天津罪国津罪(読み)あまつつみくにつつみ

改訂新版 世界大百科事典 「天津罪国津罪」の意味・わかりやすい解説

天津罪・国津罪 (あまつつみくにつつみ)

日本古代で祭祀によって除去されるべき犯罪災害総称。《古事記》や《日本書紀》の神代の巻にはアマテラス(天照大神農耕や祭祀を妨害したスサノオ(素戔嗚)神のさまざまな罪があげられ,《古事記》の仲哀天皇の段にもそのような罪による穢(けがれ)を除去するために〈国の大祓(おおはらえ)〉をしたことがみえる。それらは後の〈大祓詞〉という祝詞(のりと)で天津罪と国津罪とに分けられ,前者としては(1)畔放(あはなち),(2)溝埋(みぞうみ),(3)樋放(ひはなち),(4)頻蒔(しきまき),(5)串刺(くしざし),(6)生剝(いけはぎ),(7)逆剝(さかはぎ),(8)屎戸(くそへ)(脱糞の意)の8種,後者としては(1)生膚断(いきはだだち),(2)死膚断(しにはだだち),(3)白人(しろひと),(4)胡久美(こくみ)(瘤(こぶ)や疣(いぼ)など),(5)己が母犯せる罪,(6)己が子犯せる罪,(7)母と子と犯せる罪,(8)子と母と犯せる罪,(9)畜(けもの)犯せる罪,(10)昆虫(はうむし)の災,(11)高津神の災,(12)高津鳥の災,(13)畜仆(たお)し,(14)蠱物(まじもの)する罪の14種が列挙されるに至った。これらのうちで,天津罪の(1)~(5)は農耕妨害,(6)~(8)は祭祀の場をけがす行為,国津罪の(1)(2)は身体損壊,(3)(4)は皮膚疾患,(5)~(8)は近親相姦,(9)は獣姦,(10)~(12)は農業災害,(13)(14)は呪詛をそれぞれ指すとみられているが,なかには例えば近親相姦の4種のように同じ罪の呼びかえにすぎないと思われる場合もあって,分類や列挙の規準は明確でない。また天津罪は共同体の農耕や祭祀に対する犯罪,国津罪は個人的な犯罪や天災というふうに分類する説もあるが,やはり人為と自然とが明確に区別しえず,人々の忌み嫌う事柄をたまたま天と国とに分けて配当したにすぎないと考えるべきであろう。ただこのような事柄が起こった場合,犯した者が明白であればスサノオ神のように共同体から追放されるが,ふつうは共同体の全員から〈祓物(はらえつもの)〉を徴収して神に供え,穢の除去を祈った。そして民間では臨時に行われていたこのような風習がやがて朝廷の祭祀のなかに定着し,6月と12月との毎年2回の大祓となったとみられている。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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