家庭電器(読み)かていでんき

改訂新版 世界大百科事典 「家庭電器」の意味・わかりやすい解説

家庭電器 (かていでんき)

電気を利用した家庭用電気機械器具(家電製品)のことで,テレビ,ラジオ,ステレオ,テープレコーダーVTRなどの民生用電子機器と,冷蔵庫,洗濯機,掃除機,エアコンなどの民生用電気機器とからなる。ただし,照明器具電球,乾電池などは含めない。

 現在の家電主要製品の大半は,テレビやテープレコーダー,VTRなど数品種を除けば,世界の工業国で第2次大戦前からすでに生産されていた。しかし日本では,ラジオ以外の生産はまったく振るわなかった。戦前,日本でラジオ生産の圧倒的なシェアを有していたのは,GE(ゼネラル・エレクトリック)社が占有する受信用硬質真空管に関する特許の独占的実施権をもつ東京電気(1939年に芝浦製作所と合併して東京芝浦電気,84年東芝)と,薄利多売で急成長した松下電器産業であった。戦時中には,ラジオが思想教育手段として使われるなど需要が増大するなかで,早川電機(現,シャープ),八欧電機(現,富士通ゼネラル)といったセット・メーカーが台頭した。戦後も,これら大手ラジオセット・メーカーは急成長を続けたが,その背景には東芝,日立製作所が,財閥解体や労働大争議に揺れ,また重電部門の近代化に忙殺されて,ラジオ部門を拡充できなかったという事情もあった。1955年ころには,松下,八欧,早川,そして戦後創業の三洋電機が東芝とならんで上位にランクされるまでになった。第1次家庭電化ブームは,1952-53年ころから起こった。白黒テレビ,電気洗濯機,電気冷蔵庫,電気掃除機,電気釜扇風機などの家電製品需要は急激に増加しつづけ,家庭電化は主婦の家事労働を大幅に軽減した。また白黒テレビ,洗濯機,冷蔵庫は〈三種の神器〉としてもてはやされた。この過程で,最大のラジオセット・メーカーであった松下は洗濯機やテレビの量産体制を確立し,三洋は噴流式洗濯機の販売によって業界での地位を不動にした。また,早川はいち早くテレビの量産を開始した。一方,日立,東芝,三菱の重電3社は,56年ころから家電部門を拡充,ラジオやテレビ,冷蔵庫,洗濯機など各種家電製品の量産体制を整えた。この結果,重電3社のシェアは著しく拡大した(主力製品のテレビでは,1956年の14%から58年には38%へと増大)。

 60年前後から,家電メーカー各社は販売系列の強化を始め,従来の卸売商は系列販売会社に変わり,特定メーカーの製品だけを扱うようになった。専売制度を実現するには家庭電器の全製品を1社で供給する必要があり,専業メーカー各社は生産品目を増やして総合家電メーカーへと変貌した。またこのころから,テレビやテープレコーダーなど民生用電子機器を中心に輸出がめざましい伸びをみせはじめ,日本は世界最大の民生用電子機器輸出国となった。これは次の理由に基づいている。第1は,家電メーカーが積極的な設備投資を行って生産効率のよい新鋭工場をつぎつぎと建設し,量産体制を確立したことである。第2は,応用技術や商品企画力に優れていたことである。基本特許は外国から導入される場合が多かったが,短期間のうちに外国に勝る製品が生産された。たとえばカラーテレビは,工業化を終えて数年後には,もともとの開発国であるアメリカへ大量に輸出されるようになった。65年から67年にかけて,国内ではカラーテレビとクーラーの需要が著しく増加し,第2次家庭電化ブームが起こった(自動車carと合わせて頭文字から三Cと呼ばれ〈新三種の神器〉といわれた)。これら製品は高額であるため,家電生産額は飛躍的に増加し,67年に1兆円を超え,70年には2兆円を上回り,73年には3兆円を突破し,77年には4兆円,95年には5.4兆円となった。カラーテレビの対米輸出の増加が政治問題化し,日米両国政府交渉の結果,日本側が77年7月から3年間対米輸出を年間175万台に自主規制することで解決したことがあり,これ以後日本の家電メーカー各社は,アメリカに進出して現地生産を強化することで対処した。70年代末から,VTRがカラーテレビに代わる次代の家電主力製品として期待を集めるようになり,その生産額は,1975年の248億円が80年には5628億円へと約23倍にも増加したが,これも現地生産の進展により80年代後半をピークとして国内生産は頭打ち,さらに減下傾向となった(1991年の生産額は1兆0390億円,95年3810億円)。

 日本の家電産業は,国内市場の成熟化による国内需要の伸びの鈍化,欧米先進国での輸入規制強化,発展途上国の追上げといった問題を抱えている。このため家電メーカーは,海外現地生産を強化する一方で,非価格競争力の増強を狙って研究開発に力を注いでいる。なかでもエレクトロニクス技術を支えるIC(集積回路)は,集積度が高まると小型,軽量,低価格,低消費電力,高信頼性が一度に実現できるので,とくに力を入れている分野である。日本の家電産業は技術開発力,効率的な生産体制,巧みなマーケティングで欧米メーカーを圧倒しているが,世界市場も日本と同じく成長率が鈍化傾向にある。そのため90年代に入ってから日本の家電メーカーは,ファクシミリや複写機,ワードプロセッサー(ワープロ),パーソナルコンピューター(パソコン)などの分野の生産を大幅に増やしている。
電気機械工業
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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