婀娜(読み)あだ

精選版 日本国語大辞典 「婀娜」の意味・読み・例文・類語

あ‐だ【婀娜】

〘形動ナリ・タリ〙 (口語では、連体形「あだな」の形が用いられる)
① たおやかで美しいさま。なよやかで、なまめかしいさま。
古今(905‐914)物名・四三六「我はけさうひにぞみつる花の色をあだなる物といふべかりけり〈紀貫之〉」
謡曲卒都婆小町(1384頃)「翡翠(ひすい)の髪ざしは婀娜とたをやかにして、楊柳の春の風に靡くがごとし」 〔曹植‐洛神賦〕
② (女性の)色っぽく、なまめかしいさま。特に、近世末期には、粋な感じも含んでいった。
※滑稽本・浮世風呂(1809‐13)三「諸事婀娜(アダ)とか云て薄化粧がさっぱりして能(いい)はな」
人情本・春色梅児誉美(1832‐33)三・一三齣「何がといって一日増に仇(アダ)になるおめへを他人中(ひとなか)へ手放して置(おく)が気になってならねへ」
③ 物事が色っぽく洗練されているさま。
※洒落本・通言総籬(1787)二「めりやすの本をもらって参りした。〈略〉いっそあだでようすよ」
[語誌](1)「婀娜」は、「曹植‐洛神賦」(文選)に見えるように、漢語起源の語であり、原義は、たおやかで美しいさまを表わした。日本の文献では中古以降用例が見られ、中世まではほとんど漢語本来の意味を保って用いられていた。
(2)近世後期になると、特に女性の色っぽくつやめかしいさまを表わすようになった。為永春水などの手になる人情本は、婀娜の世界を基調とする戯作と言われ、二〇歳代半ばも過ぎ、苦労人としての人情の機微を十分に弁え、垢抜けした色っぽさを湛えた「年増女」がその典型であった。
(3)「婀娜」と「いき」は意味的に重なっているが、「いき」を特に視覚面からとらえた美意識が「婀娜」である。近代に入ると、「美しいといふよりは仇っぽくて、男殺しといふのは斯ういふ人を謂ふのかと思はれた」〔二葉亭四迷「平凡‐五九」〕のように、性的な魅力の面が強調されるようになる。
(4)なお、本来アタと発音されていた「仇」が、近世中期以降濁音化してアダとなったので、「婀娜」の意味に「仇」の字が用いられることが少なくない。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

デジタル大辞泉 「婀娜」の意味・読み・例文・類語

あ‐だ【××娜】

[形動][文][ナリ]
女性の色っぽくなまめかしいさま。「婀娜年増としま
美しくたおやかなさま。
「花の色を―なる物といふべかりけり」〈古今・物名〉
[ト・タル][文][形動タリ]2に同じ。
「―たるその姿態く鉄石の心をもとろかすといわれていた」〈中島敦・悟浄出世〉
[類語]官能的肉感的扇情的性的卑猥ひわい淫猥いんわい猥褻わいせついやらしい淫靡いんび淫乱みだらみだりがわしいいかがわしいエッチあだっぽい色気なまめかしい色っぽい色香艶っぽいあでやか濃艶妖艶あで姿セクシーチャーミングコケットリーコケティッシュエロエロチックセクシュアル不身持ち不品行ふしだら不行状不行跡淫蕩好きしゃ好きもの色好み色情狂色気違い自堕落エロい好色多淫放蕩遊蕩邪淫荒淫姦淫かんいん淫奔いんぽん漁色酒色すけこましジゴロ尻軽きわどい淫婦女たらし女狂い

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