多情仏心(読み)タジョウブッシン

デジタル大辞泉 「多情仏心」の意味・読み・例文・類語

たじょうぶっしん【多情仏心】[書名]

里見弴さとみとん小説。大正11~12年(1922~23)発表。主人公藤代信之の女性遍歴を通して人間真心を描く。

たじょう‐ぶっしん〔タジヤウ‐〕【多情仏心】

感じやすく移り気であるが、人情にあつい性質
[補説]書名別項。→多情仏心

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精選版 日本国語大辞典 「多情仏心」の意味・読み・例文・類語

たじょう‐ぶっしん タジャウ‥【多情仏心】

[1] 〘名〙 感じやすく移り気だが、薄情なことができない性質。
溜飲を下ぐ(1935)〈丸山幹治〉望月圭介氏の顔「人生意気に感ずる多情仏心彼氏といへども」
[2] 小説。里見弴(とん)作。大正一一~一二年(一九二二‐二三)発表。弁護士藤代信之の恋愛遍歴と多情のうちにも真心に徹した生き方を描き、作者の「まごころ哲学」をよく表わしているとされる。

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改訂新版 世界大百科事典 「多情仏心」の意味・わかりやすい解説

多情仏心 (たじょうぶっしん)

里見弴(とん)の長編小説代表作。1922年(大正11)から23年にかけて《時事新報》に連載挿絵小村雪岱。真心が存する限り,どんなことをしてもよしとし,その真心どうしがぶつかり合うとき至上の幸福があるとする〈まごころ哲学〉を持つ主人公藤代信之が,5年足らずの間,芸者おかみ女優などの多くの女性と恋愛遍歴をし,それらの女性の多くにとりかこまれながら,40歳前後ではあるが,大満足でその生を終える物語である。今様の光源氏のような人物の恋愛絵巻であるが,それぞれの女性の恋愛に賭ける心理はよく描かれている。そしてそれによって身勝手な男性中心の〈哲学〉が批評されているかに見える。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「多情仏心」の意味・わかりやすい解説

多情仏心
たじょうぶっしん

里見弴(とん)の長編小説。1922年(大正11)12月から翌年12月まで『時事新報』に連載、24年4月(前編)および8月(後編)新潮社刊。自分の「一生の仕事」を、「本気で惚(ほ)れ、女にも本気で惚れさせることだつた」と確信する弁護士藤代信之(ふじしろのぶゆき)が主人公。多彩な女性遍歴を重ねながらも、真心を尽くして生きてきたと自負する彼は、関東大震災の日の明け方に、「心からしたいことをする分には、何をしたつていゝのだ」と言い遺(のこ)して安らかな臨終を迎える。「多情乃(すなはち)仏心」という句に想を得て、作者のいわゆる「まごころ哲学」=「誠実至上主義」を具象化し、強引と思われるほど縦横に展開した作品。2000枚に及ぶ大作で、大正末年の享楽的な風俗描写が生彩を放っている。

[宗像和重]

『『多情仏心』(新潮文庫)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「多情仏心」の意味・わかりやすい解説

多情仏心
たじょうぶっしん

里見 弴の長編小説。 1922~23年発表。主人公藤代信之は「己に忠実に,実感をもって認識を深め,そして偽るところなく赤裸に行け」という作者の主張する「まごころ哲学」の実践者である。そのために「本気で女に惚れ,女にも本気で惚れさせること」を一生の仕事と考え女性遍歴を重ね,そのために殺人を犯した不良少年西山普烈の行動を容認する。自我主義の人生観を堅持する作者の代表作。

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四字熟語を知る辞典 「多情仏心」の解説

多情仏心

物事に感じやすく移り気ではあるが、薄情なことができない性質をいう。

[解説] 「仏心」は仏の慈悲心のこと。

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