婦人兵(読み)ふじんへい(英語表記)woman soldier

改訂新版 世界大百科事典 「婦人兵」の意味・わかりやすい解説

婦人兵 (ふじんへい)
woman soldier

歴史上,婦人戦争または戦闘で活躍した事例は少なくない。たとえばギリシア伝説では女王ペンテシレイアに率いられて戦ったアマゾン女武者伝承がある。また,イギリス,フランスの百年戦争(1337-1453)のジャンヌ・ダルクは有名である。以後現代にいたるまで婦人が勇敢に戦った例は数多いが,ほとんどは愛国的情熱から志願して戦う非組織的な行動であった。しかし,第1次大戦が起きるとイギリス,ロシアでは従前義勇兵のほかに婦人志願兵の募集が組織的に行われ,後方支援業務や一部では第一線戦いに参加した。

 第2次大戦では,イギリスが1939年に婦人の補助地方義勇軍Auxiliary Territorial Service(ATS)の募集を行い,アメリカも1942年5月志願陸軍婦人部隊Women's Army Auxiliary Corps(WAAC(ワーク))を設置し(1943年7月陸軍婦人部隊Women's Army Corps(WAC(ワツク))に改め,陸軍の一部とする),42年7月には海軍婦人義勇部隊Women's Accepted for Volunteer Emergency Service(WAVESウエーブズ))が生まれた。戦後1948年には空軍婦人部隊Women's Air Force(WAF(ワツフ))ができ,76年7月には婦人の士官学校入学も開始された。ソ連も1941年6月ドイツ軍の攻撃に対して婦人の徴兵を行い,後方任務に充てたが,志願して前線で戦う者もあった。その他フランス,フィンランドノルウェーデンマークオランダでも婦人補助部隊が編成された。これらの正規軍のほか,ドイツ占領軍に対するフランスのレジスタンスやユーゴスラビアのパルチザン闘争では婦人が自発的にナチスと激しく戦った。近年にもベトナム戦争,中米革命戦争,アイルランド紛争等で婦人多数がゲリラ兵として戦っている。日本では第2次大戦までは赤十字看護婦を従軍させたにとどまる。戦後1952年に保安隊で婦人看護制が発足,68年3月陸上自衛隊に婦人自衛官(愛称,WAC(ワツク))が,74年には海・空自衛隊に各婦人自衛官(愛称はそれぞれWAVE(ウエーブ)とWAF(ワツフ))が生まれ,衛生,通信,文書,会計,厚生等の分野で活躍している。

 今日,世界の多くの国で婦人兵制度を設けているが,任務はおもに医療看護,輸送,兵站(へいたん),通信等後方業務であり,戦闘任務を課しているのはベルギー,オランダなどである。また婦人兵はほとんどの国では志願制であるが,イスラエルなどは婦人にも徴兵制をとっている。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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