夢野の鹿(読み)ゆめののしか

精選版 日本国語大辞典 「夢野の鹿」の意味・読み・例文・類語

ゆめの【夢野】 の=鹿(しか)[=牡鹿(おじか)

① 摂津国菟餓野(とがの)に住んでいたある鹿についての伝説。また、その鹿。菟餓野の牡鹿が、自分の背に雪が降り積もり薄がはえる夢を見て、それを妻の牝鹿に話したところ、牝鹿はかねがね夫が淡路島野島に住む妾のもとに通うのを妬んでいたので、この夢を「薄は矢が立つこと、雪は殺された後で白塩を塗られること」と占って、夫が妾のもとに行くことをとめた。夫は聞き入れないで淡路島へ出かけ、途中で射殺されたという。こののち菟餓野は夢野と改名された。「書紀‐仁徳三八年七月」の条や「摂津風土記」逸文に見える伝説で、のち和歌などにもよく詠まれている。《季・秋》
山家集(12C後)上「夜を残す寝覚に聞ぞ哀なるゆめののしかもかくや鳴くらん」
② 気にかかっていた物事が予感通りになること。心配していた事柄が現実となって現われることのたとえ。
※浄瑠璃・義経千本桜(1747)三「でかいたでかいた。内侍六代生捕たな。ハテよい器量。夢野の鹿(シカ)で思はずも、女鹿子鹿の手に入るは」

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デジタル大辞泉 「夢野の鹿」の意味・読み・例文・類語

ゆめの‐の‐しか【夢野の鹿】

夢野(現在の神戸市兵庫区湊川の西)にいたという夫婦の鹿。また、その伝説。日本書紀の仁徳38年や摂津国風土記に見える。昔、夢野に夫婦の鹿がおり、牡鹿には淡路の野島にめかけの鹿がいた。牡鹿はある夜、自分の背に雪が降り、すすきが生える夢を見た。牝鹿は妾のもとに通うのを妬んでいたので、この夢を射殺される前兆の夢だと占って、野島に行くのをとめた。しかし、牡鹿は妾の鹿恋しさに野島へ向かい、その途中の海で船人に見つかり、射殺されたという。

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