日本大百科全書(ニッポニカ) 「天国と地獄(音楽)」の意味・わかりやすい解説
天国と地獄(音楽)
てんごくとじごく
Orphée aux Enfers
オッフェンバック作曲のオペレッタ。全二幕。1858年パリ初演。原題は「地獄のオルフェ」だが、日本では1914年(大正3)東京・帝国劇場で初演以来、このタイトルで親しまれている。グルックの歴史的なオペラ『オルフェオとエウリディーチェ』のパロディで、オルフェ(オルフェウス)は羊飼いの女を、妻のエウリディーチェ(エウリディケ)は羊飼いの男、実は地獄の王を愛していて、夫婦げんかが絶えない。王は彼女がヘビに咬(か)まれたのを幸いに、地獄へ連れて行く。オルフェは喜ぶが、人間社会を代弁する世論にたしなめられ、天国のジュピターのところへ妻を連れ戻しに行く。ところがジュピターはエウリディーチェを見て一目ぼれ。連れ帰ってもいいが、三途(さんず)の川を渡るとき、振り向いてはならないという。2人が川を渡りきろうとしたとき、雷鳴とどろき、オルフェは振り向いてしまう。そしてオルフェは羊飼いの娘と、エウリディーチェはジュピターと結ばれて大喜びだが、世論と地獄の王は浮かぬ顔である。オペレッタの原点ともいうべき作品で、フィナーレを飾るガロップ調のバレエ音楽は、フレンチ・カンカンの音楽として世界を席巻(せっけん)し、無声映画の大活劇の伴奏音楽としてもよく使われた。
[寺崎裕則]