家の芸(読み)いえのげい

精選版 日本国語大辞典 「家の芸」の意味・読み・例文・類語

いえ【家】 の 芸(げい)

その家に代々伝わる特殊または得意の技芸。お家芸。
洒落本・廓大帳(1789)「このあいだ彌八玉やで、だいぶ家のげいをだしました」

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デジタル大辞泉 「家の芸」の意味・読み・例文・類語

いえ‐の‐げい〔いへ‐〕【家の芸】

ある家に代々伝えられてきた由緒ある技芸。主に歌舞伎についていう。お家芸。「一子相伝家の芸」「音羽屋家の芸

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「家の芸」の意味・わかりやすい解説

家の芸
いえのげい

歌舞伎(かぶき)俳優の名家に代々伝わる独特の演技術、役柄、および当り狂言。昔から家と名跡を重んじた歌舞伎界で、後代の俳優が父祖の芸と業績を尊重し継承しようとした努力により、各家系に生まれた。初世以来、代々の市川団十郎が得意として演じてきた「荒事(あらごと)」は代表的なもので、その具体化としては、7世団十郎が荒事を基本とする18種の演目(『暫(しばらく)』『矢の根』『鳴神(なるかみ)』『助六(すけろく)』『勧進帳(かんじんちょう)』など)を制定した「歌舞伎十八番」が適例である。ほかに尾上(おのえ)菊五郎家の「怪談物」のお岩、累(かさね)や「生世話(きぜわ)物」のお祭佐七(さしち)など、松本幸四郎家の仁木弾正(にっきだんじょう)、幡随長兵衛(ばんずいちょうべえ)など、沢村宗十郎家の苅萱(かるかや)、梅の由兵衛(よしべえ)などの役は、それぞれの「家の芸」といえる。7世団十郎は自身の当り芸を新しい「十八番」として選ぼうと考えながら果たせずして死んだが、9世団十郎はその遺志を継ぎ、明治になって自分の創演した「活歴(かつれき)物」と新形式の舞踊劇を加え「新歌舞伎十八番」を制定した。また、5世菊五郎は市川家に対抗する尾上家の「家の芸」として、自身の初演作品のなかから「新古演劇十種」の制定を企画、6世菊五郎がこれを完成させた。以後、俳優の間に父祖および自身の当り芸を選ぶことが流行した。例として、初世中村鴈治郎(がんじろう)の「玩辞楼(がんじろう)十二曲」、11世片岡仁左衛門の「片岡十二集」、2世市川左団次の「杏花(きょうか)戯曲十種」、15世市村羽左衛門の「可江(かこう)集」、7世沢村宗十郎の「高賀(こうが)十種」、初世中村吉右衛門(きちえもん)の「秀山(しゅうざん)十種」などがあり、近年では3世市川猿之助が祖父市川猿翁(えんおう)(2世猿之助)の当り芸を選んだ「猿翁十種」「沢瀉(おもだか)十種」がある。また新派にも花柳(はなやぎ)章太郎の「花柳十種」、水谷八重子の「八重子十種」がある。

[松井俊諭]

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改訂新版 世界大百科事典 「家の芸」の意味・わかりやすい解説

家の芸 (いえのげい)

歌舞伎用語。役者の家に得意芸として伝えられた演技や演目。また,自分一代で築いた得意演目もある。市川団十郎家(成田屋)の荒事芸,および荒事芸を含んだ〈歌舞伎十八番〉の演目がその代表。団十郎家には〈新歌舞伎十八番〉もある。尾上菊五郎家(音羽屋)を例にとれば,《四谷怪談》《牡丹灯籠》などの怪談狂言や,舞踊曲を集めた〈新古演劇十種〉があり,沢村宗十郎家(紀伊国屋)には和事芸を集めた〈高賀(こうが)十種〉がある。市川団蔵家の〈古劇八種〉,2世市川左団次選定の〈杏花(きようか)戯曲十種〉,5世中村歌右衛門が得意とした〈淀君集〉,15世市村羽左衛門の得意芸〈可江集(かこうしゆう)〉,加藤清正役などを初世中村吉右衛門が制定した〈秀山(しゆうざん)十種〉,2世市川猿之助創演の〈猿翁十種〉,上方系には初世中村鴈治郎制定の〈玩辞楼(がんじろう)十二曲〉,片岡仁左衛門家の〈片岡十二集〉など(表を参照)。数え上げられる演目には不確定な面があり,現在上演されうるものは限られている。
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