精選版 日本国語大辞典 「奥」の意味・読み・例文・類語
おく【奥】
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現代では,山奥,奥座敷,奥の院のように,主として地理的,あるいは建築空間的に入口から遠ざかった部分を指すのに用いられるが,奥義(おうぎ),奥の手のように抽象的に深遠なことを指す場合もあり,本来は非常に広範な意味を含んだ言葉である。地理的に用いられるときは,奥秩父,奥飛驒のような例が多い。東北地方を表す古語の〈みちのく〉は,道の奥の意味である。これは線的に延びるものの最も遠ざかった部分を表しており,巻物や書籍の奥書,奥付もそれに似た用法である。建築空間的には,奥城(おくつき),奥の間,大奥などがあり,夫人を意味する奥方(おくがた)や奥様(おくさま)は,桃山時代や江戸時代の大名屋敷で夫人の居住する部分が屋敷の背後の方に配置されていたことから生まれたと考えられる。そのほか平安時代には,時間的に将来を指しても奥が使われたが,現代ではそれに該当する例は見当たらない。以上のような例を見ると,奥の意味には,はるかなところ,内側,深いところ,背後などと重なる部分もあるが,それらとは違った日本独特の空間を表現する言葉であると考えられる。奥の反対語にいちばん近いのは〈くち〉で,これも地理的,建築空間的,時間的,抽象的などに使われる。また奥と口を対照的に使う例としては,奥能登・口能登,奥の間・口の間のような例がある。
執筆者:大河 直躬
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…江戸城内殿舎の奥向の称。江戸時代には,大名・旗本など大身の武家の邸宅では,当主を中心として家政処理や対外的応接などを処理する〈表〉と,当主の妻を中心に子女たち家族が生活する〈奥〉とが明確に区別されていた。…
…典籍のうち写本の巻末に書かれた記載で,主として書写・校合・伝授などについて記す。また修補に関して書かれたものも奥書としてよい。何度か転写された場合には,そのたびごとに書写に関する奥書が加えられる(これを本奥書(ほんおくがき)という)。…
…江戸時代に武家の奥向に仕えた女性の総称。江戸時代には将軍家,大名,旗本など,身分ある武士の邸宅では“表”と“奥”の区別が厳重にたてられ,当主以外の男子は奥には入れなかったから,御広敷とよばれる奥向管理事務の男子役人以外は,奥向の諸事はすべて女性で弁じた。…
…中世武家文書に多くみられる。花押は通常奥の年月日を施した下に据えるが,差出者と受取者との間に身分上隔りのあるときに袖判を用いることがある。平安時代の中ごろよりみえ(寛治3年(1089)9月22日の大宰府下文(くだしぶみ)案が初見),ついで知行国主の庁宣に用いられた。…
…両家の同意のうえ,幕府旗本の先手頭をおもに仲介として将軍の許可を得て結婚するが,むろん離婚することも可能であった。妻は実家の家臣や女中を連れてくることが多く,婚家より付属される家臣をも合わせて統率し,奥の総取締の役目を持つので身分は高い。夫の所領を相続することはできないが,妻の生んだ第1男子は家督相続の権利を優先的に有し,さらに庶子の嫡母としてそれらの養育に当たる必要があった。…
※「奥」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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