天然ガス(読み)てんねんガス(英語表記)natural gas

翻訳|natural gas

精選版 日本国語大辞典 「天然ガス」の意味・読み・例文・類語

てんねん‐ガス【天然ガス】

〘名〙 (ガスはgas) 天然に地下から産出するガスの総称。狭義にはそのうちメタンを主成分とする可燃性ガスをさす。主に油田地帯、炭田地帯からとれ、化学工業用原料、燃料などに用いられる。
※風俗画報‐三五号(1891)尾濃震災記事「従来少量の天然瓦斯を噴出し」

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デジタル大辞泉 「天然ガス」の意味・読み・例文・類語

てんねん‐ガス【天然ガス】

天然に地下に存在するガス。ふつう、可燃性ガスをいい、メタンエタンなどからなる。燃料・化学工業原料などに利用。

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改訂新版 世界大百科事典 「天然ガス」の意味・わかりやすい解説

天然ガス (てんねんガス)
natural gas

天然に地下から産出し,地表条件では気体状をなす物質。通常はメタンを主成分とする低級のパラフィン系炭化水素CnH2n+2からなる可燃性天然ガスを指す。

地質学的産状によっておよそ次のように大別される。(1)油田系ガス 油田において原油とともに産出するか,または油田地帯の含油地質系統中に遊離型鉱床をなしており,石油を伴わずに産出する。これは〈石油系天然ガス〉とも呼ばれる。このうち遊離型ガス鉱床を形成するものだけを指して〈構造性天然ガス〉と呼ぶ場合もある。(2)水溶性天然ガス 原油または石炭の鉱床を有しない地質系統中で,主として地層水中に溶解状態で存在する。(3)炭田ガス 炭田地帯で炭層または炭層付近の地層から産出する。

 このうち,世界的に産業的稼行の対象となるのは油田系ガスであり,油層から生産される原油中に溶存していて,地表で分離されるガスを〈随伴ガス〉または〈油井ガス〉と呼び,原油とは別にガスだけ産出するものを〈非随伴ガス〉または〈ガス井ガス〉と呼ぶ。後者のうちで,地下の条件では全体がガス相であるが,地表の物理条件では〈コンデンセート〉と呼ぶ液相を析出するものもある。

 天然ガスの主成分はパラフィン系炭化水素で,メタンCH4が最も多いが,さらにCの数が多いエタン,プロパン,ブタン,ペンタン,……などを含むガスも多い。ペンタン以上は常温常圧では液相として析出し,これらを含むガスを〈湿性ガス〉といい,メタンが多く,これらの液相を含まないガスを〈乾性ガス〉という。炭化水素以外の不純物としては窒素,炭酸ガス,硫化水素を含むことがあり,またアルゴン,ヘリウム,キセノンなどの希元素ガスをごく微量に含む場合もある。

世界全体の確認埋蔵量は年々増加しており,1970年以降の10年間に2倍近くになっている。95年末の確認可採埋蔵量は約140兆m3である。このうち約40%は旧ソ連に,約32%は中東に分布し,原油と同じく地域的に著しく偏在している。旧ソ連,とくにロシアの天然ガス埋蔵量は突出しており,世界の巨大ガス田10位までのうち6ガス田が旧ソ連領内にある。おもなものはウレンゴイ,ユビレイヌイ,アルクティチェスコエ,ザポリヤルノエ,タズ,メドベジエであり,主として西シベリア地域に集中している。他の国の巨大ガス田としてはオランダのフローニンゲン,イランのパーザヌン,アメリカのヒューゴットン,アルジェリアのハッシ・ル・メルなどがある。この中で本格的に生産されているのはフローニンゲン,ヒューゴットン,ハッシ・ル・メルだけである。ロシアでは西シベリアのウレンゴイ・ガス田の開発に力を注いでおり,ロシア中央部向け5本と輸出用1本の計6本,総延長約2万kmの幹線パイプラインの建設が進められている。このうち世界的な注目を集めているのはスロバキアとの国境のウジゴロドウクライナの都市)までの4650kmを結ぶ輸出用パイプラインを建設するウレンゴイ・プロジェクト(当初はヤンブルグ・ガス田からの輸出を考えていたため,ヤンブルグ・プロジェクトと呼ばれた)である。これらの完成により同ガス田の本格的生産が進められ,ドイツ,フランス,イタリアなどの西欧諸国へもスロバキア経由で供給される。世界の天然ガスの究極埋蔵量については,未発見の資源量の予測に不確実な要素が多く,公表された専門家の諸見解も約140兆~420兆m3という大きな幅がある。これらの見解のうち,おおよその平均的な値としては既発見量を含め約280兆m3前後とみなされる。
執筆者:

