日本大百科全書(ニッポニカ) 「妄想(森鴎外の小説)」の意味・わかりやすい解説
妄想(森鴎外の小説)
もうぞう
森鴎外(おうがい)の短編小説。1911年(明治44)3~4月、『三田文学』に発表。13年(大正2)7月、籾山(もみやま)書店刊の『分身』に収録。鴎外自身をモデルとする翁(おきな)の述懐という形式をとった、半生の精神閲歴をつづった作品。まずドイツ留学時代を回顧し、自然科学の研究のかたわら、人生に疑問をもって、多くの哲学書をひもといたが、ついに1人の主(しゅう)にもあわなかったといい、最後に、もっとも大きい未来を有するのはやはり科学であろうと述べている。厳密な意味での告白ではないが、執筆当時の鴎外の世界観をよく示している作品として、注目を集めている。
[磯貝英夫]
『『筑摩現代文学大系4 森鴎外集』(1976・筑摩書房)』