家庭経済学(読み)かていけいざいがく

日本大百科全書(ニッポニカ) 「家庭経済学」の意味・わかりやすい解説

家庭経済学
かていけいざいがく

家庭の生活設計に従って生じる経済活動を家庭経済または家計といい、これについての客観的な立場からの研究を家庭経済学という。17世紀の中ごろ、イギリスの経済学者ペティが平均的な人々の消費内容を金額ではじき出し、それを国富の計算資料にしたことに始まるとみる人もあれば、18世紀末にイギリスの経済学者イーデンが著した『貧民の状態』を家庭経済学の原点とみる人もある。その後フランスのル・プレー、ベルギーのデュクペシオ、ドイツのエンゲル、イギリスのロウントリイら経済学者たちがそれぞれの国での調査を行ったが、この研究のなかに家庭経済学の萌芽(ほうが)があったといえよう。ただしこれらの研究は、社会的福祉の立場から労働者個人あるいは世帯を考察したのであって、家庭経済の立場で解明を試みようという意図があったとは思われない。

 家庭経済そのものを分析し、また体系づけたのは松平友子(1894―1969)である。家庭経済学は、国民経済主体の一つを研究する学問として経済学の一領域とみるべきなのであるが、今日でも経済学者のなかでの認識は乏しく、生産理論を主とする経済学とは別のものとみる例が多い。しかし、松平友子以降、家政学者のなかではこれを確立しようとする動きもまた大きくなっている。

 家庭経済を、国民経済や企業経済と同一の理論で解明しにくいのは、次のような点にある。

(1)経済活動の目標が、国民経済や企業では所得の最大を目標とするのに対して、家庭経済では家族の満足の最大を目標とするものである。企業においては利潤達成のためには雇用者家族を犠牲にすることさえあるので、家庭経済とはその立場が相反し、理論そのものが成立しない。

(2)家庭経済は世帯を単位とするものであり、世帯の経済活動に生じる法則性は、個人や国民経済のように多くの主体の集合したもの、あるいは企業のような主体とは異なるものである。したがって、国民経済にとってよい経済活動がかならずしも家庭経済にとって望ましいとはいえない。

(3)家庭経済は時間の経過とともに変化していく。すなわち、成長、発達衰退、消滅という循環を繰り返すという特殊性をもつ。

(4)労働力は消費することにより再生産される。

 以上のような点から、家庭経済のみを対象として、とくに研究する学問の独自性が存在するのである。ホーム・エコノミクスHome Economicsを家庭経済学と訳すのは誤りで、これにはすでに「家政学」という概念がある。家庭経済学を英訳するならばエコノミクス・オブ・ハウスホールズEconomics of Householdsとなろう。

 なお、家庭経済学の研究内容はかなり広範にわたるが、分類すると次のようになる。

(1)家庭経済の本質(家庭経済の目的、特質、とくに生産組織か消費組織か)
(2)家庭経済の国民経済における位置づけ
(3)収入、支出、貯蓄の時系列分析、そのなかにある法則性をみいだす横断分析(世帯人員数別、世帯主の年齢別、所得の種類別、所得階級別家庭経済のあり方と法則性)
(4)収入、支出を規定する要因
(5)物価と家庭経済のあり方
(6)家庭経済に基づいた生活設計
(7)家計簿記論
[伊藤秋子]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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