天然ガスの存在は古くから人類に知られていた。しかし,商業生産が始まったのは19世紀以降である。さらにその利用が普及したのは1950年以降のことで,天然ガスは若いエネルギー源であるといえる。石油に比べ,天然ガスは消費が特定の地域に集中している点が特徴的である。現在,アメリカ,旧ソ連,西ヨーロッパ,日本の4地域で,世界のガス消費量のほぼ80%を占めている。天然ガス産業が最も早い時期に確立されたのはアメリカであった。パイプラインの技術の進歩により,南部のガス田から大量のガスを東部の主消費地まで経済的に輸送できるようになったことが,ガス利用の拡大をもたらした。さらに1978年に規制が変更されるまで,政府がガス価格を低水準におさえていたこともガス消費増に拍車をかけた。78年以降,ガス価格が急上昇し,需要も減少を見せているが,アメリカのガス消費は依然世界一の規模である。なお,生産量は世界第2位の位置にある。旧ソ連は世界一のガス保有国(世界の賦存量の4割強を占める)であり,消費規模(世界第2位)もさることながら,今や世界最大のガス生産国であり,東ヨーロッパはもとより西ヨーロッパにおける主要供給国の一つとなっている。西ヨーロッパに対するガス供給は新規契約の締結により今後も増量が予定され,さらに日本へのガス輸出の可能性の検討も始まるなど,世界最大のガス輸出国への道を歩んでいる。上記2ヵ国は自国内の豊富な資源量がガス利用の拡大のベースになっているのに対し,西ヨーロッパや日本の場合,ガスの国際貿易の発展がガス消費増の基盤となった。西ヨーロッパについていえばフローニンゲン,北海沖合ガス田など域内での豊富なガス資源の開発に伴い,大陸内のパイプライン網が整備され,安定したガス供給が可能になるとともに,東ヨーロッパを経由して旧ソ連ガスの供給,LNG(液化天然ガス)形態での北アフリカからのガス供給も開始され,それらの輸入ガスをベースに西ヨーロッパのガス消費は増加したのである。日本の場合,国産ガスは限られており,ガス消費が大きく上伸したのは,輸入LNGの導入が本格化した1970年代に入ってからであった。

 世界のガスの需要が急速に増えた50年代から70年代初めにかけては,経済の高成長に支えられエネルギー需要が最も旺盛な時期でもあり,天然ガスは公害のないクリーンなエネルギーであること,燃焼制御が容易なこと,また取引の大半が長期契約であり供給安定性があること,さらには経済性の点でも魅力的であったことなどから,これらの地域の家庭用,産業用,発電用などの部門でシェアを伸ばしたのであった。ただ日本の場合,公害対策と脱石油がLNG導入の動機であったため,ガス利用は発電用に偏っている。79年の第2次石油危機以後,ガス消費にも基調変化が生じている。この時期にガス価格が急騰し,さらに景気の後退,需要構造の変化などが相乗的に影響し,需要減速をもたらした。その結果,先行きの需要見通しは毎年のように下方修正が行われるようになった。

