宇都宮釣天井事件(読み)うつのみやつりてんじょうじけん

改訂新版 世界大百科事典 「宇都宮釣天井事件」の意味・わかりやすい解説

宇都宮釣天井事件 (うつのみやつりてんじょうじけん)

宇都宮城主本多正純が,1622年(元和8)4月,日光参詣の帰路に同城に止宿する予定の2代将軍徳川秀忠を,釣天井などをしかけた御殿で殺そうとしたといわれる事件。秀忠が急に宇都宮をたって夜通しの強行軍で江戸城に帰った事実と,この年の10月の秀忠による正純改易や越前北ノ庄(福井)城主松平忠直(翌年隠居,流罪)の謀反うわさとが結びついて,できあがった巷説と考えられる。
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宇都宮釣天井事件を題材としてこれに虚構をとりまぜ,3代将軍徳川家光に当てはめて作られた俗説をもとに潤色した実録本・講談・歌舞伎狂言などの総称。秀忠の家督相続を家光と争って敗れた駿河大納言忠長の後見役である宇都宮城主本多上野介正純は,家光に恨みを抱いた。家光が日光参拝の帰途自分の城に立ち寄るのを幸い,寝所に釣天井を仕掛けて家光を圧殺しようとたくらむ。しかし,計画は失敗し,領地没収,出羽国に流されたという。これがいわゆる宇都宮騒動である。忠長の子松平長七郎は諸国を放浪して乱暴を働き,大坂日本橋で馬士を斬り,紀州侯の御用金を奪ったりする。この長七郎のくだりを含めて宇都宮騒動物とする。実録本《大久保武蔵鐙(あぶみ)》がもとになり,歌舞伎では織田の世界にして,1794年(寛政6)正月大坂の角の芝居で《傾城青陽𪆐(はるのとり)》(辰岡万作作)が初演されたのが早い。のちに,この作の一場面が《馬切り》の称で独立,後世に伝わる。明治以後,3世瀬川如皐作《忠孝武蔵鐙》(1869年4月東京中村座),河竹黙阿弥作《宇都宮紅葉釣衾うつのみやにしきのつりよぎ)》(1874年10月東京守田座),勝諺蔵作《宇都宮新斧手始(うつのみやちよんのてはじめ)》(1875年3月大阪中座),岡鬼太郎作《釣天井》(1922年9月東京明治座),額田六福作《宇都宮城史》など,いくつもの作品が上演された。
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世界大百科事典(旧版)内の宇都宮釣天井事件の言及

【本多正純】より

…翌年同国大沢に移され,翌24年(寛永1)秋田の佐竹家に預けられ同国横手に幽囚,37年横手で没。家康の信任をかさに専横のふるまいが多く,また秀忠との政策上の対立が改易の原因であり,〈宇都宮釣天井事件〉は信じ難い。しかしこの改易の前後に,松平忠直の動静と関連して,諸大名の一部による秀忠への謀反のうわさが江戸に流布したのは事実である。…

※「宇都宮釣天井事件」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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