天国と地獄(映画)(読み)てんごくとじごく

日本大百科全書(ニッポニカ) 「天国と地獄(映画)」の意味・わかりやすい解説

天国と地獄(映画)
てんごくとじごく

日本映画。1963年(昭和38)作品黒澤明(くろさわあきら)監督。1960年代に入るとテレビの普及もあって、日本映画の興行は下降線をたどっていく。そうしたなか、黒澤は『用心棒』(1961)、『椿三十郎(つばきさんじゅうろう)』(1962)と、時代劇のエンターテインメント作品のヒットを放ったが、本作は現代劇によるサスペンス映画である。原作はアメリカの推理作家エド・マクベインの『キングの身代金』。冒頭は横浜の丘に建つ豪邸一室。主人公の製靴会社専務三船敏郎(みふねとしろう))の息子と間違えられて、専務の運転手の息子が誘拐されたいきさつが語られる。室内に限定した静的なスタートから、一転、特急列車から身代金の入ったかばんを放り投げるというスピード感あふれるサスペンスヘと展開、さらに犯人(山崎努(やまざきつとむ)、1936― )と警察の駆引きへと物語は進んでゆく。ダイナミックな映像と巧みなストーリー・テリングで、黒澤監督ならではの緻密(ちみつ)な構成をみせた。貧しいインターンの犯人と裕福な主人公との階層的・世代的な対立も重ねあわせてあるが、あまり成功しているとはいえない。1950年代にピークを超えた映画のリアリズム表現は、それを特化させ抽象・局所化するケースとして、サスペンス映画の可能性を浮上させていたが、本作はその見事な例証であり、新たな領域確立を果たした作品といえよう。

[千葉伸夫]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

今日のキーワード

靡き

1 なびくこと。なびくぐあい。2 指物さしものの一。さおの先端を細く作って風にしなうようにしたもの。...

靡きの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android