契約自由の原則(読み)けいやくじゆうのげんそく

百科事典マイペディア 「契約自由の原則」の意味・わかりやすい解説

契約自由の原則【けいやくじゆうのげんそく】

個人は社会生活において自己の意思に基づいて自由に契約を締結して私法関係を形成することができ,国家はこれにできるだけ干渉すべきではない,という近代法原則。〈私的自治の原則〉の一内容である。契約を締結するとしないとの自由,相手方選択の自由,契約内容決定の自由,契約方式の自由などを含む。封建制度に基づく身分拘束が打破されて,近代資本主義文明は契約自由の原則と私有財産制度とを支柱として発達した。しかしその高度の発達は著しい貧富の差を生じ,契約自由の原則が人びとに平等な生存の基礎を与えることに適しなくなったため,20世紀に入ってから,次第にこの原則に社会的統制を加えるようになった。たとえば,借地借家法労働基準法などにみられるように,経済的弱者のために,一定の契約約款の効力を否認する場合などである。
→関連項目財産法資本主義社会法民法無名契約

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「契約自由の原則」の意味・わかりやすい解説

契約自由の原則
けいやくじゆうのげんそく

契約による法律関係の形成は、その成立についても、内容についても、法の制限に触れない限り完全に個人の自由に任され、法もこのような自由をできる限り尊重する、という個人主義的・自由主義的原則。契約締結の自由、相手方選択の自由、内容決定の自由、方式の自由などをその内容とする。契約自由の原則は、封建社会から近代市民社会への移行期・確立期においては、私的所有権の絶対、過失責任の原則とともに、自由競争を保障し、資本制経済を発展せしめる重要な法原理であった。イギリスの法制史家メインMaineは、これを「身分から契約へ」の推移であると称した。

 しかし、20世紀の高度化された資本主義社会の下では、契約自由の原則は、一面でその真理性を保ちつつも、他面では種々の問題性を現してきた。たとえば、契約は事実上自由でない場合があるとともに(付従契約)、契約自由の原則を貫くことは、経済的強者を保護し、経済的弱者を圧迫する結果にもなったのである。そこで、現在では、契約自由の原則に対して、種々の側面から制約が加えられている。たとえば、契約の成立の面で締約強制を課しているものとして、電気やガスの供給などの公共事業を規制する法律がある。契約内容の規制としては、労働者の保護のため最低労働条件を定める労働基準法、借主保護のための借地借家法、農地賃借人保護のための農地法、消費者保護のための割賦販売法・特定商取引法などがある。

[淡路剛久]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「契約自由の原則」の意味・わかりやすい解説

契約自由の原則
けいやくじゆうのげんそく

契約を当事者の自由にまかせ,国家はこれに干渉してはならないとする近代法の原則 (→私的自治の原則 ) の重要な一つ。その内容は通常,契約をする自由としない自由,契約の相手方選択の自由,契約内容決定の自由,方式の自由,契約変更ないし解消の自由の5つに分けられる。この原則は,経済上の自由放任主義に対応するものであって,資本主義社会の自由競争的段階においては社会の発展に大いに寄与した。しかし資本主義社会が独占的段階に入って,社会的・経済的弱者保護のため自由競争が制限され,国家が経済関係に介入するようになると,契約自由の原則も制限されることになった (たとえば,労働基準法,独占禁止法など) 。

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産学連携キーワード辞典 「契約自由の原則」の解説

契約自由の原則

「契約自由の原則」とは、個人の契約関係は、契約当事者の自由な意思に基づいて決定されるべきであり、国家は干渉してはならない、という原則のこと。「契約自由の原則」は、契約関係を結ぶ相手方選択の自由、契約内容に関する内容の自由、契約方式の自由の3つで構成される。特許のライセンス契約においても、「契約自由の原則」に基づき、当事者間で合意を得ながら契約事項を決定していく。

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世界大百科事典(旧版)内の契約自由の原則の言及

【契約】より

…いずれにしても契約説が支持される社会とは個人主義が支配する社会である。したがって真の契約関係とは独立した個人の自由意思によって決定されるとする〈契約自由の原則〉や,私人間の契約関係は私人の自治にゆだね,私人の意思の法的拘束力を認める〈私的自治の原則〉は,個人主義の社会における契約の特質と位置づけを最も明確に示すものであろう。 他方,集団主義の伝統に根ざす日本では西欧のような厳しい契約意識はみられない。…

【私的自治の原則】より

…このことから,私的自治の原則は,第1に,人の自由な意思があることから権利・義務の変動が生ずるのであり,第2に,人の意思が存在する限り,その意思どおりの法律効果を認めるべきであるとの原則を生むことになる。そして,具体的には〈法律行為自由の原則〉あるいは法律行為のもっとも典型的な形態である〈契約自由の原則〉となって現れることになる。また,それは,個人の意思に基づかないことについては個人の責任は認められないという考えに基づき,故意または過失による場合でなければ民事上の責任はないとする過失責任主義を生むことになる。…

【団結権】より

…すなわち,労働者に特別の団体的な権利を設定することによって,結束して労働組合をつくり,労働組合として対使用者交渉にあたり,その際に必要とあれば,使用者に対して集団的な圧力を加える,などの団体的な行動を許容しあるいはこれをより積極的に鼓舞することである。この方策は,生活の必要のためにはいかなる労働条件のもとでも働かざるをえない労働者個々人と使用者との間には〈契約自由の原則〉が本来予定する自由対等の関係は存在せず,そのため実際には労働者に〈契約の不自由〉しかもたらしえないという認識を基礎にしている。しかし,その趣旨は,(1)契約自由の原則をより実質的な意味においてとらえ,これを貫こうとするものであること,(2)労働者をもっぱら保護の客体としてとらえざるをえない労働者保護法などとは異なり,労働者の主体性・自主性の尊重をその中核とする措置であること,(3)歴史的には労働者が永らく求めてやまなかったものの承認にほかならないこと,などの点で独特の重大な意義を有している。…

【法律行為】より

…このことから,〈法律行為自由の原則〉が支配することになる。具体的には,法律行為の一類型である〈契約自由の原則〉や遺言の自由,法人設立の自由などとなって現れる。
[法律行為における意思]
 法律行為の効力は,意思が存在しない場合(心裡(しんり)留保錯誤虚偽表示の場合)には無効,意思に瑕疵(かし)ある場合(詐欺強迫の場合)には取消可能,意思が完全である場合には有効,意思が合致すると契約の効力が生ずるというように意思との関連で統一的に決定されるよう体系づけられている。…

【労働法】より

…しかしこの問題を既存の法制度の枠組みの中で処理することは不可能であった。すなわち,近代市民法における契約自由の原則の下では,契約内容である労働条件は当事者間の合意によってのみ決定されるべきものであり,いかに低い労働条件であっても,それに本人が同意して契約を締結したものである以上,まったく合法かつ有効なものとみなされる。したがって,このような問題に対処するためには,新たな立法が必要となった。…

※「契約自由の原則」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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