 世界の天然ガス埋蔵量は,現在の消費水準でほぼ60年間維持しうる量であり,エネルギー源として石油を引き継げる潜在力を十分有している。ただ問題としては,石油に比べ,天然ガスの供給体系は本来的に資本集約的であり,それがゆえに長期取引が大半であるから,柔軟性にも欠ける。また大規模なプロジェクトの場合,準備期間だけでも10年は要し,プロジェクト全体の生命は30~40年にも及ぶことになる。現在のように,先行きそう大きな需要の伸びが期待できない状況では,開発のタイミングがきわめて難しい。また今後天然ガスがエネルギー市場での地位を維持するためには,競争力のある価格での供給が必要不可欠であり,コスト面の制約から開発遅延もありうる。なお,国内にガス資源を有する発展途上国では,例えば,サウジアラビアのマスターガスプランに代表されるように,ガスの有効利用を進める方向にあり,これらの国々では急速にガス消費が増加するものと見込まれている。
エネルギー資源
執筆者:

天然ガスの利用面としては,燃料用と原料用に大別される。燃料としては,燃焼ガスが清浄である,燃焼の制御が容易である,需要者の設備が簡便ですむなどの優れた特性を有しており,その利用量は着実に増加している。世界の一次エネルギー消費量中に占める天然ガスの構成比は,1993年の統計では21%を占める規模となっている。用途別では工業用,電力用,家庭用が主であるが,利用状況は各国それぞれ特徴をもっている。アメリカでは工業用と家庭用が高い割合を示す。旧ソ連とフランスは,工業用が圧倒的に高い割合を示すのに対し,イギリスでは家庭用が多い。日本では電力用が7割以上のシェアを占めている。原料としての天然ガスの特長は,その主成分であるメタンが石油系炭化水素のうち最も簡単な分子構造であり,有機物としては水素保有量が最も高い資材であるから,水素を必要とする物質の製造に適している点にある。天然ガス化学工業ではメタノールアンモニア,アセチレン,肥料,合成繊維,合成樹脂など幅広い種類の製品が生産される。

日本において,天然ガスが商業規模で本格的に利用されるようになったのは,1932年,大多喜天然瓦斯の創立以降のこととされている。戦時中から終戦直後にかけて新潟県や千葉県では,天然ガスをボンベにつめて自動車燃料や家庭用に利用していた。52年に日本瓦斯化学工業(現,三菱瓦斯化学)が新潟でメタノールの製造を開始したのを契機に,天然ガスの本格的利用が急速に拡大した。さらに59年以降,新潟県下で見附油田,東新潟ガス田頸城油・ガス田などの構造性ガス鉱床が相次ぎ発見された。天然ガスの増産および需要の伸長にともなって,新潟,秋田,千葉の各県下ではパイプライン網が建設された。62年には新潟と東京を結ぶ本州横断の長距離パイプラインが完成している。昭和40年代には日本で最大級のガス田である吉井・東柏崎ガス田が新潟県下で発見された。またこの時期に海域の探鉱作業が進み,72年には新潟県沖合に阿賀沖油・ガス田が,その2年後には福島県沖合に磐城沖ガス田が発見されている。このように,新潟県を中心とする東北日本海側地域では構造性天然ガス,千葉県では水溶性天然ガスを主力として国産の天然ガスの開発が進められているが,生産規模は世界的にみて小規模なものであり,95年度の生産量22億m3は,カロリーベースでみて国内天然ガス総消費量の4%弱を占めるにすぎない。

 日本への天然ガスの輸入は1969年のアラスカからのLNG導入が最初である。その後ブルネイ,アブ・ダビー,インドネシアからのLNG輸入が実現し,電力用,都市ガス用を中心に天然ガス利用は飛躍的に拡大してきた。95年度の日本の一次エネルギーに占める天然ガスの割合は,10.8%で,消費量のうち96%強をLNGによる輸入に頼っている(95年度の輸入量は4363万t)。需要先別消費割合は電力用約70%,都市ガス用約30%であり,電力用が圧倒的シェアを占めている。これは,供給源のほとんどをLNGに頼っている日本だけに見られる特徴である。

