大学学長会議(読み)だいがくがくちょうかいぎ

大学事典 「大学学長会議」の解説

大学学長会議
だいがくがくちょうかいぎ

各国における大学の学長等を構成メンバーとする連絡調整組織。公式・非公式の定期的な会合により高等教育政策,大学改革,学術交流等の課題を協議・提言する。

[ドイツ]

ドイツの大学学長会議(ドイツ)(Hochschulrektorenkonferenz: HRK)は,ドイツの約270の州立大学および州が認定する私立大学の任意の連合体で,ヨーロッパ大学協会(EUA)の構成メンバーでもある。1949年に西ドイツ学長会議(WRK)として発足し,東西ドイツの統一後,旧東ドイツの大学が加わったことで,1990年11月5日にWRKからHRKへと改組された。HRKは研究,大学教育,学生の学修,アカデミックな継続教育,知識・技術移転,国際協力,セルフマネジメントなど,高等教育機関にかかわるあらゆる政策について各高等教育機関の意見や立場を代表することを主要な任務としているほか,プロジェクトの推進,卓越した大学教育の表彰,高等教育機関の国際化戦略の評価などにも従事している。おもな財源は各州および連邦教育研究省からの補助金や私立大学の年会費で,その予算規模は年間約430万ユーロに上る。
著者: 髙谷亜由子

フランス

フランスの大学学長会議(フランス)(Conférence des Présidents d'Université(フランス): CPU)は,教育法典L.233-1条に基づいて設置された合議機関である。大学(université)および同等の機関,特別高等教育機関(grand établissement),高等師範学校(école normale supérieure)の長で構成され,2014年現在加盟機関数は約100である。CPUは2007年の「大学の自由と責任に関する法律(フランス)(LRU)制定までは国の一組織であって,その長は高等教育担当大臣であった。現在は1901年法に基づく非営利法人で,その長を含む執行部は加盟機関による選挙で選ばれる。CPUは高等教育行政について高等教育担当大臣に対して意見を述べるとともに,大学・高等教育機関相互支援機構(Agence de Mutualisation des Universités et des Etablissements d'enseignement supérieur: AMUE)を通じて加盟機関に対して大学運営等に関する支援を行っている。LRU制定以降大学の自律性が拡大する中,フランスの高等教育におけるCPUの役割は大きくなっている。
著者: 大場淳

イギリス

イギリス(UK)の大学の連合組織として,英国大学協会(Universities UK(イギリス): UUK)がある。現時点で133を数える大学の学長(いくつかのユニバーシティ・カレッジや高等教育カレッジを含む)から構成され,協議を通じて全体としての「イギリスの大学の声」を集約・発信し,その共通の関心と利益を促進することを目的としている。各加盟大学の会費によって運営される非営利有限会社という形態をとっている。本部はロンドン。第1次世界大戦後における大英帝国大学間事務局(Universities Bureau of the British Empire: UBBE)設立の動きのなかに胚胎し,1930年に発足したイギリス学長委員会(Committee of Vice-Chancellors and Principles: CVCP)がその前身。ポリテクニクの大学昇格など大学をめぐる近年の新たな変化に対応すべく,2000年に現在の名称に改めた。姉妹関係にある組織としてUniversities Scotlandがある。さらにUUK内部には,伝統と格式を誇る大規模研究中心大学24校で構成されるラッセル・グループ(イギリス)や,小規模研究型大学12校が参加する1994グループなど別個の圧力団体も存在している。
著者: 安原義仁

アメリカ合衆国

多様な4年制大学が3000校を超える現在はいうに及ばず,数百校の部分を代表した数個の「学長会議」が発足した100年ほど前,合衆国での包括的な学長会議はすでに困難であり,ヨーロッパ的な意味におけるそうした組織を考えることはできない。最古のランドグラント大学協会(アメリカ)(1887年,現在は公立およびランドグラント大学協会(アメリカ))では,農工を中核とする教育・研究上の経験を学長たちが交換しつつ,協力して連邦政府からの支援を求めた。アメリカ大学協会(AAU)は,ドイツでも通用する博士号の授与を目指した主要14大学をもって1900年に発足し,州立・私立60校(別にカナダ2校)を包摂する現在も,学長たちが連邦政府との連携強化による研究条件の向上に余念がない。アメリカ・カレッジ協会(AAC)は,百数十校の小規模カレッジが1915年に結成し,後に大学の文理学士課程も加えて,現在1300校を傘下にもつ。AAUがヨーロッパの「学長会議」に最も近いであろうが,合衆国ではエリート的すぎる。公立およびランドグラント大学協会は,原則,私立大学を含まない。AACはリベラルアーツ教育に特化する。多様な大学間のバランスを保ち,連邦政府との関係で全体を代弁するのが,アメリカ教育協会(ACE)である。
著者: 立川明

[日本]

全国の国公私立大学の学長で構成され,多少とも公的性格を有する恒常的な組織としての大学学長会議なるものは,日本には設置されていない。ただし,大学の特性(設置者,所在地,設置学部等)に応じて,多様な大学連合体組織が設置されている。設置者別では,国立大学が国立大学協会,公立大学が公立大学協会,私立大学が日本私立大学連盟と日本私立大学協会等を設置している。所在地別では,いわて5大学学長会議,仙台学長会議,愛知学長懇話会,東京町田市学長会議がある。設置学部別では,全国薬科大学長・薬学部長会議のような例もある。所在地に着目すると,特定エリア内の大学によるコンソーシアムも全国各地に設置されている。学長会議の名称を冠していないが,目的・活動内容は重なる。いずれも共通の特性を持つ大学同士が,相互の利益の実現・拡大をめざして活動している。活動内容は組織の目的・規模等に応じて多様であり,理事・教職員向け各種研修,行政機関への働きかけ,経営支援,国際交流,特定テーマの調査・研究活動等がおもな活動である。
著者: 夏目達也

[ドイツ]◎Hochschulrektorenkonferenz, Ordnung der Hochschulrektorenkonferenz(HRK), 2015.

[フランス]◎大場淳「フランスの大学間団体」,羽田貴史編『高等教育の市場化における大学団体の役割と課題』科学研究費補助金研究報告書,2008.

[イギリス]◎安原義仁「イギリス帝国大学間ネットワークの形成―1912年第1回帝国大学会議」,秋田茂編著『パクス・ブリタニカとイギリス帝国』ミネルヴァ書房,2004.

[アメリカ合衆国]◎Hugh Hawkins, Banding Together: The Rise of National Associations in American Higher Education, 1887-1950, The Johns Hopkins University Press, 1992.

[日本]◎公立大学協会『地域とともにつくる公立大学―公立大学協会60周年記念誌』,2010.

出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報

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