〘形口〙 さむ・し 〘形ク〙
① 温度がいちじるしく低く感じられるさま。
(イ) 物体や液体の温度が、自分の体温よりもいちじるしく低く感じられるさま。つめたい。
※催馬楽(7C後‐8C)飛鳥井「飛鳥井に 宿りはすべし や おけ 蔭もよし 御甕(みもひ)も左牟之(サムシ) 御秣(みまくさ)もよし」
※兼盛集(990頃)「みづさむくかぜもすずしきわがやどはなつといふことをしらでこそふれ」
(ロ) 気温が不快なほどに低いさま。また、そのように感じるさま。
寒気を感じるさま。《季・冬》
※書紀(720)天智称制一二月(北野本訓)「高麗国は寒(サムイ)こと極(きはま)て倶(え)凍(こほれ)り」
※俳諧・笈の小文(1690‐91頃)「寒けれど二人寝る夜ぞ頼もしき」
② ある物事によって、いかにもひえびえと感じられるさま。
(イ) からだや心がひえるように感じられるさま。さむざむと感じられるさま。
※万葉(8C後)一四・三五七〇「葦の葉に夕霧立ちて鴨が音(ね)の左牟伎(サムキ)夕へし汝(な)をばしのはむ」
※俳諧・夜半叟句集(1783頃か)「梅ちりてしばらく寒き柳かな」
(ロ) 身や心がひきしまるように感じられるさま。きびしく、冷厳に感じられるさま。
※ささめごと(1463‐64頃)上「さむくやせたる句のうちに、秀逸はあるべしといへり」
③ 恐ろしさにぞっとする感じである。身の毛がよだつ感じである。〔観智院本名義抄(1241)〕
※趣味の遺伝(1906)〈夏目漱石〉三「醜虜の胆を寒からしむだの、凡てえらさうで安っぽい辞句は」
④ 経済的に貧しい。金銭の持ち合わせが少ない。また、身なりなどが貧相だ。みすぼらしい。
※史記抄(1477)五「つよく寒くかなしい者は、てんつるはぎなるきるものでまり大切なほどに重宝と思ぞ」
※浮世草子・世間胸算用(1692)五「酒は呑たし、身はさむし」
[語誌](1)現代語では、「暑い・暖かい・涼しい」と同系列の温度感覚形容語で、身体内部の生理感覚にもとづく話し手または感覚主の状態の表現。「冷たい」が、身体の一部における皮膚感覚にもとづく対象としての事物の表現として使用される点で、「寒い」と意味領域を異にしている。
(2)上代では、感覚主の状態、対象の状態の両方に用いられた語であったが、中古、中世を通じて、感覚主の状態を表現する語として確立していく。「冷たし」という新たな語の出現したことがその背景にあった。
(3)中古において均衡状態を保っていた「寒し」と「冷たし」は、次第に、感覚主の状態を表わすか、対象の状態を表わすかということによって、意味用法が分化していき、特に「寒し」は比較的早く、現代語に近い意味領域を獲得した。
さむ‐が・る
〘自ラ五(四)〙
さむ‐げ
〘形動〙
さむ‐さ
〘名〙