家庭電化器具(読み)かていでんかきぐ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「家庭電化器具」の意味・わかりやすい解説

家庭電化器具
かていでんかきぐ

電気を応用した装置のなかで、家庭で使用されているものの総称。形が小さく、重量も軽く、消費電力をできるだけ低く抑えるようにくふうが加えられており、デザインや色彩についても、時代の要求に応じた改善が絶えず加えられている。家庭電化器具の普及が現代の社会生活に及ぼした影響はきわめて大きく、とくに家庭の主婦が日常の家内労働から解放され、自由に使える時間をもてるようになって、生活の意識までも変えるようになったことは、よく知られている。

[岡塚 尚]

歴史

日本の家庭電化器具の歴史は、1887年(明治20)に東京電燈(でんとう)会社(東京電力の前身)が初めて白熱電灯を輝かせたことから始まる。以来、主要都市に電灯会社が設立され、それに伴って家庭電化器具が徐々に普及し始めた。国産の主要電化器具が世の中に現れた跡をたどると、大正初期のアイロンに始まり、1916年(大正5)に扇風機、25年にラジオ、30年(昭和5)に電気冷蔵庫、31年に洗濯機と記録に残されている。しかし生産能力や国民の経済力などの問題もあって、価格が高すぎたために広く使用されなかった。37年における日本全国の普及台数は、冷蔵庫、洗濯機がいずれも約1万台にすぎず、アイロンでさえも約300万台であった。

 第二次世界大戦に入ると、「ぜいたく品」として、ごく一部の品目を除いて製造が禁止され、戦後の数年間は主として材料の不足から製造を再開できず、本格的に開始されたのは1953年(昭和28)ころである。以来、78年に至る25年間は、製造台数は年々増加の一途をたどり、78年における年間製造台数は、冷蔵庫、洗濯機がいずれも400万台をはるかに超え、普及率もほぼ99%に到達した。しかしこのあたりを境に年間製造台数の伸びは鈍化し始め、主要メーカーは輸出の拡大と新分野の開拓に注力し始めている。いうなれば大きな曲り角に達し、次に伸びていく方向を求めている。

[岡塚 尚]

分類と現状

家庭電化器具は次の3種類のグループに大きく分けることができる。第一のグループは、ルームエアコン、洗濯機、掃除機、冷蔵庫、電子レンジおよび電磁調理器など、家庭内での日常の生活環境を快適にするとともに、合理化を進めて余分な時間をつくりだす器具である。照明器具もこれに含まれる。第二のグループは、テレビジョンビデオおよびステレオ装置などを含み、第一のグループを用いてつくりだされた余分な時間を楽しむための方法を与えてくれる器具である。第三のグループは、ホームオートメーションhome automationとよばれる装置であり、品物をつくりだす工場の合理化、自動化を進めるファクトリーオートメーションfactory automationや、さらに事務の合理化を進めるオフィスオートメーションoffice automationに並ぶ大きな市場が期待される器具である。

 第一のグループについては、普及率が非常に高く、今後の国内向け製品の生産台数の伸びを期待することはむずかしいので、輸出を開始したが、品質がよくしかも価格が合理的なために各国において歓迎された。しかし輸出量が増加するにつれて制限が加えられ、1975年ごろから現地生産が開始されている。

 このような傾向は第二のグループについてもほぼ同様であるが、日本と外国との技術レベルを比較すると、家庭電化器具に関する限り、開発、設計、製造のいずれについても同等以上のレベルに達していると考えられ、海外からの産業視察団による工場訪問が相次いでいる。しかし、ヨーロッパ諸国がもっている産業革命以降の長い技術の歴史、アメリカにおけるコンピュータの広範囲な応用、軍事科学からの影響力などを考えると、ふたたび引き離される可能性は十分にある。最後に第三のグループについては、1980年ごろに始まったばかりで、ほとんどが将来的な内容となっている。

[岡塚 尚]

将来への展望

家庭電化器具の将来の形は、ホームオートメーションという考え方で示される家庭内のエネルギーと情報の総合的なコントロールシステムであり、それを支える技術はエレクトロニクスである。従来の家庭電化器具は、このシステムに個別の端末装置として接続され、もっともエネルギー効率の高いやり方で使用されるとともに、高い安全性を保証されている。さらに防犯・防災システムや、外部からの各種の情報の取り入れ・送り出しの機能も兼ね備えている。システムの中心には、各種の集積回路からなる小型のコンピュータが備えられ、端末装置との信号のやりとりには光ファイバーが使用される。システムの要所要所には、温度、湿度、煙、空気の清浄度、人体などを検知する各種のセンサーが接続されて目的を達している。このような装置はいずれもエレクトロニクスの応用であり、その制御回路には多数の集積回路が使用されている。1970年代には「家庭内にある小型モーターの数により電化の度合いが測れる」といわれていた。これは家庭電化器具がいずれも小型モーターを内蔵していたからであるが、これからは「家庭内にある集積回路の数により電化の度合いが測れる」といわれる時代になるであろう。

[岡塚 尚]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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