夷夏論(読み)いかろん(英語表記)Yí xià lùn

改訂新版 世界大百科事典 「夷夏論」の意味・わかりやすい解説

夷夏論 (いかろん)
Yí xià lùn

467年,南朝の道士の顧歓が発表した排仏のための論文。夷は夷狄(いてき),夏は中国を意味し,〈道〉と〈俗〉と〈跡〉をキーワードとして構成される。仏教道教根本の〈道〉は究極的には一致するけれども,習俗風俗,すなわち〈俗〉は夷と夏では決定的に異なっており,本来,夷を教化するための教法,すなわち〈跡〉として生まれた仏教を中国に行うことはできないと論ずる。
夷狄 →排仏論
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「夷夏論」の意味・わかりやすい解説

夷夏論
いかろん
Yi-xia-lun

中国の南北朝時代に,中国本来の思想である儒教や道教と外来 (夷狄) の思想である仏教との間で,その優劣を争った論争。代表的なものに南朝宋の顧歓が著わした『夷夏論』がある。 (→三教融合論 )

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世界大百科事典(旧版)内の夷夏論の言及

【道教】より

…大道は清虚にして豈に斯の事有らんや……〉というのが,その神勅の主文であるが,ここでは〈道教〉の語が明確に太上老君を大神とする中国土着の宗教をよぶ言葉として用いられており,しかもその道教は漢・魏の時代の張陵から孫の張魯に至る天師道(五斗米道(ごとべいどう))の教を清め整え,革新する宗教として強調されている。 《魏書》釈老志に載せる太上老君の神勅の中に見える〈道教〉の語は,たしかに後漢の天師道以来の中国伝統の宗教を呼ぶ言葉であったが,この道教をさらにインド成立の外来宗教である仏教と対立させて,外来すなわち〈夷〉の宗教に対する中国固有,すなわち〈夏(か)〉(中華)の宗教の独自性を強調しているのは,南朝(南斉)の道士顧歓(420‐483?)の書いた《夷夏論》である。《夷夏論》の書かれたのは,顧歓の論争相手である袁粲(えんさん)の死没が劉宋の末期,順帝の昇明2年(477)であるから,それ以前ということになるが,ここではそれまでインド伝来の仏教をよぶ言葉でもありえた道教の語が,もっぱら中国固有の伝統的な宗教をよぶ言葉として確定され,しかもこの道教を仏教とまっこうから対立させつつ,〈夏〉の宗教である道教の〈夷〉の宗教である仏教に対する優越性がさまざまな論点から強調されている。…

※「夷夏論」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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