室鳩巣(読み)むろきゅうそう

精選版 日本国語大辞典 「室鳩巣」の意味・読み・例文・類語

むろ‐きゅうそう【室鳩巣】

江戸中期の儒者。江戸の人。名は直清、字は師礼、通称新助。加賀侯に仕え、藩命により京都の木下順庵に学ぶ。程朱の学を信奉し、道義思想を鼓吹し、赤穂義士を賛美し、陽明学や古学派を排斥した。のち、新井白石の推挙によって幕府の儒官となり、将軍吉宗に信任されて、清の「六諭衍義」の和訳を命ぜられ、「六諭衍義大意」を刊行した。主著「鳩巣先生文集」「赤穂義人録」「駿台雑話」など。万治元~享保一九年(一六五八‐一七三四

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デジタル大辞泉 「室鳩巣」の意味・読み・例文・類語

むろ‐きゅうそう〔‐キウサウ〕【室鳩巣】

[1658~1734]江戸中期の儒学者。江戸の人。名は直清。別号、滄浪。加賀前田家に仕え、藩命により木下順庵に学び、朱子学を信奉。のち、新井白石の推挙で将軍徳川吉宗の侍講となる。著「六諭衍義りくゆえんぎ大意」「駿台雑話」など。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「室鳩巣」の意味・わかりやすい解説

室鳩巣
むろきゅうそう
(1658―1734)

江戸中期の儒者。名は直清、字(あざな)は師礼、通称新助。鳩巣、滄浪(そうろう)と号した。備中(びっちゅう)英賀(あが)郡(岡山県上房(じょうぼう)郡)出身の医師玄樸(げんぼく)(1616―1684)の子として、明暦(めいれき)4年2月26日、江戸・谷中(やなか)(東京都台東(たいとう)区)で生まれる。幼年より書籍に親しみ、1672年(寛文12)加賀藩前田綱紀(まえだつなのり)に仕えて、その命により京都の木下順庵(きのしたじゅんあん)に就いて学んだ。1686年(貞享3)加賀(金沢市)に赴任し、廃屋を買って住居としてから、鳩巣の号を用いるようになった。この間、山崎闇斎(やまざきあんさい)門下の羽黒養潜(はぐろようせん)(1629―1702)と往来して学問を深めたが、朱子学者としての定見をもったのは40歳近くになってからという。1711年(正徳1)同門の新井白石(あらいはくせき)の推挙で幕府儒官に転じ、江戸・駿河台(するがだい)に住んで、白石失脚後も将軍徳川吉宗(とくがわよしむね)の信任を得て、1722年(享保7)侍講(じこう)となり、しばしば諮問を受け、幕政にも関与した。1725年には西丸(にしのまる)奥儒者となり、享保(きょうほう)19年8月12日に77歳で没するまで、その地位にあった。

 陽明学や仁斎(じんさい)学、徂徠(そらい)学の流行時に、朱子学を墨守して普及に努めたが、晩年にはわが心をよりどころにして近世的な自我意識や、君臣、君民間の契約を論じて、単に封建的なイデオローグとしてかたづけられない可能性を示した。著書に『赤穂(あこう)義人録』(1703序)『六諭衍義(りくゆえんぎ)大意』(1722)『駿台雑話(すんだいざつわ)』『不亡鈔(しょう)』『明君家訓』(1692成立か)『鳩巣文集』(1763)など多数がある。

[高橋博巳 2016年7月19日]

『『日本思想大系34 貝原益軒・室鳩巣』(1970・岩波書店)』

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百科事典マイペディア 「室鳩巣」の意味・わかりやすい解説

室鳩巣【むろきゅうそう】

江戸中期の儒学(朱子学)者。名は直清(ただきよ),字は師礼(しれい)。江戸郊外の医家に生まれる。木下順庵に学ぶ。新井白石推薦により幕府の儒官となり,厚く朱子学を奉じ,徳川吉宗の信任を得て,享保改革の一環をになった。赤穂浪士を義人とするのは彼に始まる。著書《義人録(ぎじんろく)》《六諭衍義大意(りくゆえんぎたいい)》《国喪正義(こくそうせいぎ)》随筆《駿台(すんだい)雑話》など。
→関連項目京学前田綱紀

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改訂新版 世界大百科事典 「室鳩巣」の意味・わかりやすい解説

室鳩巣 (むろきゅうそう)
生没年:1658-1734(万治1-享保19)

