精選版 日本国語大辞典 「失」の意味・読み・例文・類語
う・せる【失】
〘自サ下一〙 う・す 〘自サ下二〙
[一] 存在していたものがなくなる。
① 事物や人がその場から見えなくなる。無い状態になる。ほろびる。消える。
※竹取(9C末‐10C初)「翁をいとほしくかなしと思しつる事もうせぬ」
② 人がこの世からいなくなる。死ぬ。
※今昔(1120頃か)二九「肝・心も失せて」
[二] 「去る」「来る」「居る」の意で、卑しめて言う語。
① 「去る」「行く」を卑しめていう。
(イ) 行きやがる。
※虎明本狂言・富士松(室町末‐近世初)「いとまをこはひで、よそへうせて、ゆさんがたらぬか」
(ロ) 動詞の連用形に「て」の付いた形に添えて、補助動詞のように用いる。
※虎寛本狂言・法師が母(室町末‐近世初)「出てうせい」
② 「来る」を卑しめて言う語。
(イ) 来やがる。
※玉塵抄(1563)二二「来食はうせてくらえと云たことぞ」
(ロ) 動詞の連用形に「て」の付いた形に添えて、補助動詞のように用いる。
※虎明本狂言・目近籠骨(室町末‐近世初)「ぬかれてうせて、なんのかのとぬかす」
③ 「居る」を卑しめていう語。
(イ) 居やがる。
(ロ) 動詞の連用形に「て」の付いた形に添えて、補助動詞のように用いる。
※歌舞伎・伊勢平氏栄花暦(1782)三立(暫)「宗盛公の御恩沢にあづかってうせながら」
うし‐な・う ‥なふ【失】
〘他ワ五(ハ四)〙
[一] 持っていたものをなくす。なくなす。
① 所有しているものや、自分に関係のある物事、状態などをなくす。あるものに備わっている能力、立場、根拠などをなくす。喪失する。
※万葉(8C後)一五・三七五一「白たへのあが下衣宇思奈波(ウシナハ)ず持てれわが背子直(ただ)に会ふまでに」
※源氏(1001‐14頃)夕顔「としごろの頼みうしなひて」
② 肉親や親しい友をなくす。死に別れることにいう。
※伊勢物語(10C前)一〇九「友だちの人をうしなへるがもとに」
③ 精神がふつうの状態、適当な状態でないようにする。
※太平記(14C後)一七「大嶽の敵ども前後に心を迷はして、進退定て度を失つと覚へ候」
※天草本伊曾保(1593)獅子と馬の事「マナコガ クラウデ ココロ キヲ vxinai(ウシナイ)」
④ ある資格をなくす。「失わない・失わず」の形で用いられ、「十分にそういう資格をもっている。そういってもさしつかえない」の意を表わす。
※富岡先生(1902)〈国木田独歩〉一「斯ういふ人物に限って変物である、頑固である、〈略〉富岡先生も其一人たるを失なはない」
[二] 積極的になくなるようにする。
① (罪を)消滅させる。
※源氏(1001‐14頃)朝顔「としごろ沈みつる罪うしなふばかり」
② こわしてなくす。ほろぼす。
※源氏(1001‐14頃)宿木「しん殿をうしなひてことさまにも造りかへんの心にて」
③ 殺す。
※源氏(1001‐14頃)手習「よき女のあまた住み給ひし所にすみつきて、かたへはうしなひてしに」
④ 追い払う。
※浄瑠璃・融大臣(1692頃)二「融のおとど高官を汚し、かく放埒の振舞叡聞に達し、失ひ申せとの御使に向ふたり」
[三] 手に入れようとして、とり逃がす。また、道や方法などをさがしてもみつからない、わからなくなる。
※平家(13C前)七「怨敵巷にみちて、予参(よさん)道をうしなふ」
しつ【失】
〘名〙
① やり方、方法、判断などのあやまり。あやまち。過失。失敗。
※菅家後集(903頃)哭奥州藤使君「雖レ有二過レ直失一、矯レ曲孰相比」
※徒然草(1331頃)一八七「大方のふるまひ・心づかひも、おろかにしてつつしめるは得の本なり。たくみにしてほしきままなるは失の本なり」
② きず。欠点。欠陥。また、定まったことに違反する事柄。
※鹿島大禰宜家文書‐安貞二年(1228)五月一九日・関東下知状「政親失出来之時、可二返給一之由、蒙二右大臣家仰一之旨、政俊雖レ申レ之」
※太平記(14C後)三五「進では万人を撫ん事を計り、退ては一身に失(シツ)あらん事を恥づ」 〔礼記‐経解〕
③ 損失。弊害。
※徒然草(1331頃)一三〇「されば、始め興宴より起りて、長き恨を結ぶ類多し。これみな争ひを好む失なり」
※日本野球史(1929)〈国民新聞社運動部〉忍苦の一高又も早慶に敗る「此最終回に臨んで石川遊撃の失(シツ)に生きると」
しっ‐・する【失】
[1] 〘他サ変〙 しっ・す 〘他サ変〙 保っているある状態、また、ととのっている状態などを失う。なくする。
※正法眼蔵(1231‐53)仏性「有仏性の道にも、無仏性の道にも、通達の端を失せるがごとくなり」
※中華若木詩抄(1520頃)下「時世に逢て用らるるも、時を失して棄らるるも」
[2] 〘自サ変〙 しっ・す 〘自サ変〙
① あるものが消える。滅びる。
※太平記(14C後)一一「驕れる者は失(シッ)し倹なる者は存す」
② (「…に」を受けて用いる) 程度が過ぎる。
※西国立志編(1870‐71)〈中村正直訳〉一一「人、往々今世芸文の昌盛を称すること、誇大に失せり」
うしゃあが・る【失】
〘自ラ五(四)〙 (「うせあがる」の変化した語)
① 「去る」「行く」を卑しめ、ののしっていう語。「て」に続けて補助動詞的にも用いる。
※歌舞伎・助六廓夜桜(1779)「『言分はないかえ』『うしゃアがれ』」
② 「来る」を卑しめ、ののしっていう語。「て」に続けて補助動詞的にも用いる。
※滑稽本・東海道中膝栗毛(1802‐09)四「なんだくそをくへ、こりゃおもしろへ。くふべいからもってうしゃアがれ」
③ 「居る」を卑しめ、ののしっていう語。「て」に続けて補助動詞的にも用いる。
※歌舞伎・名歌徳三舛玉垣(1801)五立「うぬらは主従縛り首にしてやろふ。待てうしゃあがれ」
しち【失】
〘名〙 (「しち」は「失」の呉音)
① =しつ(失)
※文明本節用集(室町中)「虚名不レ立謬旨終有レ失(シチ)〔尚書〕」
② 射芸で、的に向かっている間に生じた過失。弓折れ、弓返り、弦切(つるきれ)などの類。
うさ・る【失】
〘自ラ四〙
① なくなる。失われる。うせる。
※浮世草子・日本永代蔵(1688)一「むかしの片言もうさりぬ」
② すたれる。はやらなくなる。
※両京俚言考(1868‐70頃)「うさり、うさる 流行物のふ流行に成たるをいふ。〈略〉うせさりの略語ならん」
しっ‐・す【失】
〘自他サ変〙 ⇒しっする(失)
う・す【失】
〘自サ下二〙 ⇒うせる(失)
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