太一(読み)タイイツ

デジタル大辞泉 「太一」の意味・読み・例文・類語

たい‐いつ【太一/泰一/太乙】

中国の古代思想で、天地万物の生じる根源宇宙本体
天を主宰する神の名。北極星の神格化されたもので、古代中国、特に漢代に崇拝された。
太一星」に同じ。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「太一」の意味・わかりやすい解説

太一
たいいつ

中国の古代思想で、「大一」または「泰一」「太乙」とも書く。『荀子(じゅんし)』『荘子(そうじ)』『呂氏春秋(りょししゅんじゅう)』『淮南子(えなんじ)』等にみえるが、そこでの用例では万有を包含する大道、天地創造の混沌(こんとん)たる元気、道を意味する。たとえば『呂氏春秋』大楽篇(へん)には「万物の出づる所は、太一に造(はじ)まり、陰陽に化す」とあり、『礼記(らいき)』礼運篇では「夫(そ)れ礼は必ず太一に本づく」とある。いま一つの用例は、『史記』封禅書や天官書にみえるもので、天神のもっとも尊いものの名、あるいはその住居紫微(しび)宮のことであるといい、北極星を太一というともみえる。封禅書には「天神の貴きものを太一という」とあり、天官書の注では「泰一は天帝の別名」としている。前者の用例は後の宋学(そうがく)にいう「無極にして太極」の太極の意味に近く、後者の場合は道教系の民間宗教の信仰対象に近い。

[町田三郎]

『武内義雄著『老子と荘子』(1930・岩波書店)』『津田左右吉著『道家思想と其の展開』(1939・岩波書店)』

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改訂新版 世界大百科事典 「太一」の意味・わかりやすい解説

太一 (たいいつ)
tài yī

〈大一〉〈太乙〉また〈泰一〉とも表記される。《荘子》などでは〈道〉の同義語として用いられているが,《淮南子(えなんじ)》天文訓に〈紫宮は太一の居なり〉といい,鄭玄(じようげん)が〈太一は北辰の名なり〉というように,やがて天界の紫微宮を居所とする北極星の神名となり,漢代では宇宙の最高神と考えられた。〈天皇大帝〉ともよばれて経書にあらわれる〈昊天(こうてん)上帝〉とも同一視される。太一の神格化は,前2世紀,漢の武帝の時代に,謬忌(びゆうき)の奏言にもとづいて長安城の南東郊に薄忌(はくき)太一とよばれる祠壇が設けられたのを最初とし,そこでは天一,地一,太一の3神が祭られた。前112年(元鼎5)には,雲陽(陝西省淳化県)に置かれた甘泉宮の南に泰畤(たいじ)とよばれる太一祠壇が設けられた。泰畤は紫色で3層,八角形をなし,補佐神の青,赤,黄,白,黒の五帝の壇が環状にとりかこみ,太一神の祭はもっぱらここで行われるようになった。
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普及版 字通 「太一」の読み・字形・画数・意味

【太一】たいいつ

根原の道。〔荘子、天下〕(関尹、老)之れをつるに常無を以てし、之れをとするに太一を以てし、濡下を以て表と爲す。

字通「太」の項目を見る

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「太一」の意味・わかりやすい解説

太一
たいいつ
Tai-yi

中国,戦国時代の末頃,宇宙の根本原理 (道) を表わす形而上的観念として用いられていたが,のちに占星学に取入れられて天体と結びつき,北極星の名称となり,天上の紫微宮が太一の住居とされた。前漢には北極星としての太一が神格化されて天上の神となり,天や上帝と同様に,天子の祭祀の対象となった。また前漢末には天皇大帝や天皇とも呼ばれた。後漢以後は,6世紀後半に道教の最高神である元始天尊が出現するまで,この天皇大帝が宇宙の最高神となった。

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世界大百科事典(旧版)内の太一の言及

【九宮貴神】より

…中国の唐・宋時代に盛んにおこなわれた道教的信仰の一つ。天の九宮すなわち9区域を太一・摂提・軒轅・招揺・天符・青竜・咸池・太陰・天一の九神が支配し,なかでも北辰におざす太一神が《易》の八卦に配当された九宮を巡行するにともない,九宮それぞれに対応する地上の9分野に水旱,兵乱,政変などの災厄が生ずるとされ,そこで朝廷では太一神の巡行を推算し春秋2回の祭祀によって息災をおこなった。【坂出 祥伸】。…

【天帝】より

…天帝は元来は唯一神であったであろうが,その力を代行する職能神が実際的な力をふるったことや,春秋戦国時代には各国がそれぞれに天帝を祭ろうとしたことから,帝は必ずしも唯一のものではなくなる。漢代になると秦の畤(し)の祭祀を引きついで帝は五帝(五方の帝――青帝,赤帝,黄帝,白帝,黒帝)に整理され,五帝の上に昊天上帝(こうてんじようてい),太一(たいいつ),天皇上帝(てんこうじようてい)などと呼ばれる最高神が位置する天上のヒエラルヒーが完成する。皇帝【小南 一郎】。…

※「太一」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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