富田荘(読み)とみたのしょう

百科事典マイペディア 「富田荘」の意味・わかりやすい解説

富田荘【とみたのしょう】

尾張国海東(かいとう)郡の荘園。〈とだ〉ともいい〈戸田〉とも書く。現名古屋市中川区富田町を中心にした庄内川下流域にあった。11世紀末の成立。一部姉小路家領を除いて近衛家領。1211年北条義時により地頭請(じとううけ)が成立。1283年地頭職は鎌倉円覚寺に寄進され,1327年再度地頭請がなされたが,領家(りょうけ)の得分は大きく後退年貢は地頭分の1割にも満たなかった。このとき作成された富田荘絵図(重要文化財)には政所(まんどころ)や社寺宿場家並などが正確に描かれている。建武政権下では領家は阿野廉子(あのれんし)となるが,守護土岐氏や国人(こくじん)層の押領(おうりょう)が始まり,1388年円覚寺は荘経営を断念,1401年当荘半分を上総国伊勢氏領と交換している。

富田荘【とみだのしょう】

阿波国名東(みょうどう)郡の荘園。現徳島市中心部の低湿地を荘域とし,富田浜などの地名が残る。国衙領の南助任(みなみすけとう)保・津田島(つだじま)を前身とし,奈良春日大社興福寺)領。立荘は1204年で,在京の貴族大江泰兼が領家となって立荘を推進,荘官在地領主粟田氏で,当時の面積は52町余,うち6割が荒廃地であった。国衙領から転じた荘園であるため,収公・立荘が繰り返され,支配をめぐって複雑な係争がおきたようである。室町時代には興福寺大乗院領となっている。

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改訂新版 世界大百科事典 「富田荘」の意味・わかりやすい解説

富田荘 (とみたのしょう)

尾張国海東郡(現,愛知県名古屋市中川区富田町,海部郡蟹江町,大治(おおはる)町,あま市の旧七宝町,旧甚目寺(じもくじ)町あたり)の荘園。〈とだ〉ともいい〈戸田〉とも書く。11世紀後半に成立したと思われ,のち近衛家領。北馬島を除き領家は鎌倉末には近衛北政所,建武政権下では阿野廉子であった。1103年(康和5)平季政が下司職に補任された。1211年(建暦1)北条義時による地頭請が成立。83年(弘安6)北条時宗により地頭職は鎌倉円覚寺に寄進され,1327年(嘉暦2)円覚寺の地頭請が成立,毎年110貫文の領家年貢を京進することとなり,絵図が作成された。14世紀前半には,東に接していた宣政門院領一楊御厨(ひとつやなぎのみくりや)余田方と南の萱野堺をめぐって相論した。14世紀後半になると,尾張守護土岐氏一族や国人等の押領にあい,1396年(応永3)まず当年分と伊勢右衛門法師道貞の知行分上総国堀代郷など3ヵ村との交換契約が成立し,1401年には当荘半分と前記3ヵ村の永久交換が安堵された。31年(永享3)には奉公衆道家次郎左衛門が知行している。終末所見は,86年(文明18)大治町成願寺蔵鰐口銘。
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富田荘 (とみたのしょう)

阿波国名東郡(現,徳島市)の荘園。前身は国衙領の南助任保津田島。この保が興福寺回廊造営料所にあてられたことを契機に,在京の中級貴族大江泰兼は,保の荘園化を推進し,1204年(元久1)に春日社を本家,大江泰兼を領家,在地領主粟田重政らを荘官にする富田荘が成立する。この荘およびその前身の保は吉野川の河口,現徳島市の中心部一帯の低湿地を荘域としており,平安末期から鎌倉期にかけて条件劣悪な三角州上で荒廃になやまされながら耕地の開作が進められ,荘園の基盤が作られる。立荘時の耕地50町のうち6割が荒廃地と記されていることからも開作の困難さが知られる。国衙領が転化してできた荘園であるため,立荘以後鎌倉期を通じて,興福寺・春日社と阿波国衙との紛争がおきている。地頭は承久の乱の後,伊予の河野氏が入部したとされるが確実ではない。南北朝動乱期以後は阿波守護細川氏の支配下の荘園になった。
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世界大百科事典(旧版)内の富田荘の言及

【尾張国】より

…守護職は小野氏の同族中条氏にうけつがれたが,14世紀初頭以降北条氏一門である名越宗教がこれに代わった。北条氏一門の進出は尾張においても顕著で,一門領は富田荘,篠木荘,枳豆志(きずし)荘,御器所保など全域にわたっている。 北条氏滅亡後成立した足利政権は1353年(正平8∥文和2)尾張守護に美濃守護土岐頼康を任じた。…

【阿波国】より

… 中世,阿波の耕地は古代よりも一段と拡大した。鎌倉初期にあらわれる春日社領名東郡富田荘は,奈良時代の開発の最前線に位置した新島荘よりもさらに河口に近い低湿地に立地している。古代から中世にかけて,水と闘いつつ耕地拡大は着実に前進した。…

※「富田荘」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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