奇跡(読み)キセキ(英語表記)miracle

翻訳|miracle

デジタル大辞泉 「奇跡」の意味・読み・例文・類語

き‐せき【奇跡/奇×蹟】

常識で考えては起こりえない、不思議な出来事・現象。「―が起こる」「けががなかったのが―だ」
キリスト教など、宗教で、神の超自然的な働きによって起こる不思議な現象。
[補説]作品名別項。→奇跡
[類語]異変珍事変事ハプニング非常緊急急難事変現象事象

きせき【奇跡/奇蹟】[曲名・書名]

《原題、The miracleハイドン交響曲第96番ニ長調の通称。1791年作曲。ロンドン交響曲の一。通称は、演奏会の最中に天井からシャンデリアが落ちたにもかかわらず、だれも怪我をしなかったことに由来する。
(奇蹟)文芸同人雑誌。大正元年(1912)9月創刊。翌大正2年(1913)5月終刊。舟木重雄広津和郎ひろつかずお葛西善蔵かさいぜんぞう谷崎精二らが中心。

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改訂新版 世界大百科事典 「奇跡」の意味・わかりやすい解説

奇跡 (きせき)
miracle

一般に宗教現象としての奇跡(奇蹟)は,宗教への帰依・入信の機会や動機となるような異常なできごとを意味する。洋の東西,古今を問わず,教祖,高僧,宗教的天才の生涯は不治と思われた疾患を即座に治癒したり,未来あるいは遠方のできごとを手にとるようにいいあてるなど,人間の通常の能力をはるかに超え,既知の自然法則では説明できない不思議な事跡でちりばめられているのが常である。しかし奇跡がとくに大きな問題として取りあげられるのはキリスト教においてである。その理由はキリスト教がイエス・キリストの福音と奇跡との密接な結びつきを主張し,またキリスト教はたえず高度に発達した哲学や科学と接触を保ってきたため,奇跡の本質や可能性が厳しく問われざるをえなかったからである。

 神学的概念としての奇跡は,宗教的状況のなかで,神自身によって超自然的な徴しとして生ぜしめられる,何人にも知覚されうる驚くべきできごと,と定義できる。〈宗教的状況のなかで〉というのは,たとえばイエスによる病者の治癒は単なる医術や魔術ではなく,みずからがもたらした使信の真実性を示し,目撃者を信仰や悔い改めへとうながすためであったように,奇跡はつねに宗教的背景を前提するということである。〈神自身によって超自然的な徴(しる)しとして生ぜしめられる〉とは,奇跡は人の心を貫き通して日常的な経験世界の奥深く働いている神の摂理を認めさせる強烈な光であるから,その作者は神自身であり,それが徴しとして指し示しているのも自然的秩序を超越する神の業(わざ)であることを意味する。〈何人にも知覚されうる驚くべきできごと〉というのは,奇跡が本来人々を歴史や経験の世界に埋没している状態から脱出させるための呼びかけであるかぎり,それは直接に感覚に訴えかけるものでなければならず,また人々をゆり動かして経験世界からの超越を実現させるほどの衝撃的な異常性をそなえているべきことを意味する。したがってカトリック教会の〈聖体秘跡〉においてパンとブドウ酒がキリストの体と血に変化するとされるのは,信仰によってのみ認識されることであるから,〈信仰の奇跡〉と呼ばれることはあるが,ふつうの意味の奇跡ではない。また〈驚くべき〉〈異常性〉といわれることの程度に関してはいろいろな論議があるが,奇跡において本質的なのは現象の異常さではなく,むしろそれによって指示されている神の救いの業の偉大さと不思議さであることを忘れてはならない。奇跡否定論者は,奇跡は自然秩序の破壊を意味し,科学的に不可能であるのみでなく,神がみずから創造した世界の秩序を無視することであって不条理であると論ずるが,じっさいには奇跡において自然はそれに通常ふりあてられている限られた役割を超えて,救いの歴史というより高い次元に包みこまれ,新しい役割を授けられるのであるから,自然の破壊ではなくむしろ完成である。