天然ガスの主要成分メタンは,有機物が嫌気性環境で分解されれば比較的容易に生成される。したがって,メタンの供給源はきわめて多様である。油田系ガスに代表される在来ガスに対して,補完的なメタンの供給源を非在来ガスと呼ぶことがある。しかしながら,非在来ガスの定義はかならずしも統一されていない。アメリカガス協会の定義したメタンの非在来供給源として,次のようなものが挙げられている。一つのカテゴリーは,再生可能な供給源で,バイオマス,都会の廃棄物および動物の残渣(ざんさ)であり,もう一つのカテゴリーは再生不能な供給源で,石炭の地下ガス化,泥炭のガス化,オイルシェールのガス化,炭層からのガスおよび異常高圧帯geopressured zoneのガス,タイトサンド・ガス,デボニアンシェール・ガスである。そのほかメタンの潜在的供給源としては,寒冷地や深海底の低温または高圧力環境下でメタンがシャーベット状で賦存しているガス・ハイドレートがある。このうち現在ある程度の生産の実績をもち,商業化が進められているのは,デボニアン・シェールとタイトサンド・ガスである。前者はケツ岩のなかにトラップされたメタンを含有する地層である。アメリカ東部,とくにアパラチア地域には大量に分布しており,現在すでに数千坑の井戸により採ガスが行われている。後者は硬質砂岩層中に埋蔵されているガスで,アメリカ西部のロッキー山脈地域に広く分布している。両者とも生産井には大規模な水圧破砕を実施し,地層に割れ目を形成する必要がある。現在の年間生産規模は前者が約28億m3,後者が約230億m3程度である。

 異常高圧帯のガスは,地下深部の高温や高圧の条件下で地層水中に溶存しているメタンである。アメリカのガルフコースト沿岸部では,深度1万フィート(約3000m)以深の異常高圧帯で大量のガスの賦存が確認され,テスト井によるガスの採収と熱水利用が試みられている。埋蔵量の推定はまだきわめて不確実なものであるが,膨大なポテンシャルが期待されており,この地域だけで現在の世界の天然ガス確認埋蔵量に匹敵する量が賦存していると推定されている。
執筆者:


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日本大百科全書(ニッポニカ) 「天然ガス」の意味・わかりやすい解説

天然ガス
てんねんがす
natural gas

天然に産出するガスのうち、地下に存在する火山ガス、温泉ガスなどの無機(不燃性)ガスを除き、地表条件下で気体となるメタンを主成分としたもの、およびエタン、プロパンなどの可燃性のガスを総称して天然ガスとよぶ。不純物として炭酸ガス、窒素、ヘリウム、硫化水素などが含まれる。

[真田雄三]

種類

天然ガスは、その産出状況から油田ガス、ガス田ガス(構造性ガス、水溶性ガス)に分類される在来型天然ガスのほか、20世紀後半に入って非在来型天然ガスが注目されるようになった。

 在来型の油田ガスは、石油鉱床の油層上部にガス層として、または油層中に溶解して存在しており、石油とともに採取される。構造性ガスの成因は石油と同じであるが、石油が共存していない鉱床から採取される。世界の天然ガス資源のほとんどは構造性ガス、油田ガスで占められている。

 水溶性ガスは、地下水に溶解して存在するガスで、その成因は石油のそれとは異なっている。一般に規模は小さいが日本(新潟・千葉県など)、イタリアで採取されている。採取時に地下水をくみ上げなければならず、地盤沈下の原因となるので開発は制限されている。

 非在来型天然ガスとして炭層ガス(コール・ベッド・メタンcoalbed methane=CBM)、タイトフォーメーションガス(シェールガス)、メタンハイドレートmethane hydrate、深層天然ガスがある。

 在来型のガスは砂岩層に含まれているが、タイトフォーメーションガスは緻密(ちみつ)な泥岩層(シェール)中に存在しており、以前は採集することが困難であったが、掘削技術の進歩によって有望な資源として評価されるようになった。

 メタンハイドレートは、メタンの分子が水の籠(かご)型分子に包み込まれた形で低温・高圧のもと固体で海域、湖沼域、永久凍土域に存在し、次世代天然ガスとして注目されているが、採掘技術はまだ確立されていない。

