大菩薩峠(中里介山の小説)(読み)だいぼさつとうげ

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

大菩薩峠(中里介山の小説)
だいぼさつとうげ

中里介山(なかざとかいざん)の長編小説。1913年(大正2)9月から翌年2月までの『都(みやこ)新聞』連載を皮切りに、いくつかの新聞に連載、あるいは書き下ろしの形で出版したが、44年(昭和19)作者の死により未完。時代は幕末、剣法音無しの構えの名手机龍之助(つくえりゅうのすけ)が、武州(東京都下)御嶽(みたけ)山の奉納試合で宇津木文之丞(うつぎぶんのじょう)をうち殺し、文之丞の妻お浜を連れて江戸に逃げ、文之丞の弟兵馬(ひょうま)が敵討(かたきうち)に出て、彼をねらうところから物語が展開する。龍之助はお浜を斬(き)り、新徴組に入って京都に行くが、さらに大和(やまと)(奈良県)で天誅(てんちゅう)組に参加、十津川(とつがわ)の戦いで火薬のために失明、盲目の剣士としてのニヒルな凄(すご)みが加わる。以後、舞台はいっそう広がり、登場人物も数十人に増え、話の筋もいくつかのものが織り込まれ、人間世界の複雑に流転してゆく姿が描かれる。龍之助という否定的な、しかし不思議な人間像を造型した功績は大きく、後の大衆文学の主人公の形象に深い影響を与えている。

[竹盛天雄]

『『大菩薩峠』全12巻(1979・筑摩書房)』『『大菩薩峠』全20巻(富士見書房・富士見時代小説文庫)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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