほうけんちだい)
feudal rent

地代とは本来,土地の利用者(農民)が所有者に支払う土地の用益の対価である。中世ヨーロッパ社会では土地所有が領主権力の保持とかかわっており,地代は土地の利用者から経済外強制により課された。近代社会とは異なるこうした地代徴収の形態を封建地代と呼ぶ。それは,賦役による労働地代,生産物(現物)による地代,貨幣地代に区別され,おおむねこの順に変化することで,領主と農民の関係も人身支配から契約関係へと移行した。

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旺文社世界史事典 三訂版 「封建地代」の解説

封建地代
ほうけんちだい

封建社会における地代の総称。労働地代・生産物地代・貨幣地代の3種類がある
労働地代はおもに中世初頭に支配的に行われ,ついで生産物地代(12〜13世紀以降),貨幣地代(14〜15世紀以降)の順序で転化した。ただし,イギリスでは12世紀以降労働地代から一挙に貨幣地代に転化したが,東ドイツでは一度生産物地代に移行しながら,15〜16世紀に再び労働地代に逆転,グーツヘルシャフトを成立させた。これらの異なる地代の転化は,商品貨幣経済の浸透下での領主対農民関係の推移の地域的条件の差異にもとづく。

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世界大百科事典(旧版)内の封建地代の言及

【地代】より

… 資本制地代は,(1)差額地代differential rent,(2)絶対地代absolute ground‐rent,(3)独占地代monopolistic rent,(4)代替費用地代(=機会費用地代),に大別される。 さらに地代を歴史的にみると,先資本制地代と資本制地代に分けられ,先資本制地代はさらに,封建地代と過渡的地代形態に区別される。そして,封建地代は歴史的発展の順序に従って,(1)労働地代,(2)生産物地代,(3)貨幣地代,に区別される。…

※「封建地代」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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