委員会制度(読み)いいんかいせいど(英語表記)committee system

日本大百科全書(ニッポニカ) 「委員会制度」の意味・わかりやすい解説

委員会制度
いいんかいせいど
committee system

広義には、一定の目的をもって設立され、複数の委員によって構成される合議制の組織体によって運営される制度をいう。狭義には、
(1)国または地方公共団体の機関としての議会に、本会議に先だつ審議機関としての委員会を設置してその運営を図ること
(2)国または地方公共団体の合議制行政機関の一種としての行政委員会制度
(3)主としてアメリカの地方自治体の組織形態の一つで、公選の委員からなる委員会に立法、行政の両作用を集中させて運営する制度
のいずれかをさす。

[山野一美]

議会委員会

議会運営については、その実質的審議に関し本会議と委員会のいずれに重点を置くかによって、本会議中心主義と委員会中心主義に分けられる。本会議中心主義の代表例はイギリスの国会で、委員会中心主義の代表例はアメリカの議会である。日本では、明治憲法下の帝国議会が前者で、現行憲法下の国会は後者である。都道府県、市町村議会も国会に倣って委員会制を採用している。現代国家においては、全議員を構成員とする本会議において審議を尽くすことを原則とする本会議中心主義をとる場合、議案の増加、専門的・技術的知識の必要性などから十分に審議を尽くすことが困難である。委員会中心主義では、少人数の各委員会ごとに、付託された案件の審査が行われる点で、委員の専門的知識、自由な討議、審議の効率化という長所がある。反面、本会議が施政方針演説や各党代表質問、重要法案についても提案理由の説明のみで議案の表決、という形式的なものになるなどの欠点もある。

 日本における現行制度は、衆議院参議院は、それぞれ全議員を構成員とする本会議のほか、本会議に付すべき議案をあらかじめ審査するために、国会法により委員会を設けている。委員会には、常任委員会と特別委員会の2種類がある。各委員会は、議長により付託された議案の審査を行うが、常任委員会(衆議院、参議院にそれぞれ17委員会)は、付託される議案の有無にかかわらず常設され、特別委員会は、各院においてとくに必要があると認めた案件、または、いずれの常任委員会の所管にも属さない特定の案件を審査するために設置される。議員は少なくとも一つの常任委員となるが、議長、副議長内閣総理大臣その他の国務大臣内閣官房副長官内閣総理大臣補佐官、副大臣、大臣政務官は、割り当てられた常任委員を辞することができるため、慣例上常任委員とならない。常任委員および特別委員は、各会派の所属議員数の比率により割り当てられる。委員会は、国会の会期中に限り審査を行うが、各議院の議決でとくに付託された案件については、閉会中も審査することができる。委員会は公聴会を開くことができ、また、議員以外の傍聴は報道関係者その他、委員長が許可した者に限られる。常任委員長は各議院において常任委員のなかから選挙で、また特別委員長は委員会の互選で選任される。各委員長は、委員会の経過および結果を議院に報告する。

[山野一美]

行政委員会

独立行政委員会ともいう。国家事務の一部を合議制の機関で処理する方式は、古くから英米法系諸国の伝統であるが、とくに19世紀後半のアメリカにおいて、資本主義社会の高度の発展に伴い、それに起因する種々の社会的問題の解決のため、行政委員会制度が広く採用されるようになった。これらの問題の解決には、党派的あるいは政治的権力からの独立性の必要、私権の保護と適法手続の保障の要請、裁判所による事後的救済の不完全さなどの理由から、大統領府から独立し、議会に支配される行政委員会によって処理することが適切であるため、多くの行政委員会が設立されることになった。

