如・若(読み)ごとし

精選版 日本国語大辞典 「如・若」の意味・読み・例文・類語

ごと‐し【如・若】

〘助動〙 (活用は「〇・ごとく・ごとし・ごとき・〇・〇」。「同じ」の意を表わす「こと」の濁音化した「ごと」に、形容詞をつくる活用語尾「し」が付いたもの。名詞+「の」、代名詞+「が」、用言および助動詞連体形、連体形+「が」などに付く。体言に直接付くこともある) 比況の助動詞。
① ある事物状態が他と同じであることを表わす。…と同じだ。…のとおりだ。…と同じく。
万葉(8C後)一五・三七五〇「天地のそこひのうらに吾(あ)が其等久(ゴトク)君に恋ふらむ人はさねあらじ」
徒然草(1331頃)一四五「道に長じぬる一言、神のごとしと人思へり」
② ある事物・状態が他と似ていることを表わす。…のようだ。…に似ている。
※万葉(8C後)七・一二六九「巻向(まきむく)の山辺とよみて行く水の水沫(みなわ)の如(ごとし)世の人吾れは」
方丈記(1212)「風に堪へず、吹き切られたる焔、飛ぶが如くして」
③ 体言に付いて「…(の)ごとき」の形で用いて、多くのものの中からいくつかをあげて例示する場合などに用いる。たとえば…のようなもの。たとえば…など。
※岩瀬本大鏡(12C前)五「楊貴妃ごときはあまり時めきすぎて悲しき事あり」
④ 体言、特に代名詞あるいは人名に付いて「…ごとき」の形で用いて、さげすみや、謙遜の表現に用いる。
曾我物語(南北朝頃)六「面々ごときの人は、祐成ふぜいの貧者、たのむところなし」
⑤ 不確実な断定を表わす。…のようだ。「やむを得ざるもののごとし」
美的生活を論ず(1901)〈高山樗牛〉七「吾人の言甚だ過ぎたるものあるが如し」
[語誌](1)直喩的意味を表わす「ごとし」は奈良時代には口語的表現であったが、平安時代になると、漢文訓読の際や訓読文系統の文章に「ごとし」が、和文に「やうなり」が多く用いられるようになった。「ごとし」が和文に用いられるのは、男性の、改まった場合の表現に多い。→よう(様)(一)(二)。
(2)語幹「ごと」は連用修飾格や述語格などに用いられた。→ごと(如)
(3)平安時代の漢文訓読に、未然形「ごとけ」が用いられた。「西大寺本金光明最勝王経平安初期点‐一〇」の「所獲の功徳も亦復是の如(ごとケ)む」など。
(4)仮定条件を表わすのに、「ごとくは」とともに「ごとくんば」「ごときんば」の形も用いられた。→ごときんば(如━)ごとくんば(如━)
(5)終止形「ごとし」には連用修飾格にたつ特殊な用法があった。「今昔‐七」の「髪・眉皆本の如し生(おひ)ぬ」など。また、連体形「ごとき」は連用修飾格に用いられることがあった。「今昔‐一一」の「是は何(いどこ)より来れる聖人の如此(かくのごと)き走り給ふぞ」など。
(6)平安時代以後に、連用形「ごとく」に「に」のついた形が、連用修飾語に用いられ、また、それに「あり」の接してできた「ごとくなり」が用いられた。→ごとくなり(如也)
(7)用例は少数であるが、「ごとしなり」「ごときなり」の形も用いられた。「今昔‐四」の「遠く近く人集まる事雲の如し也」、「今昔‐一〇」の「形端正にして有様の微妙(めでた)き事世に並び无し、光を放つが如き也」など。
(8)「ごとくあり」の形が漢文訓読などに用いられることがあった。「西大寺本金光明最勝王経平安初期点‐一」の「妙高山王のゴトクアル菩薩、大海深王のゴトクアル菩薩」など。また、後世には「ごとかり」「ごとかる」の類も用いられた。高山樗牛「美的生活を論ず‐六」の「彼等の其の道に就くや烏の塒(ねぐら)に帰るが如かりしのみ」など。

もころ【如・若】

〘名〙 同じようなさま。よく似た状態。常に他語による修飾をうけ、副詞的に用いる。「ごと」にあたり、上代に用いられた。
※万葉(8C後)二・一九六「何しかも 吾が王の 立たせば 玉藻の母許呂(モコロ)(こや)せば 川藻の如く」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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