宮古動物群(読み)みやこどうぶつぐん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「宮古動物群」の意味・わかりやすい解説

宮古動物群
みやこどうぶつぐん

岩手県宮古市付近の外洋性の沿岸ないし浅海性の宮古層群から産する化石動物群。宮古層群は宮古市付近から太平洋沿岸を北方へ約35キロメートルにわたって点々と存在する。ここから産する動物化石の時代は、白亜紀前期のアプチアン後期からアルビアン前期までの、約1億1500万年~1億1000万年前のもので、産出化石種の総種数は、大形有孔虫1種、海綿1種、六放サンゴ約60種、腕足貝2種、二枚貝76種、巻き貝約40種、頭足類約50種、ウミユリ1種、ウニ5種、甲殻類1種、石灰藻4種、恐竜1種(草食恐竜である竜脚類の前腕骨)、植物4種が知られている。現在のゴカクウミユリ類(トリノアシ類)は比較的深海(200~1000メートル)にすむが、注目すべきことに、当時のゴカクウミユリ類は浅海(たぶん水深数十メートル以浅)にすんだと思われる。捕食者の真骨魚類が多様化する海洋変革の行われる以前のことであったからであろう。アンモナイト類では平滑型のデスモセラス超科、装飾型のホプリテス超科、異常巻きの種類など多様で、これらのなかには、ヨーロッパ、アフリカ北部、中央アジアなどテチス海域やマダガスカル島を含むインド洋周辺地域、北アメリカの太平洋側地域との近縁種や共通種が少なくない。産出二枚貝を、推定される成貝の生態に応じて大別すると、匍行(ほこう)潜入型(浅所潜入と深所潜入を含む)、足糸付着型、殻片固着型、一時遊泳型、木材穿孔(せんこう)型の順に多い。

 礫(れき)質砂岩には殻片固着型、砂質頁岩(けつがん)には一時遊泳型または深所潜入型の二枚貝が種類、個体数ともに多いので、自生群集はまれであるにもかかわらず、遺骸(いがい)群集と生活環境の間に密接な関連が示唆されている。一部には堆積(たいせき)時の堡礁(ほしょう)内側に二枚貝が運ばれ、そこには現地で成長した自然の形のサンゴを伴う。二枚貝類も、ヨーロッパ、クリミア半島カフカスカメルーンアンゴラなどから産出する種と比較されるものが多い。ベレムナイトによる酸素同位元素測定では、平均海水温度は18℃で、大形有孔虫、石灰藻、サンゴ、厚歯(あつば)二枚貝などの存在から、当時の海水はかなり温暖であったと推定される。しかし、宮古層群にはビーチロックbeach rock(熱帯や亜熱帯の海岸にみられる固結した石灰質砂岩)が発見された層準もあり、大昔の熱帯性ないし亜熱帯性の気候下の潮干帯(ちょうかんたい)(潮の干満に伴い、海面より上になったり下になったりするところ)であった部分がある。近年、津波の痕跡(こんせき)も報告されている。

[小畠郁生]

『日本の地質東北地方編集委員会編『日本の地質2 東北地方』(1989・共立出版)』『小畠郁生著『白亜紀の自然史』(1993・東京大学出版会)』

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