 CBMは、石炭層に共存するガス(炭鉱ガス)でメタンが主成分である。地下の石炭層に向けて坑井(こうせい)を掘り地下水をくみ上げることによって高圧で閉じ込められていたCBMが遊離してくるのでこれを採集する。石炭の採掘に伴って先進ボーリングにより炭層中のガスを抜くが、そのときに普通40~50%のCBMが副生する。

[真田雄三]

埋蔵量と生産量

天然ガスの埋蔵量は、2010年時点で187兆立方メートルと見積もられている。総生産量は約3兆1690億立方メートルであった。可採年数は58.6年で石油より大きい(可採年数とは、ある年の確認埋蔵量をその年の生産量で割った値)。

 日本の天然ガス埋蔵量、生産量は世界的にみてもきわめて小さく、埋蔵量は約4000億立方メートルと見積もられているが、生産量は34億立方メートルとごくわずかであり、石油と同様にほとんど輸入に頼っている。

 タイトフォーメーションガスの可採埋蔵量はアメリカで5.7~15.6兆立方メートルである。実際に生産されているシェールガスの確認埋蔵量は1兆7200億立方メートル(2009)と報告され生産量も増えているが、採掘の際、水や化学物質を地下に圧入するため環境汚染がおこるなど技術的に多くの問題点が残されている。

 メタンハイドレートの推定原始資源量は317兆立方メートル、日本近海にも7.35兆立方メートルあると見積もられている(2010)。

 CBMの資源量はほぼ石炭資源量に匹敵すると考えられるが詳細な調査は行われていない。もっとも調査の進んだアメリカの例ではCBM資源量は11兆立方メートル(1987)と報告されている。

[真田雄三]

組成

天然ガス中の炭化水素の大部分はメタンであり、そのほかエタン、プロパンなどが含まれている。地上に出てから凝縮液化する成分(プロパン以上の重質の炭化水素)を含むものを湿性天然ガス、これらを経済的に回収できるほど含まないものを乾性天然ガスという。湿性天然ガスから凝集分離した液体は天然ガス液(略称NGL)あるいはコンデンセートcondensateといい、そのなかのプロパン、ブタンは液化石油ガス(LPG)として、また、ブタン、ペンタン、ヘキサンを主成分とする炭化水素混合物は天然ガソリンとしてそれぞれ利用される。

 不純物は産地により大きく異なる。二酸化炭素、窒素は発熱量を低下させる以外の害はないが、水蒸気は凝縮し、また炭化水素水和物は固体となるのでパイプラインを詰まらせる。硫化水素その他の硫黄(いおう)化合物は悪臭をもち、器材の腐食原因となるので除去しなければならない。除去法として固体吸着法、液体吸収法および冷却法がある。

[真田雄三]

用途

天然ガスの用途は、燃料と、化学工業の原料とに大別される。20世紀なかばころから天然ガスを燃料として利用することが急速に広まってきた。精製した天然ガスは、発熱量が高い(メタンの高発熱量は1立方メートル当り9536キロカロリー)、硫黄分をほとんど含まない、無毒で爆発範囲が狭く、ガス比重(空気基準で0.56~0.95)が小さく拡散しやすいため危険性が少ない、などの特徴があり、都市ガス用に最適である。アメリカの都市ガスはほとんど天然ガスに依存しており、西ヨーロッパや日本でも広く用いられつつある。ガソリンに代替して天然ガス自動車も運行されている。

 工業用燃料としては、石炭、重油と比較しての経済性が重要であるが、硫黄分を含まず、燃焼時に発生する窒素酸化物が比較的少ないため、大気汚染防止対策上有利であり、とくに石炭、石油に比べて二酸化炭素の排出量が単位熱量当りもっとも少ないので発電用燃料としての価値が高い。天然ガスの欠点は、輸送費が比較的高いことで、同じ熱量の石油と比べてパイプラインは約4倍大きくなくてはならず、また液化天然ガス(LNG)タンカーは原油タンカーのおよそ2倍の大きさであるうえに、液化、貯蔵、気化設備の建設費も大きい。したがって産地と消費地が離れているほど経済性が悪くなる。

