天井(読み)てんじょう(英語表記)ceiling

日本大百科全書(ニッポニカ) 「天井」の意味・わかりやすい解説

天井
てんじょう
ceiling

建築空間の上方を区画する部位。通常は小屋組みまたは上階の床(スラブslab)組みの裏から板状の構成物を吊(つ)り下げる形でつくるが、床裏そのものを天井とすることもある。木造建物においてはとくに天井をつくらず、屋根裏や軒裏を美麗に仕上げて天井にかえることがあり、それぞれ化粧屋根裏、化粧軒裏とよばれる。

 天井をとくに設ける利点は、(1)一般に化粧の困難な構造体や天井裏に通す配管、配線など目障りなものを視線から遮断する、(2)壁、床とともに外界からの熱、音、気流などをある程度遮断または吸収する、(3)音、熱、光の反射面とすることができる、(4)色、形、面などの組合せにより屋内意匠を整えられる、などである。天井を設けるには、構造体(小屋組み、床組みなど)から吊り木を下げ、これに天井野縁(のぶち)を吊り、その野縁に天井材料を取り付ける。吊り木、野縁は木造建物では木材を用いるが、鉄骨造や鉄筋コンクリート造では最近は軽量鉄骨によることが多い。

 天井面の仕上げには張り物による場合と塗り物による場合とがある。張り物としては杉、欅(けやき)、そのほか肌の美しい木板を使用するほか、化粧合板、各種ボード(石膏(せっこう)ボードなど)、金属板、石綿板などの乾式材も用いられる。乾式材には、表面に模様をつけ、あるいは孔(あな)をあけて吸音効果を図るなどのくふうを凝らしたものが多い。塗り物は左官工事によるもので、漆喰(しっくい)、各種プラスター(石膏、ドロマイトなど)、セメントモルタルがあり、まれに土天井も用いられる。乾式材による張り物と塗り物には、さらにペイント塗りやクロスまたは壁紙張りなどによる仕上げを行うことがある。

 天井の形状には竿縁(さおぶち)天井、平天井(竿縁を用いないもの)、舟底天井(切妻屋根を下面から見上げた形の天井)、格(ごう)天井(格子の上に天井板を置いた形)があり、さらに豪奢(ごうしゃ)なものとして折上格天井(壁と天井の取付け部分に支輪をつけたもの)、組入れ格天井(格子の中にさらに細かい格子を組み入れたもの)があり、書院造によく用いられる。漆喰天井では、同じ材料による繰形(くりがた)や天井中心飾で装飾することがあり、日本ではいわゆる明治建築に優れた作品がみられる。草庵(そうあん)茶室の天井は特異で、通常は三段に分かれ、躙口(にじりぐち)を入ったところの天井は勾配(こうばい)がつけられ掛込み天井、点前席(てまえせき)の上は蒲(がま)を張ることが多いので蒲天井とよばれ、床の間の前の天井は蒲天井より一段高くなり、ここには竿縁天井を用いるのが普通である。

 なお、床上面から天井下面までの高さを天井高といい、一般の居室では2.1メートル以上にすることが建築基準法に規定されている。

[山田幸一]


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精選版 日本国語大辞典 「天井」の意味・読み・例文・類語

てん‐じょう ‥ジャウ【天井】

〘名〙
① 屋根裏をおおい隠し、塵よけ、保温のためなどに板を室内の上部に張ったもの。初めは天蓋として上から釣り、または柱を立てて上においたが、後には造りつけになった。
※正倉院文書‐天平宝字三年(759)三月・大仏殿廂絵画師作物功銭帳「彩色天井板花壱万拾壱区別〈方八寸〉」
※宇津保(970‐999頃)楼上上「ろうのてん上には〈略〉高麗錦を張りたり」 〔文選注‐張衡・西京賦〕
② 物の最も高いところ。特に物の内部の高い所についていう。
※義経記(室町中か)七「懸けさせたる笈のあしに〈略〉てんじゃうには四尺五寸の大太刀をまよこさまにぞおきたりける」
③ からかさのてっぺんに当たる部分。
※万金産業袋(1732)一「天井(テンジャウ)ばかり青を、紅葉といひ、ぐるりの青きを軒青(のきあを)といふ」
※売卜先生糠俵後編(1778)下「恐ろしき物の天井(テンジャウ)は色なり」
物価や相場などの最高値。〔大坂繁花風土記(1814)〕

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百科事典マイペディア 「天井」の意味・わかりやすい解説

天井【てんじょう】

床に対し部屋の上限界面をいう。化粧屋根裏,ドーム等屋根裏をそのまま利用するものもあるが,一般には小屋組を隠すため設けられるおおいをいい,熱・音・照明等の調整に役立つ。和風には,棹縁(さおぶち)天井格(ごう)天井,舟底を逆にした形の舟底天井,板の間を5〜10mm透かした目透し天井等があり,材料としては,ヒノキスギなどの薄板や竹,ヨシ等が用いられる。洋風ではモルタル塗,テックス等を多く使用。

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家とインテリアの用語がわかる辞典 「天井」の解説

てんじょう【天井】

部屋の上部にあり、上階の床下や屋根裏と部屋を仕切る面。防塵(ぼうじん)・断熱・保温・防音などの役目を持つ。建築基準法で定められた居室の天井高は2.1m以上。和室では、もっとも一般的な竿縁(さおぶち)天井のほか、格(ごう)天井舟底(ふなぞこ)天井などがある。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「天井」の意味・わかりやすい解説

天井
てんじょう
ceiling

室内の上部に設けた面。ちり受けや小屋組み,床組みを隠すために設けるものであるが,現在では,照明,空調,放送機器などを取付ける機能も果している。仕上げにより,板や石膏ボード,合板などを用いた張上げ天井,モルタルなどの塗天井,吊天井がある。

