家族性低リン血症性くる病

内科学 第10版 の解説

家族性低リン血症性くる病(近位尿細管疾患)

(3)家族性低リン血症性くる病(familial hypophosphatemic rickets)
概念
 腎近位尿細管でのリンの再吸収閾値が低下し,リンの尿中への喪失により低リン血症,くる病,四肢の変形やO脚(内反膝と下肢湾曲),成長障害,齲歯をきたす.X染色体優性遺伝による病型や(X-linked hypophosphatemic rickets:XLH),常染色体優性の病型(autosomal dominant hypophosphatemic rickets:ADHR),および劣性の病型(autosomal recessive hypophosphatemic rickets:ARHR)がある.さらに,高カルシウム尿症を伴う低リン血症性くる病(hereditary hypophosphatemic rickets with hypercalciuria:HHRH)も知られている.
病態生理
①XLHの原因はPHEX遺伝子(a phosphate regulating gene with homology to endopeptidase on X chromosome)の変異が原因である.PHEX遺伝子がコードする蛋白は,尿細管におけるリンの再吸収を抑制する蛋白であるFibroblast growth factor23(FGF23)を不活化する.PHEX遺伝子の変異によりFGF23が不活化できず,尿中へのリンの排泄が増加し,低リン血症によるくる病が発症する.②ADHRの原因はFGF23蛋白の機能を亢進させる変異が原因である.FGF23蛋白はRXXRmotif部位とよばれるアルギニンの部位で切断され失活する.ADHRではアルギニンが他のアミノ酸に変化する変異のために切断されず,FGF23の機能が保たれ,尿中にリンが失われ低リン血症によるくる病が発症する.③ARHPの原因はdentin matrix protein 1(DMP1)をコードする遺伝子,DMPIの変異である.DMP1はFGF23の分泌を抑制する.DMP1の変異によりFGF23の抑制ができず,尿中にPが失われ低リン血症によるくる病が発症する.④高カルシウム尿症を伴う遺伝性低リン血症性くる病hereditary hypophosphatemic rickets with hyp­ercalci-uria(HHRH)の原因はsodium/phosphate cotransporter Ⅱc(NaPi-Ⅱc)をコードする遺伝子SLC34A3の変異が原因である.NaPi-Ⅱcの異常により尿細管からのリンの吸収が低下し尿中にリンが失われ,くる病を発症する.
臨床症状
 近位尿細管でのリン再吸収低下により尿中にリンが排泄されて低リン血症となった結果,骨石灰化が障害されてくる病が発症する.血清カルシウムやPTHは正常であることが多い.著しい低リン血症の存在にもかかわらず,ビタミンD活性化障害のため,1,25-(OH2-D3は正常値かやや高値にまでしか上昇しない.本症の多くは低身長,歩行開始の遅れ,下肢変形(O脚)などを主訴として,1~2歳で診断される.乳児早期に前頭部あるいは後頭部の著明な突出(oxycephaly)を伴った頭蓋狭窄症を呈することがある.患児は歯髄腔が大きいため乳歯の齲歯を繰り返すことがある.本症の7割近くで腱,靱帯,関節膜に石灰化が生じ,関節痛の原因となる.
診断
 上記の症状に加えて,低リン血症,尿へのリンの排泄過多,%TRP(尿細管リン再吸収率)は低値である.血清Caは正常,1,25-(OH)2-Dは正常かやや低値となる.血中PTHは正常上限からやや高値となる.ほとんどが遺伝性であるが,まれに孤発では成人で発症することがある.
治療
 リン欠乏を補うためにリン製剤(10~30 mg/kg/日を分4で投与)を投与する.また,ビタミンD活性化障害を伴うので,1α-OH-D3を投与する.低身長に対しては成長ホルモンの投与が行われる.早期診断がなされて十分な治療が行われれば,骨や成長障害を最小限にとどめることが可能である.血清リンは3.5 mg/dL以上,特に6歳未満では4 mg/dL以上に保つ.ビタミンDの過剰による高カルシウム血症や高カルシウム尿症,リン過剰による二次性副甲状腺機能亢進症をきたすことがないように注意する.特に腎石灰化が起きないように注意する.しかし成人例では,ビタミンDの長期投与によって腎,腱,靱帯,関節包の石灰化が高頻度に認められる.[寺田典生]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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