 天然ガスは化学工業における重要な原料である。もっとも広く行われているのは水蒸気改質法による合成ガス(一酸化炭素1容と水素2容との混合物)の製造である。合成ガスはメタノール(メチルアルコール)、アンモニア合成に大量に向けられている。将来の水素エネルギー(水素燃料自動車、水素燃料電池など)社会が実現するためには、水素製造コストの低い天然ガスが主要出発原料の一つとなる。このほかメタンを原料とする製品には、青酸、アセチレン、カーボンブラック、クロロホルムなどがある。

 アメリカでは、天然ガスから分離されるエタン、プロパンを熱分解し、基礎石油化学原料であるエチレン、プロピレンを製造している。

 大消費地から遠く離れた生産地で天然ガスからメタノールを合成すれば、普通の石油タンカーで輸送できるので、輸送距離が1万キロメートル程度を境にして、それより長い場合には、発熱量は低いがメタノール燃料として輸送しても有利であるといわれ、研究開発が進められている。発熱量基準で輸送量が等しい場合、メタノールは液化天然ガスよりも原料天然ガスを40~50%多く必要とする。天然ガスをいったんメタノールに転換したのち、1970年代前半にモービル社が開発したゼオライト(ZSM-5)触媒を用いてガソリンへ転換する方法がニュージーランドで実証された。消費地が遠い場所で生産される天然ガスの利用の鍵(かぎ)の一つは、水資源が容易に入手できるかどうかである。水がなければ合成ガスやメタノールの製造ができないからである。

[真田雄三]

合成天然ガス

世界的にみて天然ガスは将来の期待が大きいエネルギー源であるが、石炭、オイルシェール、ビチューメン、バイオマスなどを原料としても合成天然ガスsynthetic natural gas(SNG)を製造することができる。合成天然ガスは、ナフサあるいは原油を原料とする装置がすでに設計、建設されているが、資源の豊富な石炭を原料とする方法が研究開発中である。固体である石炭をいったんガス化し、さらに水蒸気変成、メタン化によって粗ガスをメタンと二酸化炭素とに変換し、最後に二酸化炭素を除去する方法である。

[真田雄三]

『石油学会編『新石油事典』(1982・朝倉書店)』『日本エネルギー学会天然ガス部会編『よくわかる天然ガス』(1999・日本エネルギー学会)』『石油学会編『石油辞典』第2版(2005・丸善)』『資源問題研究会著『一目でわかる!最新世界資源マップ――エネルギー、レアメタル、食糧の今が見える!』(2011・ダイヤモンド社)』

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百科事典マイペディア 「天然ガス」の意味・わかりやすい解説

天然ガス【てんねんガス】

天然に地下から産するガスの総称。一般には炭化水素を主成分とする可燃性ガスをさす。石油に伴う油田ガス(構造性ガスとも),夾(きょう)炭層から産する炭田ガス,および石油・石炭と直接関係がなく,大量の地下水に伴って産する水溶性ガス(共水性ガスとも)がある。いずれも主成分はメタンであるが,油田ガスにはエタン,プロパン,ブタン,天然ガソリンなども含む(湿性天然ガス)。世界の天然ガスのほとんどは油田ガスであるが,日本およびイタリアでは水溶性ガスが多い。日本の天然ガス開発も積極的に進められたが,需要に追いつかず,大部分を輸入LNG(液化天然ガス)に依存している。現在,電力用に最も多く使われているが,都市ガスは全供給量のほとんどをLNGに頼っている。天然ガスは化学工業用原料としても重要で,メタノール,アンモニア,アセチレン,肥料,合成繊維,合成樹脂など幅広い種類が製造されている。
→関連項目ガス化学工業ガスプロム[会社]化石燃料頸城油・ガス田シェールガス石油化学石油化学工業脱硫低公害車都市ガス新潟ガス田複合発電