江戸中期の儒者。朱子学派。名は直清,字は師礼,通称は新助。鳩巣のほか滄浪,英賀とも号した。江戸郊外の医者の子。15歳のとき加賀藩に出仕し,藩命で京都に遊学,木下順庵の門に入る。〈木門五子〉の一人に数えられる。1711年(正徳1)同門の新井白石の推挙で幕府の儒官となり,〈正徳の治〉に参画した白石にしばしば苦言を寄せた。ついで8代将軍徳川吉宗の侍講となり,吉宗が設けた木門中心の学館高倉屋敷での講義や,寺子屋に配付した《六諭衍義(りくゆえんぎ)大意》(1722)の著作に当たった。鳩巣は,古学隆盛の時代にあくまで朱子学を守った。赤穂浪士事件のとき,主従の義を重んじる立場から《義人録》を著して浪士たちを顕彰したことは有名。20年余に及ぶ幕府出仕の間に,下問に応じた政治上・制度上の意見を記したのが《献可録》である。著作にはほかにひろく読まれた随筆《駿台雑話》や《鳩巣小説》《兼山秘策》など。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「室鳩巣」の意味・わかりやすい解説

室鳩巣
むろきゅうそう

[生]明暦4(1658).2.26. 江戸
[没]享保19(1734).8.12. 江戸
江戸時代中期の朱子学派の儒学者。名は直清,字は師礼,汝玉,通称は新助。父玄樸は医者。 14歳のとき加賀藩に仕え,藩主前田綱紀の命により京都の木下順庵の門に入り,朱子学を学んだが,当時隆盛をきわめていた山崎闇斎の門下とも交わり,特に羽黒養潜と親交があった。 45歳のとき『大学章句新疏』を著わして朱子学者としての定見を確立した。この年の赤穂事件を彼は士道宣揚の鑑として称揚,太平に慣れた士人階層に警告を発した。 54歳のとき新井白石の推挙により,三宅観瀾とともに江戸幕府の儒員となった。享保の改革のときには将軍吉宗の信任を受け,庶民教化のための『六諭衍義大意』 (1722) ,『五常五倫名義』 (23) を刊行した。ほかに著書『赤穂義人録』 (03~04) ,『駿台雑話』 (32) ,『献可録』『鳩巣文集』など。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「室鳩巣」の解説

室鳩巣
むろきゅうそう

1658.2.26~1734.8.14

江戸中期の儒学者。医師玄樸の子。名は直清,字は師礼・汝玉,通称新助。鳩巣・滄浪と号す。江戸生れ。1672年(寛文12)加賀国金沢藩主前田綱紀(つなのり)に仕え,藩命により京都に遊学して木下順庵に師事。1711年(正徳元)同門の新井白石の推挙で幕府の儒官となり,朝鮮通信使の応対や「尚書」などの講釈を行った。また8代将軍徳川吉宗の信任を得て「六諭衍義(りくゆえんぎ)」の和訳を行い,世子徳川家重の侍講も勤めた。学問は朱子学を基調とし道義を重んじた。「赤穂義人録」の著述はその立場からのもの。「鳩巣先生文集」「兼山麗沢秘策」「献可録」などの著書があり,「駿台雑話」は達意の文章で知られ版を重ねた。

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「室鳩巣」の解説

室鳩巣 むろ-きゅうそう

1658-1734 江戸時代前期-中期の儒者。
明暦4年2月26日生まれ。室玄樸の子。加賀金沢藩につかえ,木下順庵に朱子学をまなぶ。正徳元年(1711)新井白石におされて幕府につかえ,のち徳川吉宗の侍講となった。享保(きょうほう)19年8月14日死去。77歳。江戸出身。名は直清。字(あざな)は師礼,汝玉。通称は新助。別号に滄浪。著作に「赤穂義人録」「献可録」「駿台(すんだい)雑話」など。
【格言など】道理にて極めたる事は,たとえちがいても後悔なかるべし(「駿台雑話」)

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旺文社日本史事典 三訂版 「室鳩巣」の解説

室鳩巣
むろきゅうそう

1658〜1734
江戸中期の朱子学者
江戸の人。木下順庵の門下で,新井白石と並ぶ秀才。1711年白石の推薦で幕府の儒官となった。のち徳川吉宗の侍講となり,その知識は享保の改革の政策に活用された。著作に『駿台雑話』『六諭衍義大意 (りくゆえんぎたいい) 』など。

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367日誕生日大事典 「室鳩巣」の解説

室鳩巣 (むろきゅうそう)

生年月日:1658年2月26日
江戸時代前期;中期の儒者
1734年没

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世界大百科事典(旧版)内の室鳩巣の言及

【赤穂浪士】より

… 赤穂浪士は死後,〈義人〉〈義士〉としてたたえられた。なかでもその年の秋に室鳩巣(きゆうそう)が著した《赤穂義人録》が有名である。彼らが亡君の仇讐(きゆうしゆう)を報じた,または亡君の遺志を継いで吉良を殺したことが家臣・武士としての〈義〉に当たると考えられたからであり,全員が刑に服したことも世の同情を集めた。…

【兼山秘策】より

…金沢の儒者青地兼山,麗沢兄弟がその師室鳩巣から寄せられた書簡を編んだもので《兼山麗沢秘策》として世上に流布した。1711‐31年(正徳1‐享保16)の書簡を収める。…

【不亡鈔】より

…朱子学者室鳩巣の作とされる随想録。4巻。…

※「室鳩巣」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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