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リフォーム用語集 「天井」の解説

天井

形態別に分類すると、平天井(ひらてんじょう)、折上(おりあげ)天井、船底(ふなぞこ)天井、掛込(かけこみ)天井、落(おち)天井、化粧屋根裏などがある。最も一般的な形態は平天井で、掛込天井・落天井は茶室などに用いられることが多い。

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デジタル大辞泉 「天井」の意味・読み・例文・類語

てん‐じょう〔‐ジヤウ〕【天井】

屋根裏を隠し、また保温などのため、部屋の上部の板を張った部分。組み入れ天井ごう天井鏡天井などがある。
物の内部の一番高い所。
物価や相場の最高値。「相場が天井を打つ」⇔
成長や発展を阻むもの。「ガラスの天井

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とっさの日本語便利帳 「天井」の解説

天井

屋根裏を覆い隠すように張られた板のこと。その語源は、火事を防ぐまじないとして井戸の形に作ったからという説や、囲炉裏の上部の屋根に当たる部分に井げたの棚が組んであったからという説などがあり、一定しない。

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世界大百科事典 第2版 「天井」の意味・わかりやすい解説

てんじょう【天井 ceiling】

室内空間の上限を構成する面をいう。室内空間と小屋裏などの空間とを区画するために設けられる仕切り状のものが本来の天井であるが,屋根や床の下面がそのまま室内空間の上限になっているものも天井と呼ぶ。木造住宅では梁(はり)などの架構部材や垂木(たるき)などの屋根を構成する部材をそのままあらわして野地板を天井面とすることがあり,化粧屋根裏と呼ばれる。鉄筋コンクリート造の集合住宅ではコンクリート床版の裏面に直接仕上げを施して天井面とすることが多い。

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世界大百科事典内の天井の言及

【航空気象】より

…滑走路付近に煙や霧が流れてきたり降雨があれば透過率は低下しRVRは下がる。シーリングceiling雲量が10分の6以上になっている最低雲層の雲底高度または鉛直視程をいう。いくつかの雲層があるときは,下層から積算した雲層の天空をおおう量が,初めて10分の6に達した最低の雲層の飛行場からの高さである。…

【社寺建築構造】より

…社寺建築の大部分は一階であって,二階のあるものは門,鐘楼などを除けばごく少なく,三階以上は塔以外にはない(図1)。
【各部分の構造】
 社寺建築はまず基壇を築き,礎石をすえ,柱を立て,貫でこれをつなぎ,上に組物を置いて桁,梁を渡し,垂木(たるき)をかけ,屋根を葺き,いちおう雨のかからぬようにしてから,壁,窓,出入口をつくり,床,天井を張り,建具を入れ,装飾を施す。
[基壇]
 神社建築では古くは基壇を設けず,礎石もない掘立柱であったが,飛鳥時代に大陸の建築様式が伝来してからは,宮殿,仏寺などは基壇を設け,神社建築もこれにならうようになった。…

【住居】より

…身舎の西4間板張床の広い部屋で,中を屛風や几帳(きちよう)で適当に仕切って日常の生活を行った。座具としては置畳(おきだたみ)を敷き,寝所には,床を一段高くし,四本柱で天井を支えて四方に帳を垂らした帳台が使われていた。東三条殿は貴族住居では最大規模のものであるが,寝殿などの構成原理は他の貴族住居に共通していたものと考えられる。…

【書院造】より

…室内は畳を敷きつめ,上座は一段高く上段につくって下座と区別した。天井は上座を折上(おりあげ)小組格天井(ごうてんじよう)または格天井とし,下座の小組格天井または棹縁天井(猿頰(さるぼお)天井,平縁天井)と仕上げを別にした。壁は土壁の素肌を露出しないで張付壁に仕立て,小壁は古くは白土塗りとしたが,のちに張付壁に仕立てた。…

【茶室】より

…その四畳半は,書院から完全に脱皮した草庵の構造と意匠を示すにはいたっていなかったが,茶の湯の本質を建築的に表現しえていたことは確かである。伝書に記された紹鷗四畳半は,北向で上り口に簀の子縁(すのこえん)がつき,檜柱(ひのきばしら)で白の張付壁,天井はノネ板張りで高さ7尺1寸,間口1間に深さ2尺3寸の床を構えていた。そして小壁がいくらか高く,鴨居内法高(うちのりだか)を通常より低くしていた。…

【天井画】より

…天井に施された絵画をいう。ここで天井というのは,木造建築に多い平天井のほか,石材や煉瓦などを用いるボールト(穹窿),円蓋,半円蓋など,要するに建築空間の上部を覆う面をさす。…

【日本建築】より

… このような意匠の根本的な性格は,室内でも同様である。中国建築の室内は周囲の斜めに設けられた化粧屋根裏で,中央に向かって高まり,中央の水平の天井で,その高まってゆく空間を納めている。その空間構成は立体的なものであるが,日本ではこれと同様な手法をとり入れながらも,しだいに室内一面に水平な天井を張る方向に向かっている。…

【床】より

…この点は石張りの技法についてもいえるところで,材料の厚みや強度を無視すれば,西洋建築における床の仕上げは,壁の仕上げと基本的には共通するものである。西洋建築の室内空間は,床と壁という共通した技法による構成要素からなる箱に天井というふたをしたものであるか,あるいはプラスター仕上げの壁をもつ室内などのように,天井と壁が共通した技法による構成要素となり,そこに床という底をつけたものであるかの,いずれかとして考えられる。したがって,床の表現はもっぱら仕上げの方法を通じてなされ,日本建築におけるように,微妙な床の高低差が社会的序列を示すという傾向は比較的少ない。…

※「天井」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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