天理(読み)てんり(英語表記)tiān lǐ

精選版 日本国語大辞典 「天理」の意味・読み・例文・類語

てん‐り【天理】

[1] 〘名〙 天然自然の道理。人為でない天の正しい道理。万物を支配している道理。
※性霊集‐一(835頃)贈野陸州歌・序「雖云天理合歓然、人情豈无感歎」
※為兼和歌抄(1285‐87頃)「天地の心にもかなふべきにこそ気性は天理に合とも侍にや」 〔礼記楽記
[2] 奈良県中北部の地名。奈良盆地の東部にある。上代から開け、物部氏・柿本氏の領地が置かれ、上街道が通じ、丹波市(たんばいち)などの市場町宿場町発達。中世は東大寺・興福寺の荘園が多かった。江戸末期にこの地に天理教が生まれ、以後、宗教都市となり、市名にも宗教名が採用された。西山古墳石上(いそのかみ)神宮・天理教本部・天理大学・天理図書館などがある。昭和二九年(一九五四市制

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デジタル大辞泉 「天理」の意味・読み・例文・類語

てんり【天理】[地名]

奈良県北部の市。中心丹波市たんばいちは市場町・宿場町として発達。天理教発祥地・本部所在地で、昭和29年(1954)市制。石上いそのかみ神宮がある。人口6.9万(2010)。

てん‐り【天理】

自然の道理。万物に通じる道理。「天理にかなう」

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改訂新版 世界大百科事典 「天理」の意味・わかりやすい解説

天理 (てんり)
tiān lǐ

中国思想の用語。天から付与された善性のこと。〈人欲〉の対語。宋代に新儒教(朱子学)がおこって以来さかんに使われた語。天理という言葉それ自体は,すでに《荘子》養生主篇に〈天理に依(よ)りて大いなる郤(すきま)を批(う)つ〉とみえている。この言葉は庖丁(ほうてい)という名料理人が牛の解体法をきかれたときに発したもので,ここでいう天理は牛の体のなかにある天然のすじめという具体的なものを指している。《荘子》外・雑篇になると,自然の理法といった,より抽象的な意味の天理がしばしばあらわれる。

 しかし,宋儒が典拠としたのは《礼記(らいき)》楽記篇の次のような句である。〈人生まれて静かなるは天の性(天賦本性)なり。物(外界の事物)に感じて動くは性の欲なり。物至り知(ち)知(し)り(外物に対して知覚がはたらき),しかるのちに好悪(こうお)形(あらわ)る。好悪,内に節なく(好悪の感情を節制せず)知(ち)外に誘えば,躬(み)に反(かえ)る能(あた)わず(静かな本性に復帰できず),天理滅ぶ……人,物に化せらるるとは(本性を忘れて物のとりこになるというのは)天理を滅ぼし人欲を窮(きわ)むることなり〉。朱熹(しゆき)(子)によれば,天理は人がみずからのうちに備える天賦の善性だが,それはたえず人欲という利己的な欲望によっておびやかされている。この緊張をはらんだ対立は,一個人の心のなかにとどまらず,人間の歴史や社会もまた天理と人欲の争闘の場である。したがって人は,おのがじし人欲に打ち勝って天理に復帰しなければならない。このような朱熹の見解は,彼が当時目にした人間と社会に対する危機感にもとづくものであったが,朱子学が権威化してゆくにつれ,天理人欲の名において人間性を抑圧するようになったのも事実である。明末・清初の王夫之(船山)が〈人を離れて別に天があるわけではなく,欲を離れて別に理があるわけではない〉(《読四書大全説》巻八)などと述べ,清の戴震(たいしん)も情欲肯定論を提起した(《孟子字義疏証》)のは,それに対する反発であった。
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天理[市] (てんり)

奈良県北部の市。奈良盆地を南北に貫く古道の一つ,上ッ道(上街道)に沿って市場町の櫟本(いちのもと)と丹波市(たんばいち),織田氏1万石の陣屋町であった柳本が町場を形成してきたが,1954年この3町と二階堂,朝和,福住の3村が合体して市制を施行した。人口6万9178(2010)。天理教の教会本部が置かれた三島から川原城にかけては多数の母屋(信徒宿泊所),大学,図書館,病院といった教会関係施設が建ち並び,年間100万人をこえる信徒が訪れるなど,宗教都市的色彩が濃厚である。また,天理駅(JR桜井線,近鉄天理線)と教会本部を結ぶ街路沿いには商店街がひらけ,天理駅一帯は市の中心地として発達している。いま一つの南北に走る古道,山辺(やまのべ)の道沿いには石上(いそのかみ)神宮,長岳寺,崇神・景行両天皇陵などの社寺や史跡が多く,東海自然歩道が通り,大和青垣国定公園に指定されている。西部を南北に走る国道24号線沿いには機械,織物関係の工場が見られる。西名阪自動車道のインターチェンジもある。盆地部ではトマト,キュウリなどの野菜類の栽培が,また,東部の大和高原では茶の栽培が行われている。
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普及版 字通 「天理」の読み・字形・画数・意味

【天理】てんり

自然の道理。天道。〔礼記、楽記〕人、物にせらるる、是(ここ)に於て悖(はいぎやく)詐僞の心り。天理を滅して、人欲を窮むるなり。

字通「天」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の天理の言及

【乙木荘】より

…大和国山辺郡(現,奈良県天理市乙木(おとぎ)町)にあった興福寺大乗院領の荘園。13世紀後半の作成と推定される条里坪付図が残っているが,関係史料が乏しいため,成立過程および条里坪付図作成以降の変遷については不明である。…

【楊本荘】より

…大和国城上郡(現,奈良県天理市)の荘園。〈やぎもとのしょう〉ともいう。…

※「天理」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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