大仏次郎(読み)おさらぎじろう

精選版 日本国語大辞典 「大仏次郎」の意味・読み・例文・類語

おさらぎ‐じろう【大仏次郎】

小説家。本名野尻清彦。横浜市出身。東京帝国大学卒。大衆文学向上につとめ、知識層を含め幅広い支持をうけた。文化勲章受章。代表作に「鞍馬天狗」「赤穂浪士」「帰郷」など。明治三〇~昭和四八年(一八九七‐一九七三

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デジタル大辞泉 「大仏次郎」の意味・読み・例文・類語

おさらぎ‐じろう〔‐ジラウ〕【大仏次郎】

[1897~1973]小説家。神奈川の生まれ。本名、野尻清彦。「鞍馬天狗」で大衆作家として認められる。著「赤穂浪士」「帰郷」「パリ燃ゆ」「天皇の世紀」など。文化勲章受章。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「大仏次郎」の意味・わかりやすい解説

大仏次郎
おさらぎじろう
(1897―1973)

小説家。明治30年10月9日横浜生まれ。本名野尻(のじり)清彦。長兄に野尻抱影(ほうえい)がいる。東京府立第一中学校から旧制第一高等学校を経て東京帝国大学政治学科に学ぶ。大正デモクラシーの洗礼を受け、それ以後リベラルな立場をとる。一高在学中に『一高ロマンス』(1917)を出版。大学卒業後、外務省条約局に勤めたが、関東大震災を機に文筆に専念。鎌倉、長谷(はせ)大仏裏に住んでいたため大仏の筆名を用いる。1924年(大正13)『鬼面の老女』を皮切りに『鞍馬天狗(くらまてんぐ)』の連作を執筆、26年に初めての新聞小説である『照る日くもる日』を『大阪朝日新聞』に連載、27~28年(昭和2~3)『東京日日新聞』に執筆した『赤穂浪士(あこうろうし)』で大衆文壇の花形となった。時代物に『由比(ゆい)正雪』(1930)、『乞食(こじき)大将』(1944~46)などがある。31年に東京・大阪の両『朝日新聞』に連載した『白い姉』以後、風俗小説の分野でも活躍。『霧笛』(1933)など開化物を経て第二次世界大戦後の『帰郷』(1948。芸術院賞)に大成された。またフランス第三共和政下の政治的諸事件を扱った『ドレフュス事件』(1930)、『ブゥランジェ将軍の悲劇』(1935)、『パナマ事件』(1960)や、パリ・コミューンを描いた『パリ燃ゆ』(1961~63)があり、幕末から明治へかけての変革を実証的にとらえた『天皇の世紀』(1967~73。未完)も優れた業績である。児童文学、戯曲、随想なども多く、市民的良識を感じさせる。60年(昭和35)芸術院会員。64年文化勲章受章。昭和48年4月30日没。横浜に大仏次郎記念館がある。なお、没後、優れた著作に与えられる大仏次郎賞が設けられた(1973創設、翌年第1回)。

[尾崎秀樹]

『『大仏次郎自選集 現代小説』全11巻(1972~73・朝日新聞社)』『『大仏次郎随筆全集』全三巻(1973~74・朝日新聞社)』『『大仏次郎時代小説全集』全24巻(1975~77・朝日新聞社)』『『大仏次郎戯曲全集』全一巻(1977・朝日新聞社)』

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改訂新版 世界大百科事典 「大仏次郎」の意味・わかりやすい解説

大仏次郎 (おさらぎじろう)
生没年:1897-1973(明治30-昭和48)

小説家。横浜生れ。本名野尻清彦。英文学者の野尻抱影は長兄。東京帝大法学部政治学科卒業。1917年,高校在学中に《一高ロマンス》を出版,大学卒業前後にロマン・ロランの反戦文学作品を3冊翻訳出版するなど,青年時代から文学活動を始めた。関東大震災を契機として勤務先の外務省を退いて作家生活に入り,24年に大衆文芸誌《ポケット》に連載を始めた《鞍馬天狗》によって認められた。このあと,《照る日くもる日》(1926-27),《赤穂浪士》(1927-28),《ごろつき船》などの新聞小説が続いた。いずれも江戸時代に舞台を借りて現代人の自由,変革への意欲を間接的に表現した時代小説で,娯楽読物でありながら,新しい社会層であるサラリーマン階層の知的欲求に応ずる内容を有していた。さらに《ドレフュス事件》(1930)によってノンフィクション,《白い姉》(1931),《雪崩》(1936)によって現代小説,《霧笛》(1933)によって開化物と,新分野が開拓されていった。戦後の円熟期には,現代小説《帰郷》(1949)による芸術院賞受賞,芸術院入会,文化勲章受章(1964)と栄誉が続いた。戦後の作品には,戦前からの3系列のほか《若き日の信長》(1952)など新作歌舞伎,《小さい隅》(1958-72)ほかの随筆が加わる。晩年には,記念碑的パリ・コミューン史《パリ燃ゆ》(1961-64),ついで近代日本の開幕を叙述した《天皇の世紀》(1967-73)がある。
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百科事典マイペディア 「大仏次郎」の意味・わかりやすい解説