 第二次世界大戦後の日本における行政委員会も、占領行政に起因するアメリカの制度の直接的継受である。戦前においても合議制の行政機関は存在したが、大部分諮問機関か調査機関であって、法律上、独立して権限を行使する行政庁ではなかった。行政委員会の特色は、内閣から一定の独立性を有し、その構成において中立性ないし非党派性が要求され、権限行使において、特定の行政権に加えて、準立法的あるいは準司法的作用を有することにある。戦後、中央集権的官僚行政を打破し、行政の分権化、民主化の一環として広く採用された行政委員会は、もっとも多い時期で国家機関のみで20を数えたが、その占領政策の変更、民主化の後退とともに約半数になり、存続する委員会もその権限が縮小され、独立性も弱くなった。行政委員会については、行政の民主化、中立性の確保、専門的知識の必要性、私権保護と利害調整などの見地からの積極的評価と、行政責任の不明確、能率性の欠如、不必要な機構の拡大、中立性確保の困難などの理由、および憲法第65条(行政権は、内閣に属する)に関連して批判的見解がある。

 現在、行政委員会は、国家公務員法に定める人事院、内閣府設置法に定める公正取引委員会・国家公安委員会、国家行政組織法に定める公害等調整委員会(総務省)、公安審査委員会(法務省)、中央労働委員会(厚生労働省)、運輸安全委員会(国土交通省)があり、また地方公共団体の機関としては、地方自治法により、教育、選挙管理、人事または公平、監査の各委員会、都道府県のみに置かれるものは、公安、労働、収用、海区漁業調整、内水面漁場管理の各委員会、市町村のみに置かれるものに、農業、固定資産評価審査の各委員会がある。

[山野一美]

委員会制

アメリカなどにおける地方自治体、とくに市における統治組織形態の一つ。アメリカの市においては、州憲法の規定の仕方によっては、自治憲章により自らその組織形態を定めることができるため、大別して、市長市会制mayor and council system、市支配人制city manager system、委員会制commission planの3種の型がある。

 市長市会制は、日本のモデルとなったもので、市長および市議会議員が、ともに公選によって選出され、両機関の分立が明らかである。市支配人制は、市議会が有能な行政専門家を支配人として都市経営をゆだねる方式である。これに対して委員会制は、立法と行政を同一機関に行わせるもので、公選による議員(委員)が、議会(委員会)を構成するとともに、委員会の各委員が行政各部の長となり、委員長が市政の代表者として市民の立場にたつ。

[山野一美]

経営学上の委員会制度

関係者の衆知を集めて優れた結論を引き出すことを目的として、あるいは関係者相互間の意思疎通を円滑にして相互調整をすることを目的として、組織内に設けられる会議体。前者の目的によるものを合議・決定のための委員会、後者のそれを協議・協調のための委員会という。委員会制度は、通常の定常的組織を補強するために用いられるが、この制度には、時間の浪費、決定責任の所在の不明確化、創造の抑圧と安全な結論の採択といった欠陥が付きまとっている。そこで委員会の設置には、組織構成員の参画を必要とする明確な問題設定、相互依存性の高い課題に討議を集中するなど、議事運営に対する配慮が必要である。

[森本三男]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「委員会制度」の意味・わかりやすい解説

委員会制度
いいんかいせいど

一般には,特定の目的を実現するため複数の構成員 (委員) が合議して意思決定をはかる制度をいう。委員会は議会や行政部ばかりでなく,すべての組織において用いられる。議会では分業の必要から議案の詳細な審議を委員会にゆだねる。これが政策分野別に専門化されている場合には,そこで審議に必要な専門能力が養われる。行政部では特定の産業分野を規制する際に行政首長から独立した委員会を設置することがある。さらに行政部その他の多くの組織では,組織単位間の活動の調整をはかったり,伝達をよくするために委員会が利用される。通常は以下の2つの場合をさす。 (1) 近代の議会では,本会議における質疑,討論,採決によって案件の可否を決するのが原則であるが,案件は多数に上り,またその内容は複雑多岐にわたるため議院の内部に議員の一部で構成される合議体としての委員会を設け,これに案件の下調べや実質的な検討を行わせる制度。 (2) 行政の民主的統制の一方法として採用されるいわゆる行政委員会のこと。これは特定の問題について,一般の行政機関から独立した権限が認められた,合議制の決定機関であって,争訟判定的な準司法的機能や準立法的機能をもつところに特色がある。日本では人事院,公正取引委員会,中央労働委員会などがこれにあたる。

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