 奇跡の歴史についてのべるさいには,まず聖書において語られているもろもろの奇跡にふれなければならない。それらは〈徴しと不思議〉〈偉大な業〉などと呼ばれ,その多くはイスラエルの歴史の重大な時期に集中していて,奇跡が神の救いの業と結びついていることを示している。イエスが行った多くの奇跡は彼のもたらした福音から切り離せないもので,とくにその復活は救いの歴史の全体を理解するための鍵であり,最大の奇跡である。使徒時代以後においては,奇跡は聖人たちの聖性についての神的保証とみなされることが多く,教会法のうちには奇跡の真偽認定のための手続が規定されている。近代におけるもっとも有名な奇跡は1858年南フランス,ルルドにおける少女ベルナデットBernadetteへの聖母マリアの出現と,その出現場所に湧出した泉による難病治癒である。1882年以降常設の医局が調査に当たっているが,1903年巡礼団付医師としてルルドを訪れ,みずから診察した瀕死の患者の奇跡的な治癒を目撃したA.カレル(1912年ノーベル医学賞受賞)によって厳密な科学的研究への道が開かれた。カトリック教会は数次にわたる調査の結果,1923年にはじめて聖母出現を公式に事実として認め,33年にベルナデットを列聖し,治癒事例のうち比較的少数のものを奇跡と認定した。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「奇跡」の意味・わかりやすい解説

奇跡
きせき
miraculum; miracle

語源的には驚くべきことの意で,一般には神的力に帰される異常な驚嘆すべき出来事をいい,ほとんどすべての宗教に奇跡への信仰がみられる。厳密には超自然的な理由以外には,理性でその原因を説明しえないような自然現象をいう。キリスト教では神の関与によるもののみを奇跡とし,神意の啓示のしるし,保証とみなす。奇跡の可能性については歴史を通じて問題が提出され,アウグスチヌスやトマス・アクィナスらが弁証を試みた。特に B.スピノザ以後奇跡信仰批判が起り,A.ハルナックらの徹底した批判が現れた。今日では精神世界における独特の宗教的経験として奇跡の意味を理解しようとする傾向が強い。

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百科事典マイペディア 「奇跡」の意味・わかりやすい解説

奇跡【きせき】

〈奇蹟〉とも書き,英語ではmiracle自然を超える力によって起こる,理性ではとらえられない不思議な出来事。多くの宗教に見られるが,とりわけキリスト教では,認定の手続などを含め大きな問題とされる。聖霊による処女マリアの受胎告知(聖告)をはじめとして,イエス・キリスト自身の行った奇跡として,病者の治癒(ちゆ),死者の蘇生(そせい)などが伝えられる。諸聖人の奇跡譚,その芸術表現も数多い。日本の神道・仏教における同様の事例は〈霊験〉といわれる。

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デジタル大辞泉プラス 「奇跡」の解説

奇跡〔デンマーク映画〕

1955年製作のデンマーク映画。原題《Ordet》。監督:カール・テオドール・ドライエル、出演:ヘンリク・マルベルイ、プレーベン・レーアドルフ・リュ、ビアギッテ・フェーダーシュピールほか。第16回ヴェネチア国際映画祭金獅子賞受賞。

奇跡〔クラシック〕

オーストリアの作曲家ヨーゼフ・ハイドンの交響曲第96番(1791)の通称。英題《The miracle》。名称は同曲の初演中にシャンデリアが落下したにもかかわらず、怪我人が一人もでなかったことに由来する。

奇跡〔日本映画〕

2011年公開の日本映画。監督・脚本:是枝裕和。出演:前田航基、前田旺志郎、大塚寧々、オダギリジョー、夏川結衣、阿部寛、長澤まさみほか。九州新幹線開通を記念した作品。ヒューマンドラマ。

奇跡〔J-POP〕

日本のポピュラー音楽。歌はJ-POPデュオ、コブクロ。2015年発売。作詞・作曲:小渕健太郎。同年、テレビ朝日系で放送されたドラマ「DOCTORS 3~最強の名医~」の主題歌。

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普及版 字通 「奇跡」の読み・字形・画数・意味

【奇跡】きせき

珍しいしわざ。

字通「奇」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の奇跡の言及

【救い】より

…そして救いの状態に先立ち,できごととしての性格があざやかであることも大きな特徴である。それはまず第1に抑圧からの解放,戦争での勝利であり,これらは神が歴史に関与して起こったこととして,しばしば奇跡とみなされた。出エジプトのときの紅海の奇跡(《出エジプト記》15)は,神が創造にさいし原初の海を治めたことに比せられている。…

※「奇跡」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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