家持(読み)いえもち

精選版 日本国語大辞典 「家持」の意味・読み・例文・類語

いえ‐もち いへ‥【家持】

〘名〙
① 家屋を所有すること。また、その人。特に、江戸時代借家人に対して、家・屋敷を所有している町人をいう。町人としての権利と義務を有した。いえぬし。やぬし。おおや。
梅津政景日記‐元和五年(1619)三月二二日「窂人かかへ候はは、町中家持請人に立候はは、不苦候」
② 一戸を構えて生活している人。所帯持ち。
※思出の記(1900‐01)〈徳富蘆花〉九「今直ぐ家持になって呉れと云ふんぢゃ無いがね」
分家をいう。
※秋山記行(1831)二「此家の老人は、己、〈略〉此五軒の村の惣本家、昔の二十軒余は家持だと云ふ」
家計のやりくり。一家の生計の処理。所帯持ち。
政談(1727頃)一「跡目養子等の真偽吟味も成らず、身持・家持の悪きも知れず」

やかもち【家持】

謡曲。五番目物。廃曲作者不詳。万葉集撰集の勅命を受けた大伴家持は、妻の病気も顧みずに参内する。娘の姫はこれを悲しみ陰陽師の秦安国(はたのやすくに)を呼んで、自分が母の身代わりとなるので、母の命を助けるように頼み自殺する。家持の夢のうちに、火車を引いて病人を引き取りに来た鬼に姫は歌をよんで感じ入らせ、ついに姫は生きかえる。

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デジタル大辞泉 「家持」の意味・読み・例文・類語

いえ‐もち〔いへ‐〕【家持(ち)】

家屋を所有している人。屋敷持ち。
家族を養い、一家を構えている人。戸主
家計や所帯のやりくり。「家持ちがいい」
江戸時代、屋敷持ちとして公役の権利・義務が与えられ、本来の意味で「町人」と呼ばれた者。

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改訂新版 世界大百科事典 「家持」の意味・わかりやすい解説

家持 (いえもち)

日本近世の被支配諸身分のうち,百姓,町人,諸職人の者で,家屋敷を所持し,そこに居住する戸主のこと。家屋敷は,イエの基礎となる家屋と,その敷地とからなるが,家持はこの両方を同時に所持している。これに対して,自分は他所に住み,家屋敷を有する者を家主,敷地のみを有する者を地主という。また,家屋敷の全部または一部を借りて居住する者を借家・店借(たながり),敷地を借りて家屋は自分で有する者を地借とよぶ。家屋敷の敷地部分は,田畑と同じように高請(たかうけ)地とされ,年貢や高にもとづく諸役(高役)が賦課される場合(在方に多い)と,高請地とされないか,または高請地となっても年貢や高役の両方か高役のみが免除される場合(町方に多い)とがある。後者のような家屋敷は,町屋敷ともよばれる。家屋敷はまた,近世社会における役負担の体系の重要な基礎単位を構成する。軒役,面役などがこれである。したがって,敷地の高役が免除されている町屋敷においては,本来,軒役が唯一の役負担の基準となっているのである。次に,家屋敷の性格についてみると,在方と町方とでは顕著な相違が存在している。在方では,農業経営の主要な舞台は,高請された田畑なのであって,経営主体であるイエが家屋敷と一体であること(家持であること)は自明の前提なのである。したがって,百姓の場合には,高の所持,不所持が,身分や階層を区分するうえでの最も重要な指標になる。一方,町方に居住する町人や諸職人などの諸身分にとっては,家屋敷の所持,不所持,すなわち家持であるか否かが最大の指標となる。つまり,(1)公権力への役負担を担う公的な身分に属しうるかどうか,(2)町共同体の正規の構成員たりうるかどうか,(3)商業や手工業などの経営の基礎(店舗や作業場),あるいは安定的な蓄財対象であり,信用の最良の担い手であるものを自己の手中としうるかどうか--これらのいずれにおいても,家持であるか否かが決定的な分岐点なのである。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「家持」の意味・わかりやすい解説

家持
いえもち

江戸時代の町人階層の一つ。家持はその町に居住し、自宅および宅地を所有する者で、居付地主(いつきじぬし)(大坂では町内持)ともいった(そのほか大坂では他町持、他国持の区別がある)。また店借(たながり)人と違って、家持は町入用(ちょうにゅうよう)と称する町政の費用を負担した。したがって居付地主である家持は、町内でもっとも発言力をもち、はぶりをきかす者であったが、多くの家持は人を雇って代行させた。しかし場末の家持は代人をたてず、自分自身で直接に土地家屋を差配する者が多かった。初めは家持たちが五人組を組織したといわれているが、のちには代行者の家守(やもり)(大家(おおや))が五人組を組織するようになった。

