大兄(読み)たいけい

精選版 日本国語大辞典 「大兄」の意味・読み・例文・類語

たい‐けい【大兄】

〘名〙
① 兄を敬っていう語。また、自分よりやや年長、または同輩男性を敬っていう語。
古事談(1212‐15頃)一「先是有童謡云。大枝を超て奔超て騰躍起て、我が護る田にて捜あさる。〈略〉大枝謂大兄也」
吾輩は猫である(1905‐06)〈夏目漱石〉二「一寸参堂仕り度候へども大兄の消極主義に反して」 〔呉志注‐呂蒙伝〕
書紀(720)天武二年八月(北野本南北朝期訓)「高麗上部位頭(しゃうほうゐとう)大兄(タイクイ)邯子・前部大兄(タイクイ)碩干等を遣して朝貢る」

おお‐ひん おほ‥【大兄】

〘名〙 (「ひん」は「兄」の唐音、「こうほうひん(孔方兄)」の略)
① たくさんの金。大金
② 金をたくさん持っている人。大金持
浄瑠璃極彩色娘扇(1760)六「大ひんならよけれ共茄子(なすび)ぢゃによって、つひ素戻り」

おいね おひね【大兄】

〘名〙 (「おおいね」の略) 皇子(みこ)おおえ。普通、人名に付けて用いられる。
※書紀(720)皇極二年一一月(図書寮本訓)「山背大兄(オヒネ)、仍りて馬の骨を取りて、内寝(よとの)に投(な)げ置く」

おお‐え おほ‥【大兄】

〘名〙 同母兄弟中の長子長兄。おいね。おおあに。
※書紀(720)皇極二年一〇月(図書寮本訓)「古人大兄(オホエ)を立てて天皇と為」

おお‐あに おほ‥【大兄】

〘名〙 最年長の兄。長兄。伯兄。〔改正増補和英語林集成(1886)〕

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デジタル大辞泉 「大兄」の意味・読み・例文・類語

たい‐けい【大兄】

兄を敬った言い方。
男性が、自分より少し年上、または同輩の男性を敬っていう語。主に手紙に用いる。
[類語]けい学兄貴兄賢兄貴殿貴台貴下貴君貴所貴公足下御身貴女

おお‐え〔おほ‐〕【大兄】

兄弟のうち、年長の者。
皇子につける尊称。特に、律令制以前、6、7世紀ごろの皇位継承資格者の称といわれる。
[補説]日本書紀の古訓に、「大兄」を「おひね」とよんだ例がある。

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改訂新版 世界大百科事典 「大兄」の意味・わかりやすい解説

大兄 (おおえ)

6~7世紀のころ,皇位継承の資格をもつ皇子に対して与えられた称号または呼び名。継体天皇の子勾大兄(まがりのおおえ)皇子,欽明天皇の子大兄皇子,舒明天皇の子中大兄皇子は,いずれも即位して安閑,用明,天智の諸天皇となった。このように多くは天皇(大王)の子であるが,聖徳太子の子が山背大兄王と呼ばれた例もある。実例ではいずれも長子であるが,后妃が2人以上ある場合,后妃それぞれの長子が大兄となりえたため,欽明には大兄皇子のほかに箭田珠勝(やだのたまかつ)大兄皇子,舒明には中大兄皇子のほかに古人大兄皇子があったように,1人の天皇に2人以上の大兄の存在が可能である。そのため大兄制は,中国的な長子相続制と日本固有の兄弟相続制のくみあわせといわれるが,皇位継承の争いを激化させる面をもつ。その欠点をなくすには,后妃の序列を定め,皇后(大后)を立て,大兄を1人にしぼればよいわけで,7世紀中葉以降,大兄制は大后制とのくみあわせで皇太子制となり,大兄の称号は消える。大兄制は古代国家確立の過程に消長した皇位相続制である。
皇位継承
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

山川 日本史小辞典 改訂新版 「大兄」の解説

大兄
おおえ

大王位継承者もしくはたんに長子を示す語。従来は,5~7世紀前半に大王位継承候補者に与えた称号とする説が有力であったが,大兄とは元来長子という意味しかもたず,地方豪族であった継体天皇の即位後,尾張氏所生の勾(まがり)皇子(安閑天皇)が他の大王位継承資格者に対抗する手段として導入されたとの説がだされている。

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