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「天然ガス」の意味・わかりやすい解説

天然ガス
てんねんガス
natural gas

地下に存在し地表条件では気体である物質の総称。炭酸ガス,窒素ガスなどの不燃性のものと,炭化水素を主とする可燃性ガスがあり,狭義には後者だけをいう。その地質学的存在状況および産出状況により次のように分類される。 (1) 構造性天然ガス (石油系ガス)  原油とともに産出する油井系ガス (隋伴ガス) とガスだけを単独に産出するガス井ガス (非隋伴ガス) がある。 (2) 水溶性ガス (メタン系ガス)  おもに有機物起源のガスで比較的浅い地層の地層水中に溶解しているもの。 (3) 炭田ガス 炭田地帯の炭層や炭層付近の地層に存在しているものがある。これらのうち最も高い商業的稼行対象となるものは構造性天然ガスである。また水溶性ガスは採取が容易なため日本では古くから千葉,新潟などで商業的な採取が行われてきたが,世界的には例が少い。天然ガスの主成分はパラフィン系炭化水素で,炭素1個のメタンを主成分とするが,2個以上の炭素原子数をもつエタン,プロパン,ブタン,ペンタンなどを含むものもある。プロパン以上は常温常圧では液化しコンデンセートとなるので,これらを含むものを湿性ガス (ウェットガス) と呼び,メタンが多くこれらを含まない乾性ガス (ドライガス) と区別する。不純分としては窒素,炭酸ガス,硫化水素,アルゴンなどの希元素ガスなどを含むことがある。広く燃料として使用されるほか化学原料として水素,メタノール,アンモニア,肥料などの製造に使用される。

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化学辞典 第2版 「天然ガス」の解説

天然ガス
テンネンガス
natural gas

広義には,地下から天然に産出するガスを総称するが,一般には,このうち低級炭化水素を主成分とする可燃性ガスをいう.成因的に各種のものがあり,油田地帯から産出する石油系の油田ガス,炭田地帯から産出する炭田ガス,石油や石炭と関係なく単独のガス鉱床として水に溶解して産出する水溶性ガスなどがある.主成分はメタンであるが,油田ガスでは,しばしばこのほかにエタンプロパンブタンなどの炭化水素を含有する.化学工業原料,都市ガス,火力発電用燃料などに用いられる.[別用語参照]液化天然ガス

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

世界大百科事典(旧版)内の天然ガスの言及

【エネルギー資源】より

…エネルギーは人類の生存にとって欠くことのできないものであるが,今日,主として利用されているのは,石油,石炭,天然ガス,水力,核燃料などによるものである。このほか,太陽の光や熱,川の流れ,風,あるいは牛糞,廃品など,対価を支払わずに利用されているエネルギーも大量にあるが,通常,エネルギー資源という場合には,対価の支払を必要とする商業的資源を指している。…

【化学工業】より

…そこで,原料や製造技術,製品の化学的組成,加工度,需要分野などの違いによる分類もなされる。たとえば,原料による分類には石油化学,石炭化学,天然ガス化学工業などがあるし,製造プロセスによる分類には発酵化学,電気化学工業などがある。また製品の加工度によって,素材型化学と加工型化学工業(ファイン・ケミカル)とに分けたりする。…

【ガス化学工業】より

…ガスを原料とする化学工業のことであるが,一般には,天然ガスを原料として有機化学工業の中間原料であるメタノール(メチルアルコール),アセチレンアンモニアなどを製造する分野をいう。ガス化学工業という分類は日本特有のものである。…

【長江】より

…この間,戦国時代末には沱江流域の自流井(自貢)では塩井が掘られ,天然鹹水(かんすい)を煮つめ〈井塩〉をとりはじめている。また,三国の蜀代には〈火井〉すなわち天然ガス井も利用されている。漢・三国時代には漢族が四川や長江下流に移動しはじめ,三国の呉は建業すなわち南京に国都をおき,長江下流部の開発をすすめた。…

※「天然ガス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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