家族性痙性対麻痺

内科学 第10版 「家族性痙性対麻痺」の解説

家族性痙性対麻痺(脊髄小脳変性症)

(5)家族性痙性対麻痺
 家族性あるいは遺伝性痙性対麻痺(familial/hereditary spastic paraplegia:FSP/HSP)は,緩徐進行性の両下肢の痙縮と筋力低下を主徴とする神経変性疾患で,1880年のStrumpellの記載に始まる.わが国では行政的に脊髄小脳変性症のなかに分類されている.錐体路徴候に加えて深部感覚障害がみられることが多いが,さらに視神経萎縮網膜変性症,錐体外路症状,精神発達遅滞,認知症,眼振,失調難聴などを呈することがあり複合型とよばれることがある.正確な頻度は不明であるが10万人あたり0.2名程度とまれである.MRIでは脊髄の萎縮が疑われる程度で所見に乏しいが,一部に脳梁の低形成を伴う病型が知られている.電気生理検査では後索や錐体路の病変を反映して感覚神経誘発電位や磁気刺激による運動神経誘発電位などの異常がみられる.遺伝形式としては常染色体優性,常染色体劣性,伴性劣性が存在するが孤発例も少なくない.近年,paraplegin,spastin,L1CAM,PLP(proteolipid protein)などの原因遺伝子あるいは遺伝子座が相次いで同定されており,現在50以上の疾患が知られているが(表15-6-16),spastinの変異によるSPG 4が約40%と最も多い.治療は,現在のところは抗痙縮薬の経口投与ボツリヌス毒素注射バクロフェンの髄腔内投与などによる対症治療が主体であるが,末梢神経縮小術・後根侵入部遮断術などの機能外科的試みも行われている.[水澤英洋]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報