大悲千禄本(読み)ダイヒノセンロッポン

デジタル大辞泉 「大悲千禄本」の意味・読み・例文・類語

だいひのせんろっぽん〔ダイヒのセンロクポン〕【大悲千禄本】

黄表紙。1冊。芝全交作、北尾政演山東京伝)画。天明5年(1785)刊。不景気のため、千手観音千本の手を損料貸しするという物語

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「大悲千禄本」の意味・わかりやすい解説

大悲千禄本
だいひのせんろっぽん

黄表紙(きびょうし)。一巻一冊。芝全交(ぜんこう)作、北尾政演(まさのぶ)(山東京伝)画。1785年(天明5)刊。題名は、大根料理の流行を反映して「大根の千六本」をもじったもので、角書(つのがき)に「御手料理/御知而已(おしるのみ)」とある。清水寺(きよみずでら)の本尊千手観音(せんじゅかんのん)が、世の中が不景気なため山師の助けを借り、千本の手を損料貸しにしてひともうけしようとする話であるが、筋(すじ)らしい筋はなく、源平合戦で右手を切り落とされた平忠度(ただのり)や無筆の男などがその手を借りて巻き起こす滑稽(こっけい)を描き、最後を坂上田村麿(さかのうえのたむらまろ)が観音の助けで千の矢を放って賊を退治する話でしめる。わずか五丁(10ページ)という異例の超短編で、新進気鋭の版元蔦屋重三郎(つたやじゅうざぶろう)が朋誠堂喜三二(ほうせいどうきさんじ)、山東京伝ら当代の代表的作者を動員した企画物の一環であるが、その滑稽の才を遺憾なく発揮して全交の代表作となったばかりか、もっとも黄表紙らしい黄表紙として知られる。

[宇田敏彦]

『水野稔校注『日本古典文学大系59 黄表紙・洒落本集』(1958・岩波書店)』『浜田義一郎他校注『日本古典文学全集46 黄表紙・川柳・狂歌』(1971・小学館)』『小池正胤・宇田敏彦他編『江戸の戯作絵本 黄表紙集2』(社会思想社・現代教養文庫)』


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改訂新版 世界大百科事典 「大悲千禄本」の意味・わかりやすい解説

大悲千禄本 (だいひのせんろっぽん)

黄表紙。芝全交(ぜんこう)作。北尾政演(まさのぶ)(山東京伝)画。1785年(天明5)刊。1冊。不景気のため千手観音が千本の手を損料貸しに出す。薩摩守忠度(ただのり),茨木(いぱらき)童子,手(手練手管(てれんてくだ))の無い女郎,無筆など,手を必要とする人々が借りに来るが,いろいろな手違いによるこっけいな事態が生まれる。最後には坂上田村丸が鈴鹿山の鬼神退治で,謡曲の文句どおりに戦うため,1000本の手を借り集めて出陣する。神仏の卑俗化,珍商売開業という趣向のなかに,古伝説や謡曲,あるいは現代世相風俗などを集約戯画化して,奇警着想としゃれたこじつけの巧妙さで,黄表紙中の名作と評せられる。
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