[南 和男]

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百科事典マイペディア 「家持」の意味・わかりやすい解説

家持【いえもち】

日本近世の被支配身分のうち,百姓,町人,諸職人で家屋敷(家屋と敷地)を所持し,そこに居住する戸主のこと。ほかに自分は他所に住み家屋敷を有する家主,敷地のみを有する地主,家屋敷を借りて居住する借家・店借(たながり),敷地のみを借りている地借(じがり)があった。百姓の場合,家屋敷の敷地部分は田畑同様年貢や諸役(高役)が賦課された。町方の場合,屋敷のように年貢・高役が免除され,代りに軒役などが賦課された。
→関連項目自身番

家持【やかもち】

大伴家持

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「家持」の解説

家持
いえもち

前近代社会において,家屋敷をみずから所持して居住する者。とくに家屋敷の名義人である戸主をさす。おもに都市の住民について,地借(じがり)・店借(たながり)に対していう。家屋敷は金融の担保となるなど,商工業活動を行ううえで最も重要な町人の資産であり,これをもつ家持と地借・店借では社会的,法的に明確な格差がつけられていた。家持は町共同体の正式な構成員として町政に参加する一方,公役・町役を家屋敷の間口の広さに応じて負担する義務を負った。

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旺文社日本史事典 三訂版 「家持」の解説

家持
いえもち

江戸時代,町人階層の一つ
町内に家屋敷を所有する地主をいう。町人の中心で,町人としての権利(庶政や行事への参加)や義務(町役・公役の負担)を有した。町名主は家持の中から選出。地借から地代を,店借 (たながり) から店賃を徴収した。この場合,家持の管理を代行するのが大屋 (おおや) ・家守 (やもり) で,彼らは家持に準じて町政に参加した。

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世界大百科事典(旧版)内の家持の言及

【裏店】より

…したがってこのような裏店が密集した地区の人口密度はかなり高かった。江戸の場合,地主が屋敷地内に住む(家持または居付地主と呼ばれた)ことは少なく,多くは家守(やもり)(大家,家主ともいう)が屋敷地内に住居を構え,地代・店賃徴収を代行し,また裏店住人の人別改め(戸籍調べ)や町触(法令)通達などを行い,棒手振(ぼてふり)などの小商人,大工・左官などの職人,そして日雇いなどと呼ばれた下層単純労働者など,裏店住人の事実上の支配者となっていた。長屋【玉井 哲雄】。…

【町入用】より

…(c)町域で発生した諸事件や訴訟の処理に関する諸経費。(d)町内の家持や借家人の変動に伴う諸収入。とくに家持の場合,土地買得時の分一(ぶいち),通過儀礼の各段階における振舞いなどがあった。…

【町人】より

…日本近世における被支配諸身分の中で,百姓や諸職人とともに最も主要な身分の一つ。その基本的性格としては,(1)さまざまな商業を営む商人資本であること,(2)都市における家持(いえもち)の地縁的共同体である町(ちよう)の住民であり,正規の構成員であること,(3)国家や領主権力に対して,町人身分としての固有の役負担を負うこと,などがあげられる。以下(1)~(3)について説明する。…

【町法】より

…町法度,町内式目,定法書などと呼ばれた。江戸時代の都市の住民としての商工業者のうち,社会的に正規の町人として存在していたのは,家屋敷を所持し,その家屋敷の広狭に応じて町奉行所や惣町の諸費用およびその町限りの町費を負担する家持に限られ,住民の大部分を占めた地借(じがり)・店借(たながり)は町人身分として認められていなかった。そして家持が他町・他国住の不在地主の場合は,家持の代理として家作を管理する家守(やもり)(大家)が準町人として,家持とともに町共同体の構成員となり,町政の自治的運営が行われた。…

【家守】より

…家主(やぬし∥いえぬし),屋代(やしろ),留守居(るすい),大家(おおや)などとも呼ばれた。日本の近世社会は,家屋敷の所持者である家持を本来の正規の構成員として成立していたが,なんらかの事由で家屋敷の主人が長期にわたって不在となる場合,不在中の主人に委嘱され,家屋敷の管理・維持にあたるのが,家守の基本的性格である。このような主人不在の家屋敷は,おもに都市域,なかでも江戸,大坂,京都や諸国の城下町において顕著に見られた。…

※「家持」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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