大仏次郎【おさらぎじろう】

小説家。本名野尻清彦。星の研究で知られる英文学者野尻抱影は兄。横浜生れ。東大法学部政治学科卒。外務省に入るが関東大震災を機に退職,文筆に専念。1924年の《鞍馬天狗》以来,大衆文学の質を高め,新しい分野を開拓する清新な作品を次々に発表。《赤穂浪士》《帰郷》《宗方姉妹》のほか,《ドレフュス事件》のような社会批判をこめた作品や,パリ・コミューン史《パリ燃ゆ》などがある。1964年文化勲章。
→関連項目直木三十五文芸倶楽部

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「大仏次郎」の解説

大仏次郎 おさらぎ-じろう

1897-1973 大正-昭和時代の小説家。
明治30年10月9日生まれ。野尻抱影の弟。はじめ外務省につとめる。大正13年からの「鞍馬天狗(くらまてんぐ)」の連作でみとめられ,「赤穂(あこう)浪士」で大衆文学のイメージをかえた。昭和25年「帰郷」で芸術院賞。「パリ燃ゆ」,絶筆「天皇の世紀」などの史伝ものこした。芸術院会員。39年文化勲章。44年菊池寛賞。昭和48年4月30日死去。75歳。神奈川県出身。東京帝大卒。本名は野尻清彦。
【格言など】死は救いと言いながら,そうは悟りきれぬものである(「砂の上に」)

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「大仏次郎」の解説

大仏次郎
おさらぎじろう

1897.10.9~1973.4.30

大正・昭和期の小説家。本名野尻清彦(のじりきよひこ)。神奈川県出身。星の研究家野尻抱影(ほうえい)の弟。東大卒。女学校教諭・外務省勤務をへて作家生活に入る。国民的英雄を造形した連作「鞍馬天狗」(1924~59),市民精神をうたう西洋史伝小説「ドレフュス事件」,戦後への批判をこめた現代小説「帰郷」など,知性と良心に裏づけられた多面的な創作は,大衆文学の品性を高めた。絶筆は史伝「天皇の世紀」。文化勲章受章。

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旺文社日本史事典 三訂版 「大仏次郎」の解説

大仏次郎
おさらぎじろう

1897〜1973
大正・昭和期の小説家
本名野尻清彦。神奈川県の生まれ。東大卒。『鞍馬天狗』の連作や『赤穂浪士』などで大衆文学に確固たる地位を築く。そのほか『パリ燃ゆ』など歴史文学に力作を発表,『天皇の世紀』連載中死去。晩年にはナショナル ‐トラスト運動を紹介した。1964年文化勲章を受章した。

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世界大百科事典(旧版)内の大仏次郎の言及

【赤穂浪士】より

大仏(おさらぎ)次郎の長編小説。1927‐28年(昭和2‐3),《東京日日新聞》に連載。…

【鞍馬天狗】より

…大仏次郎の連作時代小説で,短編《鬼面の老女》(1924)から《西海道中記》(1959)まで36編の作品をさす。いずれも鞍馬天狗を主人公としている。…

【ナショナル・トラスト】より

…こうしてナショナル・トラストは,イギリスにおける民間最大の土地保有機関となっている。 日本でも1960年代から大仏次郎らによってナショナル・トラストが紹介されたが,実際上はそれに匹敵する大規模な組織はいまだ生まれていない。北海道斜里郡斜里町の100m2運動,和歌山県田辺市天神崎の市民地主運動をはじめ,多くのなぎさ買収計画や町並保存計画等が知られる。…

【若き日の信長】より

…3幕4場。大仏次郎作。1952年10月東京歌舞伎座初演。…

※「大仏次郎」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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